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天 球 儀

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蒼天の系譜 【第二幕】 ...01

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【第二幕】 エルフと盗賊


01



 王都ロマリアは、旅の扉のある祠を出て小さな森を抜け、街道を北上したその先にある。
 かつての人々はこの旅の扉を通り、街道を北上して王都へと向かっていたのだろう。しかし使う人のいなくなった今、街道は見る影もなく、敷かれた石畳は崩れて隙間から草が生え放題になっていた。
 お世辞にも良いとはいえない足場ではあったが、獣道を歩かされるよりはマシだな、とレンが苦笑交じりに肩をすくめた。
 そんなかろうじて道のある旧街道を、目を覚ます気配の見せないティアラを交替で背負いながら、ユウたちは一路ロマリアを目指した。幸いなことに途中、魔物にも遭遇することなく、祠を出て二日目の晩にはロマリアの城門に辿りつく事が出来た。
 出来ればすぐにでも国王に謁見を願い出たかったが時間も時間だった上に、未だに目覚めないティアラを連れて行くわけにも行かず、結局その日は宿を取ることに決め、一行は門兵に教えてもらった宿屋へと向かった。

 中央大陸においてロマリアは、経済や交流の拠点とも言える地だった。海に面した半島に城を置き街を構え、西はポルトガから、東はアッサラームを経てイシスからこの街へ人も物も集まり、そして世界へと散らばっていく。まさにすべての道はロマリアへ続いていると言っても過言ではなかったが、やはりバラモスの出現の影響もあり、現在は他国との交流もままならない状態となっていた。
 また大きな都市ということが逆に災いし、魔物に町や村を焼け出された人々が流れ込み、治安の悪化も招いてしまっている。
 街並みはさすがに大きな都市だけあってアリアハンにはない情緒が溢れてはいたが、少し路地を覗くとみすぼらしい格好をした女性や子供、酒瓶を片手にうずくまる老人、小競り合いする男たち、見るからに難民であろう人々がそこかしこに見受けられた。
 アリアハンはそれほど大きな大陸ではないし、人口もさほど多くはない。鎖国状態となっている今、外から難民が入ってくるということはまずないし、そもそも王都で難民と呼べるような人たちをユウは見たことがなかった。
 しかしロマリアは中央大陸でも一番大きな都市で、人口もアリアハン王都よりはるかに多い。大陸の規模的にも、全てにおいてアリアハンとは比較にはならない都市だ。
 点在する町や村の数も比ではないだろうことは想像に難くない。そんな町や村々から人々が一斉に逃げ出してくれば、いくら大きな都市だといえど、このご時世だ。全ての人々を受け入れ、職や居住地を与えてやることは容易ではない。
 宿屋に向かう途中、幼い姉弟は露店の食べ物を羨ましげに見つめている姿がふとユウの目に留まった。店主に追い払われて寂し気にトボトボと手をつないで路地裏へと歩いて行った姉弟は、服も顔も薄汚れていて顔にもまるで生気がない。バラモスさえ現れなければ、あの子供たちはもっと幸せに暮らせていたかもしれないと思うと、ユウは何ともいえない気持ちになった。


「レーベの村でも言ったが、これが今の世界の現状だ」


 宿の一室で食事をしながら、ユウが宿まで来る途中に見た難民たちの話をすると、レンが窓の外を眺めながらぽつりと呟いた。


「アリアハンはマシな方、というよりむしろ恵まれてるのね」

「まぁな」


 眉をひそめるセリアにレンが頷いた。
 大きな国ではないにしろ、環境に恵まれたアリアハンで寝食に困ることはほぼない。点在する小さな町や村は破棄されてはいるが、それでも人々は近隣の集落に移り住んで暮らしていくことができていることを考えれば、現状では最も恵まれた国であると言っても過言ではないかもしれない。
 先刻見かけた幼い姉弟を思い出し、ユウが小さく唇を噛んだ。自分の目で確かめて行けばいいというレンの言葉が、ようやく実感できた。バラモスを倒すということは結局、自分の大切な人たちを守るだけではなく、あの幼い姉弟のように苦しめられている人たちを助けることもできるかもしれないということなのだ。
 世界の為とか大それたことを言うつもりはないし、父の遺志を継ごうとも思わない。それでも、自分の目に留まった人たちが安心して暮らせるように出来ればいいと思えるきっかけにはなった。
 唇を噛んで考え込む様に俯いたユウに、レンがそれより、とベッドで依然として眠り続けているティアラに視線を向け、顔をしかめた。


「いくらなんでも寝すぎじゃないか?」

「そうね。外傷らしい外傷は見つからないのに……さすがにおかしいわ」

「明日、医者に見せるか。悪いがセリア、ロマリア王への謁見は俺とユウで行って来るから、ティアラを頼めるか?」


 レンの言葉にセリアが頷く。
 それを確認するようにレンも頷き、隣でフォークを手にしたまま思いつめたような顔をしているユウを、なんて顔してるんだと軽く小突いた。
 小突かれたユウが何するんだよ、と不満げに顔を挙げ、すぐにその表情を曇らせてそっとベッドに横たわるティアラに視線を向けた。


