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天 球 儀

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蒼天の系譜 【第一幕】 ...07

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【第一幕】 遥かなる旅路へ


07



 魔物襲撃事件からおよそ一週間後。ユウたちはアリアハンを出発し街道をひたすら徒歩で北上していた。
 出発当日は早朝ということもあって、ユウの母と祖父、そして国王の代理として近衛兵団の団長だけの見送りだった。霧の立ち込めた、春先らしい少し肌寒さを感じる朝ではあったが、ユウの心は思ったよりも晴れていた。
 大々的な見送りではなかったこともあってからの安堵感もあっただろうし、ティアラと話をすることで自分の中のわだかまりが少し小さくなったせいもあるのかもしれない。
 少女が己に課せられた運命がなんであるかを確かめることを望むその強い思い。知ることで後悔することがあるかもしれなくても、彼女は確かめることを選んだ。
 そういう強い思いに引っ張られたのかもしれない。ユウも父を知りたいと思った。自分の知らない父をこの旅で知ることができたら、今よりもっと違った考えでバラモスの討伐に臨めるような気がした、そんな旅立ちの朝となった。

 最初の目的地、レーベまでは馬を飛ばせば三日ほどで着くのだが、この先大陸に渡った後の移動を考えれば、今のうちに徒歩による旅に慣れておいた方がいいだろうというレンの提案で、馬での移動ははじめから除外された。
 街道沿いには小さな宿場町や村が点在しているが、すでに人の気配もなく廃墟となっているところも少なくない。 だが野宿をするよりはマシだと言うことで、宿場や村などの廃墟を野営地として借りながら、ユウたちはひたすら地道に街道を歩き続けた。
 途中の道々で魔物に襲われることもあったが、一行には大した敵ではなかった。


「ユウは魔法使えないの?」


 オオアリクイの集団を魔法で一掃したティアラが息をつきながら、剣を鞘に戻すユウにたずねると、ユウはぎくりとしたように肩を震わせて顔を引きつらせた。


「使えない……ってわけじゃないんだけど」

「苦手なのね」


 あからさまに表情をゆがめたユウに、ティアラが呆れた顔をする。


「いや、簡単なのなら使えるよ。ホイミとかメラとか」

「そんなの初歩の初歩じゃない」


 慌ててユウはフォローを入れたつもりだったがとんだ墓穴を掘ってしまったようで、ティアラは剣の含んだ視線をユウに向けてため息をついた。
 冷たく突っ込まれたユウはとうとう情けない顔をして、はい、とすっかりしょげてしまっている。 そのやり取りを見ていたレンが、まぁまぁと苦笑いを浮かべて間に入った。


「ティアラは言うなれば魔法のエキスパートだけど、ユウは魔法使いでもなけりゃ僧侶でもないだろ?」

「それはそうだけど」

「それに、ユウにはユウにしか持ってないものもあるかもしれない。もしかしたら、それ次第でティアラでも使えない魔法が使えるって可能性だってある」


 な? とレンが笑って片目を瞑って見せると、ティアラはあ、と思い出したような声を上げた。


「電撃の呪文?」


 ティアラの言葉にレンが頷く。 ユウも何かを思い出したのか、そういえば、と難しい顔をした。


「魔法を習ってたじぃさんに聞いたことあるな。真の勇者にしか使えない呪文があるって」

「ことと次第によっちゃ、ユウにも使えるようになるかもな」


 最後にレンはユウの背中をなだめるように叩くと、出発するかと戦闘で邪魔になって放り投げられていた荷物を拾い上げ、セリアと共に先を歩き出す。


「ユウ? 置いてかれるよ?」


 ユウは小難しい顔をしたままじっと考え事をしていたが、ティアラに声をかけられ我に返り、笑みを返して頷いた。


「まぁ、そんな使えるか使えないかわからない呪文はともかく、もうちょっと使えるように私が鍛えてあげるからね」

「セリアとレンにもしごかれてるのに!?」


 旅を始めてから町で行っていたような稽古は中断……されるはずもなく、休憩やその日の終わりには必ずセリアかレンに稽古をつけられている。
 もちろん、それはセリアやレンたち自身がなまらない様にと自分たちのためにやっていることでもあるのだが、旅になれないユウにとってはそれをこなすことだけでも大変なことだというのに、 それにくわえて魔法についてまで稽古させられることになるとは夢にも思わなかった。
 勘弁してくれというようにユウは額に手を当て少しの間空を仰いだが、大きく一つ息をつくと、意地の悪い笑みを浮かべているティアラにそうだよな、と笑い返した。


