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天 球 儀

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蒼天の系譜 【第一幕】 ...05

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【第一幕】 遥かなる旅路へ


05



「なに……」


 ティアラの言葉にユウは目を見開いて絶句したが、隣に控えているセリアとレンは表情こそ険しいものの特に驚いた様子を見せることもなく、対峙するように向かい合っている国王とティアラに視線を向けていた。顔色を変えているのはユウと国王の傍に控えている大臣くらいだ。国王も少女を探る様に見つめてはいるが、驚いている様子はうかがえない。まるで最初から彼女がそう言いだすことが分かっていたかのようにも見える。
 怪訝な顔をしたユウに国王が一瞥をくれ、こういうことだと肩を落として嘆息した。言葉の意味が理解できず、ユウがますます眉をひそめれば、国王が少女を指しながら苦い笑みを浮かべる。


「私の個人的な話というのはな、彼女を旅に同行させてやってくれということだよ」

「それは……!」


 できない相談だろう。彼女は曲がりなりにも王族だ。しかも絶えたと思われたネクロゴンド王家の、おそらく唯一の生き残りなのだとすれば、バラモス討伐などという命の保証のできない旅への同行など許せるはずもない。志半ばで命を落とすかもしれない危険に、わざわざ彼女をさらす必要はないだろう。
 もっと言えば今回のようにまた魔物が襲ってくる可能性だってないとも限らない。それならどこかで、例えばまたランシールに戻るかこの城にでもかくまっていた方がよっぽど安全だ。
 表情を険しくして首を振ろうとしたユウを国王が片手で制して、セリアとレンに目を向ける。


「おまえたちは、どう思う」


 ユウの発言を制した国王が、セリアとレンに意見を求める。ティアラが同行するというのであれば、当然すでに同行の決まっている二人の許可も必要だろう。ユウが賛成できないものを、この2人が賛成するとも思えなかったが、暫く考え込む様に黙っていたレンからは予想外の言葉が飛び出してきた。


「彼女にその意思があるのであれば、依存はありません」


 その発言にぎょっとしてレンを見とがめれば、彼は肩をすくめて小首を傾げた。隣に控えているセリアも、私もですなどと答える始末だ。
 非難するようなユウの視線に、レンがそんな顔をするなと苦笑する。


「正直、国を考えたら彼女を連れ行くよりないだろう。考えてもみろ。彼女の言うことが正しければネクロゴンドは彼女がいたからこそ滅ぼされた。今回も彼女を狙ってきたのだとしたら? 今回は数や強さはさほどではなかったからこそ良かったものの、次も防げるとは限らない。もし防げなかったらどうなると思う」

「そ、れは」


 魔物の飛来が彼女を狙ってきたものだとしたら、すでに彼女の居場所は敵側に知られているということだ。今回は運よく退けられはしたが次が来ないとは言い切れず、彼女を本気で狙ってくるのなら次は相手も必ず落としにかかってくるはずだ。そうなればアリアハンもネクロゴンドの二の舞にならないとは言い切れない。
 すでに相手に彼女の居場所が知られているのなら、彼女を同行させて少人数で守る方がはるかに労力は低いし、わざわざ国の存亡をかける必要もない。彼女自身も戦う力があるのなら余計その方が効率的だし、何より魔法の使える人間が同行してくれるのはユウたちにとってのメリットも大きい。そしてこの国を危険にさらすことも回避できる。理屈ではわかる。

 ぐっと唇をかんでユウが言葉を飲む。自分だって好き好んで自分の国を危険に晒したくはない。家族がいて友人がいて、ユウの成長を見守ってきてくれた人々がいて、そうしてユウを愛しんで育ててくれた国の人たちを守りたいと思う。
 今回の旅にしたって別に父の敵を取りたいとか、世界を救いたいとかそんな大それた理由で出ようとユウは思っていなかった。見えないもののためなんかではなく、そうやって自分をずっと見守ってきてくれた人たちを今度は自分が助けたくて、本当にただそれだけの理由でバラモスを倒すと決めただけだ。
 だからティアラを連れて旅に出るということは、この国を守るという結果にもなるのだろうが、ではそれではティアラの気持ちは。国を滅ぼされ、落ちのびた村すら焼かれ息をひそめるように生きて来たであろう彼女を、そうやってまたたらい回しのように扱うのか。同行を望んだのは彼女の意志だろうが、同行を許す理由に何か腑に落ちないものを感じる。これではまるで。


