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天 球 儀

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蒼天の系譜 【第二幕】 ...03

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【第二幕】 エルフと盗賊


03



 セリアが医者を呼び、ティアラを見てもらっているほんの一、二時間ほどで、酷く不機嫌そうな顔をしたレンとどこか疲れたような顔をしたユウが宿へと戻ってきた。
 二人があまりにも辟易しているその理由を聞きたいのは山々だったが、とりあえず医者が話をしたいらしいからと、まずはティアラの容態の方から話を聞くことにした。
 宿の一室に戻ると相変わらず眠ったままのティアラのベッドの脇に、 若い医者らしき男性と、その助手であろう女性が顔を上げて初見の二人にそれぞれ自己紹介をし、医者の方がクリス、助手らしき女性はアンと名乗ると、アンは深く被っていた帽子をおもむろに脱いで頭を下げた。帽子を脱いだアンを三人が自分たちの紹介もそこそこに、ぽかんと間の抜けた顔をして見つめる。三人の表情にアンは、驚かせて申し訳ありません、と小さく笑みを浮かべた。
 色白で整った顔立ち、若草色の髪に青い瞳のアンの耳は、人間の耳よりも長くぴんと伸びている。それは紛れもない、エルフと呼ばれる妖精族の証だ。


「本当は色々と順を追ってお話しなければならないのですが、とりあえず先にこの方のお話をさせていただいてもよろしいですか?」


 物悲しそうな微笑を浮かべるアンをぽかんと見ていた三人にクリスが声をかけると、ようやく三人は我に返って慌ててうなずいた。それを確認したクリスがアンを振り返ると、彼女はうなずいて三人を順繰りに見回し、よく聞いてください、と念を押して話を始めた。


「この方……ティアラ様のお体にはどこにも異常は見受けられません。問題があるのはおそらく心、精神の方です。この方の中には本来人間には存在しないはずの力を感じます。おそらくそれのせいではないでしょうか」

「どうしてあなたにそれが分かるの?」


 説明したアンを、疑わし気に目を細めてセリアが凄む様に眉間に皺を寄せた。凄まれたアンはおびえた様に肩をすくませ、あの、と何か言いかけてでもすぐに口をつぐんだ。
 言われたことはにわかに信じがたいことではあるし、いきなりそんなことを言われてもすぐには受け入れられないが、それでも現状自分たちではティアラをどうすることもできないのだから、ひとまず打開策を知っているであろうこのエルフの娘の話を最後まで聞くしかない。
 こういうおどおどと気弱そうな態度の人間が好きではないセリアからしてみれば、アンの存在自体が気に入らないのだろうが、ユウはひとまずセリアをなだめて、アンに続けて下さいと促した。
 申し訳なさそうに笑ったユウの顔をアンはじっと見つめ、一瞬隣のクリスに向かって確かめる様に視線を向けた後、一呼吸おいて彼女は話を続けた。


「実は……ティアラ様の中に精霊の存在を感じるのです」

「精霊?」

「はい。精霊は本来、人の中に存在することはありません。人は創造神の造りしもの。精霊は精霊神の造りしもの。お互いまったく別の存在ですから、人間の中に精霊が存在することはあり得ない、というかできないはずなのです」

「それがどうしてティアラの中に?」


 首をひねったユウに、アンも分かりません、と申し訳なさそうに首を振った。


「この方のご事情まで私には……。ただエルフは精霊神から特別な許しを得て、精霊を使役することを許されています。ですからその関係で、精霊の存在を感知することができるのです。私にわかるのは、確かにこの方の中に精霊の存在を感じる事だけ。彼女自身が分かっているかどうかは分かりませんが、何らかのきっかけでその存在が強く出過ぎてしまって当てられている状態なのではないかと」