「少しでも使えるなら、まだ上達するって可能性もあるわけだし……できないなんて言って逃げてたら、これから先が思いやられるよな」


 ユウの思わぬ反応に拍子抜けしたのか、ティアラがぽかんと半口を開けて笑みを浮かべたユウを見つめる。
 冗談じゃないとでも拒否されるかと思っていたし、拒絶したらもっとからかってやろうかと考えていただけに、彼の思ったよりも前向きな発言には、さすがにティアラも苦笑せずにいられなかった。


「ユウなら、本当に"勇者の呪文"使えそうな気がするわ」


 その言葉にユウは一瞬面喰ったような顔をし、どうだろうね、と肩をすくめて微妙に笑った。
 でもティアラはお世辞ではなく心からそう思う。根拠はないし努力で身に付くような魔法でないことも確かなのだが、ユウのそのひた向きさを見ているとなんとなく、そう思うのだ。
 強いだけが勇者なら、きっと誰にだって使える。それこそ勇者とたたえられた彼の父親であるオルテガにだって、使えたかもしれない。
 普通の魔法であるならば、言葉に魔力を乗せ力の根源であるマナに呼びかけて力を収束させ、それを一気に開放することによって発動させる。元々人間には、素質にもよるが魔力が備わっていると言われており、特定の場所で一定の鍛錬を行うことによって使えるようにすることも可能になる。それを伸ばすだけの能力があるのかどうかは別の話としても、とにかく使えるようにするだけならさほど難しいことではない。
 けれど電撃系の呪文は大気を操る。大気、すなわち天候を操るということは神と同等の力を得るのと同じことだ。だからこそ、神に認められたとされる真の勇者だけが使えるとされている。されていると曖昧に表現するのは、ティアラも実際に使える人間には出会ったことがないせいだ。彼女も知識として知っているだけで、本当に神に認められた者だけしか使えないのかどうかというところは定かではない。
 それを踏まえれば本当に神が認める者というのは、やはり力の強さだけを見るわけではないのだろう。定義がなんであるかなんて言うことは人間のティアラには分からないが、人々から本当に認められるだけの力量と人間性の備わった人間であるべきだと思いたいし、ちょっとひいき目に見てユウがそういう人間に成長してほしいとも願いたかった。

 そんな彼女の思いなど知る由もなく、ユウはだといいね、と曖昧に笑うと、先を歩き始めたセリアとレンを追いかけるようにティアラを促して歩き始めた。
 でも実際、ユウにはあまりピンと来ない。父のように、勇者と呼ばれるだけの功績を上げている人間ならまだしも、まだやっと成人に手をかけた、 実戦すら最近やっとまともにこなせるようになってきた程度の人間に、そんな期待をかけられても正直困るというものだ。
 そもそも勇者の定義とは何か。 それは他人がただ位置付けをする為に用いる称号であって、実際に"真の勇者"であると誰が定めるのだろう。神が啓示でも下すと言うのか。それこそ、どこの誰にだ。
 浮かんでは消えていく疑問に、ユウはふと自分の手のひらに目を落として握り締めた。
 ティアラの言うとおり、そんな使えるか使えないか分からないもののことを考えるより、今出来ることを精一杯やって行くことが今の自分がやるべきことなのだと言い聞かせ、 前を向いて歩き続けた。

 ようやくレーベの村に到着したのは、アリアハンを出発して一週間ほど経ってからの事だった。
 レーベはアリアハンの交易の拠点であり、また漁村として有名な村だったが、魔物の狂暴化により交易船も激減しただけでなく漁に出ることすら難しくなり、かといって農業だけで生計を立てるにはそこまで土壌に恵まれておらず、 生計を立てるために働ける大人の多数は王都やもう少し大きな町へ出稼ぎに出てしまい、今や村に残るのはほとんどが子供やその母親、年寄りばかりだ。
 村全体が静まり返り活気に乏しく、自分の暮らす王都とのギャップにユウは面食らってしまった。王都にはかつて程ではないが、それなりに活気に溢れていた。人々の表情も明るく、前向きに生活していた人が多かったように思う。
 道々寄ってきた宿場や村も似たようなものだったが、幼少の頃父を迎えに訪れた際は、交易港にふさわしい活気が溢れていたこのレーベでさえ、今やこの有様だ。
 ひっそり静まり返った村を歩きながらユウが顔をしかめていると、同じように苦い顔をしたレンが横に並んで、酷い有様だろ、と呟いた。