「そうやって政治的な理由をつけてしまうと……おまえの納得いかないところもあるだろうな。国のために彼女を厄介者扱いしているようなものだからな。そこのところは……分かってくれとしか言いようがない。ただでも、彼女の話も聞いてから考えても遅くはないだろう?」


 唇をかみしめたままわずかに瞳に怒りの色をにじませているユウに、国王が静かに告げた。その言葉で我に返り、弾かれた様に国王の傍に控えたティアラに視線を向ける。
 彼女は僅かに笑って国王に一礼すると、ユウの傍まで歩み寄ってきて彼を見上げた。昔と変わらない赤い瞳は、やっぱり昔と同じようにどこかもの悲しそうに揺れている。


「気遣ってくれてありがとうユウ。でも私は私の意志であなたたちと一緒に行きたいと望んでるのは分かって。あなたがこの国を守りたいと思うのと同じように、私も私の大切な人たちを守りたい。ずっと私を守ってきてくれた人たちを、今度は私が守りたい。だから私はここに来た。……約束したでしょう?」

「……俺が世界を見せてあげる?」


 ぽつりと呟いたユウの言葉に、ティアラはにっこり笑って頷いた。頷いた瞬間にこぼれ落ちた髪の隙間から覗く青いピアスは約束の証だ。確かにずっと昔、彼女と交わしたその約束。
 服の上からピアスと交換に貰った彼女のペンダントをそっと抑え、ユウは静かに瞳を閉じて息をつき、やがてゆっくり瞳を開いて笑った。


「まだ、有効? その約束」

「もちろん」


 吹っ切れた様に笑ったユウに、ティアラも頷きながら白い歯を見せて笑った。彼女と再会して初めて、ようやく彼女の年相応の表情を見た様な気がした。
 気を張ってないわけはなかっただろう。それこそ、ネクロゴンドを出てから彼女がどういう生活をしてきたかは分からないが、心の休まるときがどれほどあったのか。16歳の少女が、年相応らしくいられた時間がどれだけあったのか。
 大切な人を守りたいと思う気持ちはユウも同じだ。その大切な人には彼女だって含まれる。それは同情かもしれないし、もっと違う感情かもしれない。でも彼女が年相応の顔でいられる時間が、自分と過ごすことで少しでも多くなってくれるのなら、一緒に旅をするのもきっと悪いものではないはずだ。
 嬉しそうに笑うティアラにもう一度ユウが頷き返し、国王へと向き直る。分かったような顔をしているこの方は、たぶん最初から彼女がどうしてこの国へ来たのか知っていたのだ。
 そもそも今まで匿われていたランシールが未だ無事なのは、彼女はそこで安定して生活できていたということになる。ならばわざわざ見つかる危険を冒してまでこの国に来る理由など、そう多くはないはずだ。そして保護を求めに来たわけではないのだとすれば、理由はもっと限られる。そしてオルテガの死と、オルテガに息子がいることを知っていれば、おのずと訪れた理由は絞られる。


「彼女は私たちが責任をもってお守りいたします」

「頼んだ」

「指しあたって一つお聞きしてもよろしいでしょうか」


 話がまとまったところでレンが恭しく頭を下げたが、すぐに頭を上げて険しい顔をする。国王はやや怪訝そうな顔をしたが、なんだ、とだけ低く聞いた。


「陛下はご存知ないのですか? 彼女が狙われる理由を」

「……そこまでは私もわからんよ。分かるのは……敵側がなりふり構わず彼女を欲しているらしいということくらいだ」

「……分かりました。では、出発は予定通りとうことで準備いたします」


 もう一度、今度はセリアも一緒に頭を下げて失礼いたしますと二人が踵を返す。それにならってユウとティアラも国王に頭を下げ、先に踵を返した二人の後を追うように広間を後にした。
 四人の出て行った扉を睨む様に眺めながら、アリアハン国王は玉座にもたれかかって深く息をついた。


20160504 初稿


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