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天 球 儀

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蒼天の系譜 【第一幕】 ...08

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【第一幕】 遥かなる旅路へ


08



 レーベで魔法の玉を手に入れてからちょうど2週間。アリアハンを経ってもうすぐ一ヶ月になろうとしていた。
 季節は春から徐々に移り変わっていき、足を踏み入れた森では新緑の木々がすでに夏の準備を始めている。 そんな深い森を抜けた先に、崩れかけたような洞窟の入り口が名前の通り、まるで旅人を誘うかのようにぽっかりと口をあけていた。
 洞窟へ踏み込む前に休憩を取ることになりはしたが、木陰でぐったりと木に身体を持たれかけさせているティアラを見たユウが、かがみこむ様に彼女の顔を覗き込んだ。


「ティアラ、顔色悪いけど……」


 大丈夫か、と続けようとしてユウは言葉を切った。 見るからに具合の悪そうな人間に向かって、大丈夫? などと聞いても詮無い事だ。力なく地べたに座り込んで木に寄り掛かるティアラの顔色は、明らかに悪い。

 そういえば、とユウは顔色の悪いティアラを見て思い出す。
 子供の頃一緒に遊んだ時も、長い廊下を半分も駆けないうちに息切れを起こしていた。同じ年頃の幼馴染たちと比べても、彼女は圧倒的に体力が劣っていたように思う。
 このメンバーの中で旅慣れているのはレンだけだ。 しかし慣れていないとはいえ、ユウもセリアも普段から鍛えているし、適度に休憩を挟みもしているので酷く疲労していると言うことはなかった。
 だがティアラに至っては、幼少の頃からほとんど外に出ることもなく育ってきたせいなのか、体力は幼児期の頃と同じように一般的な同年代の少女よりもむしろ低いようで、 本人は大丈夫だと言い張ってきたが、ここに来て溜まっていた疲労が出てきてしまったようだ。


「今日はここまでにしましょうか」


 ぐったりとしているティアラに水を差し出しながら、セリアが肩をすくめて傍で様子を見ていたレンを見上げた。レンが頷こうとした瞬間、ティアラはハッとしたように顔を挙げ大丈夫だから、と言いはしたが、掠れた声にも疲労感がにじみ出ているのは明らかだ。


「私なら平気。せっかくここまで来たんだから、早くロマリアへ行ったほうが……」

「足手まといを自覚するなら、無理を通そうと思うな。余計足手まといになるだけだ」


 見るからに無理をしているティアラに、レンが冷ややかな視線を向けて容赦ない言葉をかけた。 レンの言葉にティアラが酷く悲しそうな顔をしてごめんなさい、と小さくポツリと呟く。
 ユウは一瞬険しい顔をしてレンを見上げたが、彼の言うことも間違っているわけではない。彼女が旅についてくるということはそういうことなのだ。元々体力的にもユウたちとは差のあるティアラが、ユウたちと同じように旅をすること自体にそもそも無理があった。
 ティアラ自身も自分の体力が劣っていることはよく分かっている。それでもなんとかここまでついて来れたのは、他の三人がかなり自分に合わせて行動してくれているからだと言うことも分かっていた。きっと三人だけならもっと早くここまで来れたはずだ。 分かっているからこそ、これ以上の足手まといにはなりたくはなかった。
 肩を落として俯くティアラに、セリアが気にしなくていいから、と優しく微笑んだ。


「あんなこと言ってるけど、ホントはあんたのこと心配でしょうがないのよ。アイツ」

「聞こえてるぞ」


 ティアラの耳元に口をつけて囁いたセリアを、レンが鋭くと睨んだ。でも否定はしないので、セリアの言うことに間違いはないのだろう。口調は厳しくはあるが、厳しいだけではないのが彼らしいところだ。そのやり取りを見てユウも思わず笑ってしまい、レンにじろりと睨まれ首をすくめる。
 面白がるような笑みを浮かべながら、セリアはしょぼくれているティアラの頭をそっと撫で、大丈夫よと続けた。


「慣れるまでは少し辛いかもしれないけど、旅も続けていれば体力だってついてくるわ。ちゃんと私たちにもついてこれるようになるから。 ティアラの頑張る気持ちは十分、分かってる。だからこそ、今は無理をして欲しくないのよ」


 ね? とセリアは最後に首をかしげて俯いたままのティアラの顔を覗き込んだ。優しく微笑みかけてくれるセリアの顔をティアラは暫くじっと見つめると、力なく笑いながら小さく頷いた。