「アリアハンはまだオルテガ様の活躍と、国王陛下の自治力が相まってかなりマシな部類だが、今や世界中の町や村がこのレーベと似たような状態だ。悪いと村ごと魔物に滅ぼされたなんて例も沢山ある」


 それこそティアラが匿われていたテドンのように。そうつぶやくように付け足した レンの言葉に、ユウは顔をしかめたまま唇を噛んだ。
 オルテガに連れられてネクロゴンドを訪れた頃は、幼い頃のおぼろげな記憶ではあるが世界は本当に平和で、どこの町や村も十分活気に満ち溢れていたはずだ。 それが今や、世界中がこんな状態になっているだなんて。


「……全然、知らなかった」


 むしろ考えたこともなかった。世界の情勢なんて。そうして何も知らずに自分は、王都でぬくぬくと恵まれた生活を送ってきた。
 そして王都を出る時も、ただ大切な人を守れれば、大切な人たちが平穏な生活を送ってくれればそれでいいと思っていた。世界の人々が、今どんな生活を強いられているかなんて考えに及ぶこともなく。
 すぐ目の前のことしか見えていなかった自分の矮小さが恥ずかしく、そして情けない。ユウは思わず拳を握り締めた。


「こないだ言っただろう。旅をして世界を回って、広い視野を持て。見えなかったところが見えてくると、考え方もまた違ってくるって。知らなかったことを恥じるなとは言わないが、そこで卑屈になるな。経験を生かすも殺すも、お前の気持ち次第だよ」


 まだまだこれからだろ? と最後に付け足し、しかめっ面をしているユウの肩をレンが叩いて笑った。 ユウはきょとんとしてレンの顔をまじまじと眺め。


「いつも思うけど、レンて父さんみたいだよな」

「まだ20代のイケメンを捕まえて親父ってのはどうなのよ? せめて兄とかにしようぜ」


 自分の不安や迷いを見透かしたように言い当て、まるで魔法のように心を軽くしてくれる。 迷って立ち止まりそうになった自分を励まして前に進む手助けをしてくれるのは、いつも大体が彼だった。
 だからもし父が傍にいてくれたのであれば、こんな風だったんじゃないかと思う。そういう意味で言ったつもりだったのだが、レンは何故か酷く複雑そうな複雑そうな表情を浮かべたので、ユウはなんだか可笑しくなって思わず声を上げて笑ってしまった。
 先を歩くセリアとティアラが不思議そうに振り返ったので、なんでもないとまだこみ上げてくる笑いをどうにか押しとどめ、村の奥へと足を進める。
 レンはまだ少し複雑そうな顔をしていたが、笑顔を見せたユウに満足したのか、小さく頷いて三人の後をのんびり追いかけた。

 村の居住区を抜け小さな林に入っていくと、小屋が一軒ぽつんと立っていた。大分古びてはいるが、手入れはきちんとされているようで見た目はそう悪くない。
 きょとんとするユウとティアラをよそに、レンがおもむろにその小屋の扉を叩いた。 だが返事はなく、おかしいな、と首をかしげながら再び扉を叩いてみたがやっぱり返事はなかった。


「おーい、じぃさーん? 出かけてんのか?」

「あの出不精が?」


 首をひねっているレンにセリアが訝しげな顔をする。 どうやら二人ともこの小屋の主とは知り合いらしい。


「きゃっぁぁあああ!!!?」


 扉を叩いたり声をかけてみたりしている二人を、ユウとティアラは少しはなれたところで見守っていたが、突然ティアラがユウの隣で耳をつんざく様な悲鳴を上げた。
 その悲鳴でセリアは腰の剣に手をかけながら、レンと同時に振り返った。が、振り返ったのと同時に呆れた表情を浮かべる。
 そこには涙目になってユウにしがみ付いているティアラと、何が起こったのかさっぱり理解できず唖然としているユウ、そして真っ白なひげを蓄えた小柄な老人が笑いながら立っていた。