「……連れて来ない方がよかったのかな」


 独り言のように呟いたユウの言葉に、レンが眉根を寄せてため息をついて首を振った。


「終わったことや済んでしまった事に、あぁすればよかったとかこうすればよかったなんて言っても無意味だ。人間、何を選んだって絶対どこかで後悔する様に出来てるんだから、選んだ事に対していつまでもくよくよしてると、この先持たないぞ」


 呆れているのか怒っているのか判断のつかないレンの表情に、ユウは分かってるよ、と反論しようとして言葉を呑んで視線を逸らせた。
 後悔しないように選んだつもりでも、やっぱりもっと違う選択肢があったんじゃないかと考える。そうやってレンの言うとおり、何を選んだって結局はどこかで後悔するのだ。なら選んだ選択肢で後悔しそうになっても、もっとよくなるような道を探した方がいい。前に進むというのは、たぶんそういうことだ。
 ユウは逸らしていた視線をレンに戻し、そうだよな、と自嘲気味に笑った。


「ごめん、レン」

「よしよし、俺はお前のそういう、単純なところは好きだぞ」

「たん……」

「バカねぇ、素直って言ってあげなさいよ」

「……つまりセリアもそう思ってるってことかよ」


 小ばかにしたような笑みを浮かべたレンに、ユウが愕然とした顔をした。向かいに座ったセリアもテーブルに両肘をついて、レンと同じような笑みを浮かべている。ユウがバカにしてるだろ、とハスを尖らせると、セリアがそんなことないわよ、と可笑しそうに笑った。


「カワイイって言ってんの」

「やっぱ、バカにしてる」


 セリアの最後の台詞にユウはとうとう拗ねた顔になり、食べ終わった食器にフォークを投げると席を立ち上がった。
 そのままもう寝る、とレンとセリアに背を向けたまま吐き捨てて部屋の扉の前まで来ると、一度ピタリと足を止めてセリアを振り返った。


「セリア、ティアラのこと頼んだから」


 拗ねてるのか照れてるのかよくわからない表情で呟いたユウの言葉に、セリアはにっこり笑って頷くと、おやすみなさい、と部屋を出て行くユウの背中に声をかけて手を振った。


「マセてるように見えて、やっぱまだ子供よねぇ。オネーサンの感性が分からないなんて」

「ま、お年頃って年代だしな……にしても」


 レンは面白がるように肩を揺らしてくつくつと笑いながら、ユウの出て行った部屋の扉を見ていたが、ふと笑みをひっこめてベッドに眠るティアラを見た。
 いざないの洞窟で意識を失ってから丸三日経つが、ティアラが目覚める気配は一向にない。さすがに丸一日経っても目を覚まさない事で不審には思ったが、特に頭を打ったり酷い怪我をしていたりする様子は見受けられなかった。単に疲れが溜まっているだけなのかもしれないが、それでも一度も目を開かないというのはやはりおかしい。


「あぁ、くそ……俺にも魔力がありゃぁなぁ」


 何かわかるかもしれないのに。頭を掻きながらレンがイラついたように言うと、セリアが何言ってんの、と呆れた顔をした。


「多少なりとも魔力があれば、武闘家なんてやってないでしょうが」

「いや、まぁ……そうなんだけど、な」


 呆れ顔のセリアに、レンは少し寂しそうな笑みを浮かべてそういう話じゃないんだよ、と肩をすくめる。
 レンの言いたいことがよくわからず、セリアが少しむっとしたような表情を浮かべると、レンは慌ててあのな、と言葉を続けた。


「国に母親と妹いるんだが、この二人は魔法が使えるんだよ。でも俺だけさっぱりでさ……まぁ、ある意味落ちこぼれって言うかな」


 レンの言葉にセリアが驚いたように目を見開いた。


「落ちこぼれ? あんたが?」


 かなり意外だったらしく、信じられない、とセリアが顔をしかめる。信じてもらえないレンがそうだよ、と苦笑いを浮かべた。


「もっとも"魔法では"ってだけで、魔法が使えない分違うことを極めてやろうって思ったから、今の職をやってるわけだがな」

「へぇ~知らなかった」

「だって言ってないし」


 感心したように頷くセリアに、レンがしれっとした顔で答えたので、セリアがカチンと来てその勢いでそのままレンの胸倉を掴み、なんですって? と顔を近づけて凄んだ。
 レンは顔を引きつらせて、なんでもございません、と首を振り、胸倉を掴んでいるセリアの手を離させると、おまえだって、とちょっと意地の悪そうな視線をセリアに向ける。