「ごめんなさい。レンも……ありがとう」


 弱々しく笑ってティアラがレンを見上げる。 さっきまでの冷たい表情とは違い、レンも優しげに微笑んで頷いた。


「どうする? 今日はここまでにしておく?」


 ぼちぼち日も傾き始めている。 西の空に沈みかけている夕日を、ユウがまぶしそうに手をかざして眺めながら首をかしげる。
 初夏に差し掛かり日暮れも城下を出た頃よりは遅くはなっているが、沈み始めればあっという間だ。レンは暫く思案するように夕日を見つめ、いや、と首を振った。


「ティアラには悪いが、洞窟に向かおう。中に入れば、明るかろうが暗かろうが同じだ。変に野宿するより、雨風もしのげるしマシだろう」


 そう言うとレンは、木にもたれかかって目を閉じているティアラに立てるか? と声をかける。 ティアラは暫く深呼吸した後、ゆっくり瞳を開いて頷いた。


「辛かったら、いつでも言いなさいね」

「そうだぞ。歩けなくなったら負ぶってやるからな。ユウが」

「俺かよ!」


 立ち上がり際、僅かにふらついたティアラを支えたユウが、直後に吐かれたレンの台詞に思わず声を上げる。
 ティアラは可笑しそうにひとしきり笑うと、自分を支えてくれるユウを上目づかいで見上げて、よろしくね、と小首をかしげて笑った。その仕草の愛らしさに何とも言えない複雑そうな笑みを浮かべ、ユウは曖昧な返事だけしておいた。

 実際、彼女は可愛いのだ。可憐という言葉が似合う、そういう容姿をしている。容姿だけでなく所作だって、ユウの知ってる同年代の少女たちとはまるで違う。幼少の頃の話だったとしても元は王族なのだから当たり前と言えば当たり前なのだろう。世が世なら今頃は王族として、社交界という華やかな世界の中にいたはずなのだ。そういう中で、将来の伴侶を見つけたりしていたかもしれない。彼女のその容姿なら、引く手あまただっただろうと思う。
 そんな、もしもを考えてふと思った。この旅の本懐を遂げて世界が平和になったとき、彼女はどうするのだろうか。滅んだとはいえ一国の王女だ。しかも自らの手で国を取り戻した英雄になる。国を再建するにしてもしないにしても、王侯貴族からの引く手はあまただろう。あわよくばネクロゴンドも領地にすることもできるのだから。それが例え彼女の想いなんか関係のない、政略的なものだとしても。今は自分と同じ立ち位置に甘んじてはいるが、本当ならそういう立場の人間なのだ。彼女は。
 ユウが考えたところで、それは彼女自身が決めることなのだからどうしようもないことだというのは分かる。それでも考えるのだ。彼女の立場を。自分の立場を。そしてその時、素直に彼女の決断を自分が受け入れられるかを。
 幼少の頃ほんの少しだけ一緒に遊んだだけの仲だったけれど、自分と一緒にいるときに見せてくれた彼女の表情は、ずっと記憶の端に焼き付いていた。その後の彼女に関する出来事が強烈すぎて、忘れることができなかっただけと言われればそうかもしれない。でもあの時交した約束は、決していい加減な思いでも同情でもなかったと今でも思う。
 もしかしたら恋とか愛とかそういう系統に属するものかもしれないし、あるいは家族への感情に近いものなのかもしれない。ただ一つはっきりしているのは、彼女を大切にしてあげたいということだ。それがどの感情からくる思いなのかは分からなくても。
 今はただはっきりしていることだけを考えればいいと、微妙に心の端に引っかかった未来への不安を振り払うように、ユウは自分に言い聞かせた。

 疲弊したティアラを庇うようにしながら足を踏み入れた洞窟は、外に比べて大分温度が低く、ひんやりとした空気が漂っていて心地よかった。
 けれど随分長いこと使われていなかったのか、洞窟の床はいたるところが崩れてぽっかりと穴を開けているところも多く、一行は回り道を余儀なくされ、挙句長い時間の間に住み着いてしまった魔物たちにも行く手を阻まれながらの探索になった。
 暑さがなくなった所為と、入ってすぐに長く取った休息のおかげか、ティアラは洞窟へ入る前よりも大分持ち直してはいたが、戦闘で魔法を使うたびに目に見えて疲弊していた。
 魔法は使うたびに精神力を削っていく。いくら手練れた術者といえど、立て続けに使っていけばそれだけ疲弊し、精神力が削られて行けばおのずと体力も消耗していく。
 いくら精神力が他者よりも高いとはいえ、体力に劣るティアラにはかなりの負担な筈だ。実際、最深部にたどり着いた頃のティアラは、すでに立っているのもやっとな状態だった。