「ふむふむ、まだちぃとばかし発育が足らんのー」


 老人は一人でブツブツ言いながらあごひげをさすり、あきれ返っているセリアとレンを見つけて、おぉ、と嬉々とした声を上げた。


「レンとセリアか。久しいのぅ」


 ほっほっほ、と全く緊張感のない笑い声を上げながら、老人はユウとティアラの傍を離れて呆れ顔の二人に近付いていく。
 それをユウはぽかんと見送っていたが、自分にしがみ付いたままのティアラにようやく気がついて、どうかしたかと声をかけると、ティアラは涙目のまま頬を真っ赤に染め、触られた、と呟いた。


「触られた……って何を?」

「……おしりっ……」

「えぇ?」

「おしり触られたって言うか撫でられた!! 許せない、コロス!」

「ぇぇえ!?」


 ぽつりと呟いたティアラの言葉がよく聞き取れず、ユウが思わず怪訝な顔をする。しかし困惑気味のユウをよそに、彼女は突然叫んで持っていた杖を握り締めた。
 ティアラの突拍子もない発言に驚いたユウが、慌てて彼女を羽交い絞めにして魔法の詠唱をとめようとしたが、彼女はよほど腹が立ったのか日ごろの冷静さがウソのようにいきり立っている。
 それをどうにか宥めようとするユウと、文字通り怒り狂うティアラのすったもんだを呆れた顔のまま眺めながら、セリアが変わんないじぃさんだ、と呟いてため息をついた。


「おまえさんはまた、随分育ったの」


 言いながら老人がセリアの尻を撫で回したので、セリアが何を晒すかと反射的に蹴りを入れる。が、繰り出した蹴りはむなしく空振りした。


「短気なのは変わらんか」

「短気以前に、年頃の女の子にセクハラすることが問題だ」


 セリアの蹴りを難なく交わした老人が渋い顔をすると、レンが肺の空気をめいいっぱい吐き出し、これでもかと言うほど深いため息をついた。 セリアはセリアでイラついた表情をしながら、舌打ちをしてそっぽを向いている。
 老人はそう呆れるな、と笑っていきり立つティアラに、悪かったのぅ、と素直に謝った。


「厭世老人の楽しみと言えば、これくらいなもんじゃてな」


 そう言って老人は笑いながら小屋の扉を開けて四人を中へ招き入れた。
 納得いかないような顔でブツブツ小言を繰り返すティアラに、ユウが苦笑いを浮かべて行こう、と誘うと、ティアラは渋々頷いてユウに手を引かれながら、 先に小屋へ入ったセリアとレンのあとを追って小屋へ入った。
 小屋は外見どおり内部もこじんまりとしており、小さな台所にテーブルと椅子、あとはベッドがあるくらいで、それ以外の家具は棚くらいしか見当たらない。
 その棚も生活用品よりは本や書物が溢れており、小屋のいたるところに置き去りにされてほこりを被っていたり、あるいは蜘蛛が巣を張っていたりしている。 老人は汚いところですまんなと笑い、四人に椅子を勧めてくれた。


「別にのんびりしていくわけじゃないから」


 汚くても気にしないと続けたレンに、老人は遠慮がないと苦言を呈したが、お互い様だとレンに切り返されて子供のように拗ねた顔をした。


「拗ねてる場合じゃないぜ、じぃさん。いざないの洞窟にある旅の扉を開いてくれ」

「それが人にものを頼む態度かぃ」

「よろしくお願いします」


 見事なほどのレンの棒読み加減に老人が呆れた顔をする。 そのやり取りを横で眺めていたユウが見かねて、頭を下げた。
 老人は頭を下げたユウを一瞬怪訝そうな顔をして眺め、何か気が付いたように目を見開いておまえさんは、と呟いた。


「大陸に渡るために、どうしても必要なんです」


 顔を上げて老人に文字通り懇願するような視線を向けたユウを、老人が目を見開いて見ているのに気が付き、ユウがきょとんとすると、我に返った老人がいや、と苦笑いをして首を振った。


「おまえさん、オルテガの息子じゃな」

「あ……はい」


 言い当てられてユウがビックリしていると、老人が覚えとらんかね、と笑った。


「昔、オルテガに連れられて来た事があったんじゃよ。いや、まだ幼かったからのぅ……覚えておらんのも仕方ない。いやいや、父親そっくりになってきよった」


 一人で勝手に納得して頷いている老人に、ユウが苦笑いを浮かべる。
 父の軌跡を辿るということはこういうことだ。父を知る人は自分と父を見比べる。みな回顧しているだけで、悪気があるわけでは決してない。そしてこの先旅を続けていれば、そういう機会も今まで以上に多くなる。慣れなければいけないことだし、レンの言う通り卑屈になったりせず、しっかりと向き合っていかなければならないことだ。
 微妙そうなユウをどこか感慨深げに眺めながら、そうかそうかと老人はひとしきり頷き、よかろうと席を立った。


