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天 球 儀

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蒼天の系譜 【第一幕】 ...06

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【第一幕】 遥かなる旅路へ


06



 広間を後にした四人はそのままレンの提案で城内の図書室に場所を移し、出発前の確認をすることになった。
 魔物の襲来で城下は混乱しており、収束にはまだ時間がかかる。出発の日程を変えることはないが、セリアもレンも国の兵でもあるがゆえに、せめて出発まではこの混乱をある程度収めるために尽力したいとのことで、こうして揃っているうちに話をまとめておきたいのだという。


「まず、レーベの村を目指す」


 図書室の一角に置かれたテーブルの上で、レンがアリアハンの地図を広げてある漁村を指差した。

 アリアハンより北西に位置するレーベの村は漁業の盛んな村でありこの国の交易拠点でもあった。しかしバラモスの出現以降は貿易船も激減し、漁に出ることすらままならなくなっている。
 最近では村から離れて王都へ来る人も少なくないらしく、街道に点在する小さな村や宿場に至っては、すでに破棄されてしまっているところも少なくないらしい。
 そんな細かい地理情報を合間に挟み、レンは地図上で指を滑らせて東の端に位置する洞窟を指した。


「次にここ、いざないの洞窟へ向かう」

「洞窟? だって大陸に渡るには…」


 セリアが険しい顔をしてみせると、レンは小さく首を振った。


「船は出せないだろう。最近、ますます魔物が凶暴化している所為もあってろくに出ていない。いつ出るかも分からない船は待っていられない。となれば、古の方法をとるしかないな」

「古の方法?」

「旅の扉だ」


 レンの言葉にセリアとユウが顔を見合わせて首をかしげる。
 その様子を呆れた顔で眺めるレンと、さっぱり分からないという表情の二人を見たティアラが小さく笑ってレンの代わりに説明した。


「旅の扉って言うのはね、大昔の旅人が使っていた不思議な泉のことを言うの。世界各地にあるらしいんだけど……今はあまり使われていないし、 使えそうなところも魔物の出現で悪用されないように、大抵の場所が封印して監視されてるみたいね」

「ならまっすぐ洞窟に行けばいいじゃない」

「セリア姐さん、話聞いてる?」


 ティアラの説明にあけらかんとして答えたセリアに、レンが顔を引きつらせた。 聞いてるわよ、と馬鹿にされてムッとした表情を浮かべたセリアを苦笑いで宥めたユウが、そうか、と頷いた。


「ここも他の扉同様に、封印されてるってことか」

「そゆこと。だからその封印を説いてもらう為に、封印を施した魔法使いとやらにまずは会いに行く。それがレーベ。おわかり?」


 レンの説明に一同そろって頷き、それで? とユウが首をかしげた。


「ここの旅の扉はどこに繋がってる?」

「ロマリアだ。とりあえず大陸に渡るにはここからしかない。後は……できればアッサラーム辺りで船を出してもらえれば、そっからネクロゴンドへ……ってのが一番の近道だな。ただ地殻変動で地形が変わっているだろうから、それは難しいだろうな。 一応、アッサラームあたりまで行きながら情報集めもしつつ、他の方法も模索していくしかなさそうだ」


 難しい顔をしながら腕組みをし、顎をさすってレンが呻った。
 確かに広げられている地図上では、陸伝いでもネクロゴンドへ向かうことは可能だ。でもそれはバラモス出現以前の話で、完全に地形の変わってしまっている今となってはこの地図もあてにはならない。城には近づくことすらできないことは確認されているので、ネクロゴンドに入ったところでバラモスが拠点としているであろう城に入ることができないのでは意味がない。
 ユウの父であるオルテガとて、ネクロゴンドへ入るために足を踏み入れた火山地帯で命を落としていることを考えれば、徒歩で入るという選択はあまりにもリスクが高い。かと言って今の段階では、他にこの状況を打破する策がない。ゆえにひとまずは徒歩を選択する以外になく、その道すがら別の手段がないか模索していくより他に手はなかった。
 とはいえオルテガが旅に出た時とはまた世界の情勢も大きく違う。人間とて手をこまねいているばかりではなく、苦境の中それでも現状を打開しようと努力を重ねているし、情報も研究も進んでいる。それらを考慮すれば、よりよい選択ができる可能性もあるのだ。