「この壁か。おい、ユウ」


 最深部の広間の奥には不自然な壁が立ちふさがっていた。レンに呼ばれてユウは頷くと、皮袋からレーベの老人に預かった魔法の玉を取り出す。


「ティアラ魔法……あ、いいや。俺がやるよ」


 魔法の力でなければ作動しないのであれば、必然的に魔法の使える人間が扱うべきものだ。ユウはティアラを振り返ったが、セリアが持つ松明の炎に照らし出された彼女の顔はいつも以上に白い。おそらく今の状態で魔法を使えば昏倒しかねないだろう。
 ユウは自ら魔法の玉を手に立ちふさがる壁の前まで歩み出ると、一つ深呼吸して手のひらに意識を集中させる。
 徐々に自分の手のひらに熱が集まってくる感覚を感じ、ユウはゆっくり息を吸った。


「……万物の根源たるマナよ、我に力を。集いてここに火を灯せ」


メラの魔法を玉の唱えるのと同時に、小さな炎が生まれ導火線に火が灯る。


「離れてろ、よっ!!」


 じりじりと導火線が短くなるのを確認し、ユウが叫ぶのと同時に魔法の玉を壁に向かって放り投げ、自分も踵を返して距離をとって見守っている三人のもとへ猛然と走りこんだ。
 次の瞬間、まばゆい光が走ったかと思うと続いてすさまじい爆発音が辺りに響き渡り、その爆発の衝撃で広間の天井が音を立てて崩れ始めた。 長い時間を経て劣化してしまった洞窟内の作りはもろくなっており、今の爆発に耐えるだけの耐久度は残っていなかったようだ。


「……ってぇ……みんなだいじょう……」


 爆発の衝撃で軽く吹き飛ばされて床に伏せていたユウが、自分の上に降って来た瓦礫を払いのけながら立ち上がり、軽くほこりを払いながら身体を確かめる。幸い大崩壊を起こしたしたわけではないらしく、それなりの大きさの瓦礫は降って来たものの自分への被害はほぼないようだった。
 他の三人無事を確認しようと視線を上げた先では、セリアがぐったりしているティアラを抱き起こしているところだった。


「ティアラ!?」


 撒き散らされた瓦礫を飛び越えながらユウが駆け寄り、しゃがみこんでティアラの顔を覗き込む。幸いけがはないようではあったが、呼吸も浅くすぐに瞳を開く様子もない。動揺するユウにセリアが大丈夫よ、と小さく笑った。


「気を失ってるだけだから」

「でも……」

「軽くすっ飛ばされただけだ。怪我はないし、疲れの所為もあるだろう。ゆっくり休めば元気になるさ」


 セリアの腕の中でぐったりしているティアラの顔をユウが覗き込んでいると、それより、とレンがユウの肩を叩いて洞窟の奥を指差した。
 その指先につられるように立ち上がって視線を向けると、さっきまで立ちふさがっていた壁が崩れ、その奥に通路が続いている。通路の突き当りには、青白く光る何かが浮かび上がっていた。おそらくそれが、目指すところの旅の扉なのだろう。


「いよいよ、だな」


 レンの言葉にユウはゆっくり頷き、セリアが抱きかかえたティアラをもう一度振り返って、生気のない真っ白な頬にそっと手を伸ばした。触れた頬はひんやりとしていて、まるで人形のようだ。
 そのままセリアを見ると、セリアは小さく頷いてティアラの身体をユウに預けてきた。受け取った彼女の額にそっと唇を寄せれば、頬と同じようにひんやりとしていてまるで人形の様だった。血の気のない顔色が痛々しい。
 無理をするなと言われてもこの旅についてくると言った手前、彼女は彼女なりにこれ以上足を引っ張るまいとして気を張っていたはずだ。
 でも足手まといだなんて口では厳しいことを言っても、彼女の魔法はやはり戦力になることは間違いないので一概にそうだとも言えないし、レンもセリアもきっと彼女の気持ちや思いは分かっているはずで、だから無理を通そうとする彼女を責めたりはしない。
 仲間たちの言う通り、もう少し旅慣れればきっと違ってくるだろう。