 アンの説明に三人そろって訝し気に眉をひそめた。
 魔法を使用するのに必要な力の根源マナ。そのマナが集まり形を成たものを精霊と呼ぶ。精霊は様々な属性に分かれており、光と闇の2大精霊、その下に火、水、風、土と続きさらに枝分かれしていく。そしてこの地上における自然を形作っているのが精霊だと言われている。マナから生まれた精霊はありとあらゆる自然に息づき、この世界を形作りそして再びマナへと還元していく。そしてその精霊を束ねているのが精霊神ルビスだ。
 神話では世界を創造し、人の形を成すもの、すなわち人間や妖精を生み出してその地に住まわせたのが創造神ガイア。そしてガイアを手伝い、人の住みやすい環境を精霊を放つことによって造り出したのが精霊神ルビスだとされている。
 その神話が本当ならば、造り出した神が違うのだから当然、人間と精霊は存在としては全く別のものになる。同じ空間で同時に存在することはできても、同じ個体に同時に存在することはまずあり得ないということだ。それがティアラの中には存在している。そしてそのせいで彼女が目覚めない。
 話としては複雑な内容ではあるが、ここで彼女の中に存在しているもののことを議論したところで、結論はもちろん出るはずがない。とにかく今欲しいのは、どうすれば彼女が目を覚ますのかという情報だ。にわかには信じがたい内容だとしても、今はこのエルフの娘を信じるより他に、ユウたちには手だても情報もない。


「どうすれば目覚めるんですか?」


 沈痛な面持ちになったアンにユウがたずねると、アンはちょっとだけ視線をさまよわせ、クリスを見上げた。クリスが優しげに笑って頷くと、アンは意を決したようにユウに向き直り、方法はありますとしっかりとした口調で告げた。


「夢見るルビーがあれば……エルフ族が精霊神からいただいたものなのですが、彼女のように精霊の強い気にあてられた者を回復させる作用があります。……ですが……」

「なに?」


 最後に言いよどんだアンにセリアが食い下がる。眉を吊り上げるセリアにアンが肩を落として申し訳ありません、と消え入りそうな声で謝った。
 再びおびえて縮こまってしまったアンに、目に見えて苛立っているセリアを押しとどめ、レンが代わりにそれで? とすっかり怯えてクリスの背中に隠れてしまったアンの代わりにクリスに問いかけた。


「その夢見るルビーとやらは、どこにある?」

「それが……あの……実は僕たち……駆け落ちしてきたんです」

「……で?」


 片眉を吊り上げてレンが多少、怒気をはらんだような声で先を促した。ユウはなんとなく、微妙に嫌な予感がした。そしてそれを、レンも少なからず感じているようだ。
 いきなり出てきた全く繋がらないような話ではあるが、ここでそれを口にするということは、何らかの関わりがあることなのだろう。そしてそれは、彼らの躊躇いがちな話し方から察すれば、あまりよい展開ではないだろうことが予測できる。


「でも、村を出てきたのはいいけどどうしたらいいか分からなくて……それで途方にくれていたら、たまたまある村で会った盗賊が色々と世話をしてくれたので、お礼にと彼女が里を出る時に持って出たそれを渡してしまったんです」


 案の定、クリスが続けた言葉は、ユウたちを落胆させるには十分な破壊力だった。
 最後にすいません、と消え入りそうな声でクリスは付け加えたが、レンは深いため息をついてガックリと肩を落とし、ユウの肩を叩いて会話をバトンタッチした。ユウは心底申し訳なさそうな顔をするクリスに困ったように笑いかけ、レンの後を引き継いだ。


「その盗賊っていうのは? 顔なんか覚えてます?」

「あぁ、はい。名前はカンダタといって、この辺りでは有名な義賊です」

「カンダタだって!?」


 クリスの言葉に、ユウとレンの悲鳴のような大声が重なった。その場にいた全員がびっくりして身を強張らせる。
 声を上げて顔を見合わせ頷いている二人に、セリアが訝しげな顔でなんなのよ? と問いかけると、ユウが実は、と話し始めた。