「わかった。とりあえずアリアハンを出るってとこが、直近の目標ってことで」


 小難しい表情のレンにユウが頷き、セリアとティアラに視線を向ける。二人とも同じく納得した様に頷いた。


「支度は何もいらないからな。路銀や旅に必要なものは、陛下が餞別として出してくださるそうだ」

「陛下が?」

「おまえの旅に出る理由がどうであれ、国を挙げて送り出すんだからな。それくらいは当然だろう」


 理由がどうであれ、という言葉に思わず表情をこわばらせたユウに、レンは小さく肩をすくめて苦笑する。
 自分の想いや考えを、ユウは誰にも言ったことがない。みんながユウに期待することは、彼の父であり英雄であるオルテガの敵討ちであり、バラモスを倒すことによってもたらされる平和だ。でもユウの望むことと外から向けられる期待にはズレがある。そのズレが外に出るようなことにでもなれば、きっと人々は失望するだろうと思うからこそ、その葛藤を誰にも悟られまいと努力してきた。おかげで誰かに後ろ指をさされるようなこともなく今日まで来ることができてはいるが、自分に稽古をつけてくれている二人はまた別だ。
 セリアとレンはユウにとって友達であり姉兄のようであり、また師でもある。もちろん城下にだって友人はいるが、あくまで彼らは一般的な町民としての友人たちだ。バカをやったり羽目を外したり、自分が年相応でいられる場所を作ってくれる存在であって、セリアやレンとはまた付き合いが違う。
 手合わせをする中で、訓練を積んでいく中で、迷いや躊躇いがあれば必ず動作にそれが反映される。ユウの動き一つ一つに気を配り目を配りしてくれる彼らに、その動きの中に見え隠れする想いや葛藤が分からないはずがない。
 特にレンは観察力に優れているのでなおのこと誤魔化すことが難しい。ユウが単純なだけだと言われてしまえばそれまでなのだが、それでもそれを抜きにしても彼は別格だ。
 恐ろしいほどのきれものの彼に見透かされていることは分かってはいたが、はっきりではなくともいざこうして面と向かって指摘されるとどうにも居心地が悪い。
 しかしレンは、非難されるだろうかと覚悟して硬くなったユウに、ふっと気が抜けた様に笑いかけた。


「変な理想を抱えるよりよっぽど現実が分かってると思うよ、お前は。視野の狭さも自分の力量も、お前はそれだけ分かってるってことだ。そしてそんなのは、これから叩き込んでけばいいだけの話なんだよ。視野が広くなれば考えだって変わっていくものだ。今はそれでいいと俺もセリアも思ってるし、ぶっちゃけ出来るか分かんねぇ理想論なんか語られてたら、俺はお前と一緒に行こうなんて思わなかったよ」


 言いながらレンはどこか照れくさそうに笑ったが、いまいち言われたことが理解できずに思わずユウがきょとんとすると、せっかくいいこと言ったのに、とレンががっくりとうなだれた。セリアに至っては彼の隣で爆笑している。
 馬鹿にされてる気分になって自分の隣に視線を移せば、ティアラも口元に手を当てて小さく肩を揺らしていた。それを非難するように眺めると、彼女は笑うのをやめて小首をかしげて微笑んだ。


「今はそのままのユウでいいって話じゃない?」

「なんか……腑に落ちない」

「いつかわかるわよ、旅を続けてればね」


 微妙に顔を歪めたユウの肩をセリアがくつくつと笑いながら叩き、じゃあね、とそのまま図書室の出口へと足を向ける。


「話はまとまったし、仕事も残ってるから戻るわ。これからよろしくね」

「積もる話もあるだろ? この部屋使っていいから、ゆっくりしてけよ」


 そう言い残し重そうな図書室の扉を軽々片手で開いて、セリアが出ていく。レンも意味ありげな笑みを浮かべながら、セリアの後を追うように図書室を後にした。
 後に残された二人は暫くぽかんと扉を眺めていたが、ふいに窓から差し込んできた強い西日に目を奪われた。
 並んだ窓から差し込む夕日が、室内に並んだ良く磨かれたテーブルと大理石の床を赤く染めてキラキラ輝いていた。そのまぶしさに、思わず目を細めて片手をかざす。
 長い廊下に差し込む光。その光で輝く廊下の床。幼い頃ティアラと駆けたネクロゴンド城の廊下を思い出した。