「自分のことあんまり話さないだろ」

「まぁ……別に、私は特別なこともないしね」

「出身どこっつったっけ? エジンベア?」


 痛いところを突かれたらしく、セリアが一瞬強張って困ったように笑って頷いた。


「これでも騎士の一家に生まれたそれなりのお嬢様だったのよ。一番最後に生まれた最初で最後の女の子だったからさ、そりゃもう蝶よ花よと育てられたわけ」

「それがなんで今は、蝶とも花とも縁遠い人間になってるんだ?」

「喧嘩売ってる?」


 思ったことをウッカリ口にしてしまったレンに向かって、セリアが冷ややかな目のまま口元にだけ笑みを浮かべて首をかしげる。 レンはスイマセンでしたと口だけで謝り、それで? と話の続きを促した。
 なんとなく腑に落ちないような顔をしたセリアが、椅子の背もたれに寄りかかりながら腕組みをし、じっとりレンを睨んでいたが、やがて諦めたようにため息をついた後、再び口を開いた。


「でもねぇ……上の兄貴たちや父を見て育ってきてるから、やっぱり騎士っていうのは憧れだったのよ。でもうちの国、女は騎士になれないの」

「そんで、家出してきたと」


 セリアの言葉を受けてレンが続けると、そういうことね、とセリアがため息をついた。


「この歳になって、両親には申し訳ないことをしたと思ってるわ。さっきのあんたの言葉じゃないけど、騎士になったことに後悔はないの。でもね……親不孝したなぁって思うと、ちょっと、ね」


 セリアが苦笑いを浮かべて肩をすくめた。
 どうしてもあこがれた騎士になりたくて、でも家族は誰一人いい顔はしてくれなかった。当然だろう。女は家庭を守り子供を育てながら戦に出た男たちの帰りを待つ、というのが自分の国では当たり前だった。だからもちろん、セリアにもそうあって欲しいと両親は願った。
 けれどセリアは、父や兄たちと同じようになりたかった。国を守り家族を守り、その命を賭して戦う姿に感銘を受け、自分もいつか大切な人たちを守れるようになりたいと思った。しかし自分の国ではどうすることも出来ない。でもどうしても夢は捨てられず、16歳の誕生日を迎えてすぐに家を飛び出してきた。


「噂でアリアハンなら女でも実力さえあれば入隊させてくれるって聞いて、それで私はアリアハンへ渡ったのよ。 歯を食いしばって、それこそ血反吐を吐くような努力をして、やっと今の地位を手に入れた。だからそのことは、全然後悔なんてしてない」


    でも。

 愛情を注いで育ててくれた両親や家族を裏切るような形で国を出てきてしまったことは、今でも心のどこかに引っかかっていた。
 認めてはもらえないかもしれないけれど、でもせめて今の自分を見て欲しいとは思う。両親の願う形ではなかったけれど、今の自分にはとても満足しているし十分幸せであると、いつか伝えられたらどんなにいいかと時々思うこともある。


「なら、この旅が終わったら行って来ればいい。バラモスを倒したら、胸張って堂々と自分は誇れることをしたんだって帰ればいい」


 信念を持って、そしてそれを貫いてきたのだと。例えそれを両親が否定したとしても、自分は誇れることをしてきたのだと。堂々と胸を張って。
 セリアの独り言のような言葉を、黙ってじっと聞いていたレンが、そこでようやく口を開いた。ぽかんと呆けたような顔をするセリアに笑いかけ、そうだろ? と首をかしげる。



「そうね、そうする」


 きょとんとしていたセリアもレンと同じように微笑んで頷いた。


「さて、俺らもそろそろ寝るか。明日は明日で忙しいしな」

「そうね。明日、陛下の親書忘れずに持っていってよ」


 お互い顔を見合わせて笑って頷きあい、レンがおもむろに立ち上がって大きく伸びをした。
 立ち上がったレンを見上げてセリアが釘を刺すと、わかってるよ、とレンが苦笑いしながら部屋を出る。部屋を出て、そのまま深いため息をつきながら、今しがた出てきた扉に寄りかかってレンは天井を見上げた。


「俺も人の事は言えないな」


 天井を見上げながら誰に言うでもなく、ぽつりと呟く。
 恥じることをしてきたつもりはない。自分で選んで進んできた道だ。後悔もしていない。だけど時々思う。残してきた者たちは何を思い、どう生きていくのか。自分はいい。好き勝手に生きてきたのだから。では、後に残された者たちはどうなるのか。今さらそんなことを考える。戻ることのない時を思って、罪悪感に駆られることもある。
 だからセリアに向けた言葉は、自分に向けた言葉でもあるのだ。いつか胸を張って、自分はあなたに恥じない生き方をしてきたのだと伝えられたら。
 レンはそのまま暫く思案するように天井を見上げていたが、やがて自嘲気味に笑いもう一度ため息をつくと、ゆっくり自分の寝室へ向かって歩き出した。


20160603 初稿


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