「めんどくさいから細かいことは省くけど、ロマリア国王からそのカンダタを捕まえてきてほしいって頼まれたんだよ」

「な、なにそれ!? どういうことよ!?」

「いやまぁ、流れっていうかな……交換条件だったんだが、俺たちみたいな部外者に頼らなきゃならん程度には困ってんだよ。この国も」


 ムキになって怒り始めたセリアに、ユウが困った顔をしたので、レンが横から助け舟を出してセリアを宥めた。
 セリアはまだ納得行かないような表情をしていたが、額に手を当てて何度か呼吸し、どうにか気持ちを落ち着けさせてからどういうことかと、相変わらず表情は渋いまま呻くように言葉を絞り出した。


「どうやらあちらさんは、この国に代々伝わる金の王冠とやらを盗んで行ったらしい」

「へぇ……え? ってことは義賊が国王のもの盗んじゃったわけ?」


 セリアが一瞬感心したように頷いたが、すぐにぎょっとして目を見張った。彼女の反応にレンがそゆこと、と肩をすくめて続ける。


「さて、そこで問題なのは義賊が城で盗みを働いちまったってことだ。今はまだ国民にばれちゃいないが、もしばれたらどうなると思う?」

「どう……って……義賊って、あれよね? こう、悪い金持ちからお金を巻き上げて、それを貧乏な人たちに配る……みたいな感じでしょ?」

「まぁ、それが割りとポピュラーな解釈だよな。それが国に至ったってことは?」


 そこでようやく納得したのか、セリアはあぁ、と手を叩いた。


「国王が悪政を敷いてる、もしくは国に殉ずる人間が悪事を働いてる……仮にそうだとして、そんな人間を傍においてる国王も悪者ってことになるわね。これは不味いわ」

「だからさ、下手に兵でも動かしてばれるようなことになれば体裁が悪い。そこで俺たちが来た。こりゃいい機会だ……ってわけだ」

「なによそれ。交換条件なんて言って、いいように使われてるってだけじゃない」

「しょうがないだろ。俺たちだってなりふり構ってられないの。情報がなけりゃ、いつまでたっても足踏みなんだから。しかしまぁ、丁度いいといえば丁度いいな。そのカンダタとやらが何処にいるか知ってるか?」


 呆れた様な声を上げたセリアに、レンがハスを尖らせて珍しく拗ねた様な顔をし、ぽかんとして見ていたクリスとアンに向き直ってようやく話題が戻されてる。
 突然話を振られたクリスが一瞬きょとんとした後、話題を振られたのは自分だと言うことにすぐに気が付いて聞かれたことに首を横に振り、そこまでは、と再び申し訳なさそうな顔をした。


「ただ、僕らはカザーブの村で会いましたから……この近辺を拠点としているのは間違いないと思います」


 クリスの言葉を受け、ユウがレンとセリアを見る。二人はユウの視線に黙ったまま頷く。ユウはそれを確認すると、眠り続けているティアラの頬にそっと触れた。その頬は洞窟で触れた時と同様に、ひんやりと冷たかった。
 つい先日まで普通に自分の隣で笑って話しをていたのに、どうしてこんなことに。瞳を閉じてただ静かに呼吸だけを繰り返すティアラを見つめながら、ユウはぼんやりと無邪気に笑うティアラの顔を思い出して、そこはかとない寂しさを感じた。
 自分と一緒にいて、彼女が少しでも笑ってくれたらいいと思っていた。それで彼女の今までの痛みがなくなるわけではないとしても、少しでも和らいでくれたらいいと。こんな目に合わせるために、一緒に連れてきたわけではないのに。
 自分の胸元に手を当てて、小さく握りしめる。そこには幼い頃彼女から貰ったペンダントが、以前と変わらずぶら下がっている。約束はまだ果たされてないどころか、ようやく果たそうと踏み出したばかりだ。
 きっと助けるから。また一緒に、笑って旅をしよう。冷たい頬をそっと撫で、そのまま額の髪を優しくかきあげて小さく口づけを落とし、ユウは未だ目覚めない彼女に小さく、小さく囁いた。


20160619 初稿


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