 ユウは知らなかったが母から聞いた話によると、あの時ネクロゴンドを訪れたのは、アリアハン王に頼まれた親書を届けるためだったらしい。
 父は気晴らしになるからと言ってユウを伴って出向いた。母は父が一人で出向くのは退屈だからという意味で取っていたようだが、今思えばそれは城の外に出ることもなく友達もいない、ティアラの事を指していたのだろう。 性別は違えど同じ年頃の子供と接する機会を与えてやりたかったのかもしれない。
 二度と戻ることのない、あの光景。そして思い出せば、父との思い出も全くなかったわけではなかった。一緒にネクロゴンドに赴く際に辿った道のりは、案外楽しかった記憶がおぼろげにある。
 父は大きかったし強かったし優しかった。ただ自分が幼過ぎて見えていなかっただけなのだろう。小さな国の小さな街の中だけのコミュニティだけに捕らわれて、家にいてくれなかった父を恨んだりして。
 どんなに悔いても二度と戻ることのない時間と、あまりにも幼稚だった考えが複雑に絡んで、今のユウに葛藤させていることは間違いなかった。


「……ずっと……」


 言葉を発することもなく二人で窓から差し込む西日を眺めていると、ふいにティアラがぽつりと呟いた。


「ずっと思ってた。私さえいなければって。ネクロゴンドだけじゃない、世界中の人がこんな苦しい思いしなかったんじゃないかって。でもランシールの神殿で司祭様に言われたの。それは奢りだって。私の命ひとつですべてが動いてるわけじゃない。それは流れの中の一つに過ぎないって。死んでもいいと思える覚悟があるくらいなら、その命を懸けて確かめてきなさいって送り出してくれた」


 独り言のように彼女は呟き、ゆっくり視線をユウに向ける。ひどく悲しそうな、今にも泣きだしてしまいそうなその顔に、ユウは黙ったまま眉間に皺を寄せた。
 外に出ると恐ろしいものがさらいに来ると語った少女。そして滅んだネクロゴンド。逃げた先の村も襲われた。落ちのびたランシールで彼女がどうやって過ごしてきたかは分からないが、でもアリアハンでまた襲われて。あるいは不運が偶発的に重なっただけかもしれない。でもたまたまと言うにはあまりにも重なり過ぎた。それくらい多くの命が犠牲になっている。少女が自分の存在を呪って否定しても、おかしくはないと思える。そんな少女の心中を考えると、あまりにも忍びない。
 痛そうな表情を浮かべるユウにティアラは寂しそうに微笑んで、でもすぐに顔をゆがめた。目尻から涙が押し出されて、白い頬を伝って零れていく。
 一度涙をこぼしてしまったら止まらなくなってしまったのか、ティアラは必死に泣くのを止めようとしゃくりあげながら手の甲で一生懸命涙をぬぐい、 ぬぐってはこぼしを繰り返した。


「ごめん、さない。きっと、おじさまは、私のせいで……だから、許してくださいなんて、言わない。でも、手伝わせて……がんばる、から。ユウの、たいせつなひとを、守るお手伝いを、させて。捨てるつもりだった、私の命を使って、手伝わせて」


 しゃくりあげ言葉に詰まりながら少女は必死に言葉を紡いでいく。小さな子供のように泣き続けるティアラを暫く見つめていたユウが、やがて涙の伝う彼女の頬に手の甲でそっと触れて優しくぬぐった。
 驚いたように目を見開いてティアラが泣き顔を上げると、ユウは柔らかく笑って小さく頭を振った。


「俺は嬉しかったよ? ティアラが生きててくれて。またこうして会えて良かったって思うし、一緒に旅に出られるならそれも嬉しい。だから……」


 未だ涙に濡れた少女の目尻を親指で擦り、ユウはその手をそのまま彼女の肩に滑らせると、その身体を強く引き寄せて自分の胸に抱き留める。少女の華奢な身体が強張って小さく息をのむ音が聞こえたが、構わずに抱き寄せて傍に来た彼女の耳元でささやき続ける。


「死んでもいいなんて思うな。一緒に守るっていうなら、一緒に生きなきゃ意味がないんだから。一緒に生きて、一緒に確かめに行こう」


 そうだろ? とティアラの身体を抱きしめたまま首をかしげると、彼女は躊躇うようにおずおずと両手をユウの背中に回して小さくシャツを握りしめ、その胸に顔をうずめたままこくりと頷き、小さく、本当に小さくかすれた声でありがとうと囁いた。
 ユウは自分にしがみ付いて肩を震わせる少女を抱きしめながら、まだ何も知らない小さな自分でも、せめて今は手の届く範囲の大切なものくらいは守り抜こうと強く誓った。

 そして。

 守るべき人を守り抜く強さが欲しいと。そのために自分の知らない父とも向き合って行こうと。そうして父のようにはなれずとも、近づく努力をして行きたいと、初めてそう思った。


20160511 初稿


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