「おまえさんなら扉を開く鍵を渡しても良かろう。己の力で真実を知るといい」


 そう言うと老人は小屋の書物に埋もれた中から小さな箱を引っ張り出し、ユウの目の前に差し出した。老人の背後でどさどさと書物が倒れこみ、ホコリを巻き上げている。 ユウの隣でティアラが口と鼻を抑えながら、どんだけ掃除してないの、とますます渋い表情を浮かべた。
 舞い上がったほこりを手で扇ぎながら、ユウはありがとうございます、と苦笑いして頭を下げると、その小さな箱の蓋を開けてぎょっと目を見張った。 興味ありげに覗き込んできた三人も、それを見て同じようなリアクションをしたが、それもそうだろう。鍵だと言われて差し出されたものが、何処からどう見ても大砲の弾のようにしか見えないのだから。
 唖然とする四人の表情を見て、老人が明るい笑い声を上げた。


「旅立ちは派手な方がいいじゃろ? それ、そこの導火線に火をつけて放り投げるだけじゃ」

「あんた何考えてんだよ」

「もっとなんか手の込んだ仕掛けでもあるのかと思ったら……吹っ飛ばせばいいやって考え? 呆れた、何のための封印よ」

「アホを抜かすな。それは魔法の玉と言うてな、魔力にしか反応せん玉じゃい。普通にやっては決して火はつかんし、その玉の魔力でしか封印の扉は開かん」


 ほとほと呆れ果てているセリアとレンに、老人が憤慨する。 ホントかよ胡散くさそうに二人はしていたが、ユウはそんな二人を宥めて老人に再び頭を下げ、 結局最後まで不機嫌なままだったティアラを促して立ち上がり小屋を後にしようと三人の一番後ろを歩いていると、ふいに老人に呼び止められた。
 振り返って老人の顔を見ればさっきまでのとぼけたような表情とは一変して、じっと真剣な顔つきで睨む様にユウの顔を見据えていた。思わずたじろいで言葉に詰まったが、老人はすぐに小さく笑った。


「今はまだ、人から聞いただけでは受け入れがたいこともあろう。だから深く考えずともよい。真実を知りそれを受け入れ、そして超えられるだけの心身を身に着けることだけ考えなさい。さすればおのずと答えは見えて来るはずだからな」


 老人は微笑み、さぁ行きなさいと、ぽかんとしているユウを促した。言われたことが理解できなかったのであろうことは察したが、今は分からなくてもいいと思ったので、去り際に何か言いたそうにした少年に、ただ手だけ振って返した。
 ユウはそのまま出ることを躊躇うように視線を泳がせはしたが、外から仲間たちの呼ぶ声が聞こえたので、結局何も言わずにただ一礼だけして小屋の扉を閉めて行った。
 閉まった扉を老人は感慨深げに見つめ、やがて息をつきながらそのあごに蓄えた白いひげをさすった。

 老人は知っていた。少年と少女の天命を。その課せられた定めを。それをただ伝えるだけなら簡単だ。だがそれらを知るには彼らはまだ未熟すぎる。そして旅を続けていけばいずれは知ることになる真実だ。彼らがそれを受け入れられるだけの強さを身に着けてからそれらを知ることで、結果を少しでもより良いものにできるのであれば、今はまだ知らなくてもいい。
 そして運命はすでに結末へ向かって加速しはじめた。はるか昔から始まっていた運命に、あの少年が幕を下ろす役に選ばれたのだ。たとえ必ずしも良い結果ではなかったとしても、遠からず終わりが来る。
 勇者と謳われた男の息子が選ばれたことが救いとなるのか、あるいは破滅へ向かうのか。いかんせん彼が真実を享受し、真の勇者と呼ばれる器を身に着けられるのかによるだろう。


「年端もいかん子供に尻拭いさせるとはな」


 誰に言うでもなく老人は一人ごち、先ほどまでそこにいた少年と少女の顔を思い浮かべながら苦笑した。


20160516 初稿


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