「……今は少しでも休んで、また旅を続けよう」


 じっとティアラの額に頬を寄せてユウはそう小さく呟くと、先に旅の扉らしき光を覗き込んでいる二人に倣って、ティアラを落とさないようそろそろと光を覗いた。
 旅の扉は青白い光を放つ泉のようだった。だが泉のように覗き込んでみても自分の姿が写りこむ事はなく、不思議な渦を巻いていてまるで吸い込まれてしまいそうな気分になる。


「……これホントに大丈夫なのか?」


 ユウが並んで光を覗き込んでいるレンとセリアにうっそりと視線を送る。二人は同時に首をかしげて肩をすくめた。ようするにこの二人にもよく分からない、ということらしい。セリアはともかくレンが分からないというのが微妙に不安になる。
 怪訝な顔をするユウに、何が言いたいのか大方予想の付いたらしいレンが苦笑した。


「ま、案ずるより産むが易しってな」


 ユウの背中をたたいて、レンはどこかいたずらっぽく笑った。なんだろうかこの行き当たりばったり感。なんとなくげんなりもしたが、旅なんてそんなものかもしれない。綿密に計画を立てたところで、思わぬアクシデントなんていうものはいくらでも転がっているものだろう。特に範囲が広くなればそういうアクシデントに当たる確率も高くなる。それも自分が成長するための糧の一つだと思えばいいのだ。
 ユウはもう一度旅の扉と向き合って、僅かに唇を噛んだ。大陸へ渡るには他に道がない。今は使われていなくても、少なくともコレを使って人々が行き来していた時代があったのは確かなのだ。


「行くしかない…か」


 隣に並んで控えている二人を見て、ユウが頷く。二人も同じように頷くと、三人同時に泉に向かって足を踏み出した。
 とたんに世界が大きく歪んだ。めまいにも似たその感覚に、ユウは思わずティアラを抱えたまま片膝を着いた。他の二人も同じだったのか、それぞれしゃがみこんで顔をゆがませている。やがて身体が何か強い力に引っ張られたかと思うと、三人は暗い闇の中へ放り込まれていった。

 どれくらいの時間、その闇の中をさまよっていただろう。頬に冷たさを感じてユウがゆっくり瞳を開けば、そこはさっきまでいた洞窟の、土を踏み固めただけの床とは違う、冷たい石畳の上だということに気がついた。
 しばらく横たわったまま呆けていたが、自分の置かれた状況を徐々に理解していき、ようやく合点がいったところで慌てて身体を起こす。
 自分のすぐ横にはティアラが横たわっており、そこから少しはなれた場所にはレンとセリアも倒れていた。
 そばに横たわるティアラをまず確認すると、どうやら彼女も気を失っているだけのようで、ホッと胸をなでおろした後、ゆっくり自分たちのいる空間を見回してみる。作りからしてどうやら洞窟ではなく、小さな祠のような場所らしい。 石造りの部屋をぐるりと見回した視線の先には扉があった。


「セリア、レン! 大丈夫か?」


 とりあえずそこが安全な場所であることを確認して、少し離れた場所にいたレンとセリアを揺り起こした。


「あ~……気持ち悪かった……ここは?」


 未だにあの奇妙な感覚が残っているのか、セリアとレンが顔をしかめながら辺りを見回してユウに視線を向ける。
 ユウは肩をすくめて首をかしげ、とにかく出てみよう、と祠の出口を指し、気を失ったままのティアラを再び抱え、レンが先だって重たい扉をゆっくり開いた。
 とたんに薄暗い祠に真っ白な光が差し込んでくる。そのまぶしさに思わず一瞬目を瞑り、やがて慣れてきた瞳をゆっくり開くと、目の前には小さな森が広がっていた。 森の向こうには、古びた城が聳え立っているのが伺える。もちろん、そのディテールは見慣れたアリアハン城のそれではない。


「ロマリア城だ」


 レンが遠くに見えるその城を眺めたままポツリと呟いた。 ユウは悠然と聳え立つロマリア城を見上げてレンと同じように呟いた。


「ここが……ロマリア」


 アリアハン城とはまた違ったロマリア城の荘厳さに、ユウは感慨深げに目を細める。 やっと、本当の旅が始まるような気がした。


20160522 初稿


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