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天 球 儀

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蒼天の系譜 【第一幕】 ...04

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【第一幕】 遥かなる旅路へ


04



 謎のローブの男が去ったのち、ユウはそのまま城にとどまり入ってくる街の状況報告に耳を傾けながら、城内で怪我人の治療の介助や炊き出しの手伝いをしていた。
 聞きかじった情報から推測するに、街に残っていた魔物は自警団や城から派遣された騎士団によって一掃されたらしい。数もさほどではなく、それほど凶悪な魔物が多くなかったようで、陸続きではないアリアハンへの奇襲は、魔物側からしても容易ではなかったようだ。少なくともネクロゴンドの様な参事は避けられた。
 それでも焼け出された住民も少なくなく、また死傷者も多少なりとも出ていることを考えれば、心から良かったとは言いがたい。
 家に残っている祖父や母はどうしているだろうか。気にならないかと言えばもちろんそんなことはない。家がどうなっているかも二人の安否も気にはなるが、少女のことやローブの男のことも引っかかっていた。
 どうにか少女やセリアたちと話ができないか機会をうかがってはみたが、こんなことがあった直後なだけに騎士団も出入りが制限されてしまって様子をうかがうことすらできずにいた。
 そうこうしているうちにすっかり日も暮れ、手伝いも一段落ついたころ、炊き出しをしている中庭にレンが顔を出した。スープの配布を手伝っていたユウを見つけると、こっちに来いとでもいうように手招きをされたので、近くにいた関係者に声をかけてその場を離れ、呼びつけたレンの傍に小走りで駆け寄る。


「呼んだ?」

「呼んだ。陛下がお呼びだ」

「え、陛下が? 俺を?」


 これは想定外だ。レンやセリアが用事があると言うのならまだわかるが、なぜ国王がユウを呼び出すのか。誕生日まではまだもう少し日がある。出発はその日に合わせるという話で、その時にまた国王からお言葉を賜る手はずになっていたので、今この場で呼び出される理由が分からない。
 困惑した表情を浮かべるユウに、レンは苦笑交じりに肩をすくめ、いいから来いと促した。
 仕方なくレンについて城内を進み玉座のある広間に入れば、国王と大臣、そしてセリアと少女が入って来たユウとレンに一斉に視線を向けた。
 微妙に居心地の悪さを感じながら、お連れしましたと頭を下げるレンに習ってユウも頭を下げた。


「ユウ=イペリオネ。お召出しにより、参上いたしました」

「あぁ、いい。そう硬くなるな。今日は公的な呼び出しではない。個人的なことだからな」


 折り目正しく頭を下げたユウに国王はひらひらと片手を振ると、こっちへ来いと入口の二人を呼び寄せ、近くに寄って来たユウを玉座に座ったままどこかまぶしそうに見上げ、小さく笑った。


「若いころのオルテガに似て来たな」


 そう呟くようにこぼした国王の言葉に、ユウがただ苦笑だけ返す。実のところユウ自身、はっきり父の顔を覚えていない。それでなくても傭兵のようにいつも世界を飛び回っていた父だ。母にはよく、ユウがまだ乳幼児の頃、父が帰ってくるたびに大泣きをしていたと笑い話のように聞かされていたが、それもそうだろう。家を頻繁に空ける人物を家族だと認識するのは、物心のつかない年齢では難しい。父を父だと認識できたのは、バラモスの討伐に出るほんの数年前で、それでも顔をはっきりと覚えておくのはやはり難しかった。ユウが覚えている父は、下から見上げたその恰好か背中位しかない。
 父は大きくて強い、でも顔は写真の中でしか認識できないそういう存在で、それこそ若かりし頃のオルテガを知る人たちからは似てきたと頻繁に言われるが、ユウには特に感慨を覚えるようなこともなかった。
 戦士としては確かに偉大で尊敬できる人ではあるが、では父として、家族としてはどうかと問われると、ユウの中ではなんとも微妙な気持ちにさせられる。
 母はそれでも戦士の妻なのだからと割り切ってはいたようだが、同年代の友人たちにはちゃんと両親がそろっているのに、なんでうちはそうではないのかと不満を抱かなかったかと言えば嘘になる。周りから凄い人だと褒められたところで、ユウとしてはそんなことより家にいて一緒に遊んでほしかったという気持ちが大きかったし、父の偉大さがわかる年ごろになったらなったで、オルテガ亡き後は特に変な期待をかけられる事も多くて釈然としない想いを抱えてきたのも事実だ。
 だから父に似ていると言われると確かに親子なのだろうとやや嬉しく思う反面、なんとなく幼いころからの想いも相まって複雑な気持ちになる。

 なんとなく微妙な笑みを浮かべたユウを、国王はどこか申し訳なさそうな様子で見上げ小さく嘆息すると、そばに控えていた少女を呼んだ。
 呼ばれた少女が前に出てにこりと笑う。ガーネット色の大きな瞳、銀糸を束ねた様な長い髪、幼さの残るあどけないその表情に似合わないスタイルの良さ。少女と呼ぶにはあまりにも大人びたいで立ちではあるが、ユウが知っている少女と同一人物ならばユウとは同じ年のはずだ。


「紹介は……しなくてもユウも知っているな」

「では……」


 苦笑交じりに少女を示した国王にユウが眉間に皺を刻むと、国王は小さくうなずきそうだ、と短く答えた。


「バラモスに滅ぼされたネクロゴンド王国の王女、ティアラだ」


    あぁ、やっぱり。

 バラモスによって落とされたネクロゴンド。その直後に起こった地殻変動で難攻不落と呼ばれた要塞城は、さらに高く切り立った山々に囲まれ、今では徒歩では近づくことすらできない。そんなところに安否の確認など行けようはずもなく、かと言って大量の魔物が流れ込んだ城内で生きている人間がいるとは誰も思えるはずもなく、実質絶えたと思われていたネクロゴンドの家系。少女はおそらくその唯一の生き残りだ。
 しかしなぜ、彼女だけ生き残ることができたのか。怪訝な顔をするユウに、少女…ティアラが表情を曇らせた。


「あの日……城が落とされたあの時、私だけが逃がされた。いいえ正確には……私を逃がすために、みんな犠牲になった」

「どうして……」

 たった一人の少女を守るために国のすべてが犠牲になった? 確かにティアラは城から出ることを許されず、軟禁状態で暮らしていた。一切外に出ることが許されず、ただ窓の外だけを眺めて外の世界に想いを馳せて。それは彼女を守るための苦肉の策だったのだとしても、国の存亡をかけてまでなぜこの少女を守る必要があったのだろうか。
 それはその場にいる人間が思ったことだったのだろう。ティアラの口から語られる次の言葉を、みな固唾を飲んで見守っている。
 しかし彼女は自分を取り囲むその場の人間を順繰り見回し、静かに首を振った。


「わからない。どうして私をそこまでして守らなければいけなかったのか……父に聞くには時間がなさ過ぎた。一緒に逃げた乳母は何か知っていたようだったけれど、逃げる途中に襲われた魔物に殺されてしまったし、護衛についてきてくれた兵は何も聞かされていなかったようで、結局何も分からないまま私は逃がされた」

 そこからティアラは時々遠くを見てその情景を思い描くようにしながら、ぽつりぽつりと語りだした。
 どうにか落ちのびたテドンという村で幼少期を過ごしたこと、しかしその村も魔物に襲われてしまったこと、その後はどうにかランシールへ渡りそこで匿われて生きてきたこと、そこで出会った船乗りからオルテガの事を聞かされてアリアハンへ渡ってきたこと。ここに辿りつくまでに、短い時間では語りつくせないであろうことを彼女は経験してきたはずだが、それでも彼女はただ淡々と要約して自分がこの地に渡って来たいきさつを語った。
 表情は硬く強張ってはいるが、感情の動きまでは汲み取れない。どんな思いで彼女は生きてきて、どんな思いで過去を語っているのか。
 大まかないきさつを語り終わった彼女をじっとユウが見つめていると、その視線に気が付いたのかティアラは寂しそうにそっと笑い、すぐに表情を引き締めて国王に向き直った。


「陛下、お願いがございます」

「聞いてやれる保証はないが……まぁ言ってみろ」


 毅然とした態度で向き直って来たティアラを見上げ、国王は渋そうな顔をして玉座にもたれかかった。まるで彼女が言いたいことが分かっているような、そんな態度だ。
 ユウが隣のレンとセリアに視線を送ると、二人も首をかしげながら肩をすくめた。国王の傍に控えている大臣も困惑したような表情を浮かべていることから、彼女が何を言い出そうとしているのかは誰も分っていないようだった。
 困惑する周りをよそに二人は暫くじっと見つめ合い、やがてティアラが静かに息を吸って言葉を紡いだ。


「バラモスの討伐に私も同行させてください」


 広間に響いた彼女の言葉に、国王以外の誰も目を見張りが凍り付いたのは言うまでもない。


20160420 初稿


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