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天 球 儀

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蒼天の系譜 【第一幕】 ...03

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【第一幕】 遥かなる旅路へ


03



 オルテガの墓参りの道々、案の定ユウは友人たちからの質問攻めに合い、でも彼女の素性をさらすわけにもいかず、どうにか適当に言葉を濁しつつ、それ以上無駄な詮索をされないためにさっさと友人たちと別れると、その足で城へと向かった。
 一般市民がもちろん普通に城へ行ったところで祝賀行事でもないのに入れるわけはないのだが、ユウは出自の関係で特に制限はない。
 父は国王と親友であったし、騎士団に所属することはなかったが国の英雄であり、その信頼は絶大だった。また祖父は騎士団で団長を勤め上げた功績がある。母もまた城内での仕事に携わっていたこともあり、信用面に置いての問題はないに等しい。もちろん、国王に容易に会うことは叶わないが、騎士団あたりの出入りならさほど問題はなかった。
 またユウの剣や魔法の鍛錬もオルテガの息子であるがゆえに、わざわざ国王が直々に紹介してくれた戦士や魔法使いに世話になっていた。稽古に来たと言えばよっぽどの事がない限り、衛兵もユウを通してくれる。
 そして少女を探してオルテガの墓標に来ていたセリアは、ユウに稽古をつけてくれる人間の一人だ。
 セリアは女性ながら騎士団に所属し、さらにはその実力を買われて23歳という若さで近衛兵団の団員に抜擢された。性格はやや短気ではあるが義理や情に厚く、ユウにとっては剣の師匠であり姉の様な存在だった。難点は怒らせると手が付けられなくなることだろう。

 城内に入って騎士団の詰め所に顔を出すと案の定、セリアが鬼の形相で椅子に座り苛立たし気に足をゆすっていた。どうやら目当ての少女はまだ見つかっていないらしい。


「見つからない?」

「ない。今はレンが探しに行ってる」


 まぁ冷静じゃないしね、今は。若干呆れながらユウが嘆息する。彼女の様相からすれば相当イラついているはずで、そんな状態で近衛兵団員の彼女が街の中を駆けずり回っていれば、町民だって何かあったのかと怪しむだろう。
 そんな状態の彼女を野放しにしておけるはずもないので、おそらくセリアと同じくして近衛兵団に所属している武闘家のレンが彼女をなだめたに違いない。彼なら上手く彼女をなだめすかして城にとどまらせることは容易いはずだ。
 レンの詳しい役職をユウは知らないが、近衛兵団のブレーンみたいなものだと聞いている。軍師は他にいるので、その補佐みたいなものだと本人は言っていたが、確かにいつも冷静で頭がよくきれる。頭がいいだけでなく腕も立つので、彼にもユウはよく稽古をつけてもらっていた。


「……ちょっと気になったんだけど」

「なに」


 眉間に深く皺を刻み、腕組みをして足をゆすり続けるセリアの対面に腰かけながら、ユウが口を開いた。
 セリアは睨みつけるようにユウに首を向け、低く呻る様に返事をされたので思わずユウは首をすくめたが、睨みつけるセリアから視線を外さずに話を続けた。


「どうして今になって彼女が見つかったんだ?」


 険しい表情を浮かべるセリアをじっと見つめたままユウが首をかしげる。
 ユウの記憶が正しければ、少女は当の昔に死んだことになっていたはずだ。いや正しくは生死不明だったのだから生きていてもおかしくはないのだろうが、それは誰も安否の確認に行くことができない状況だったからこそ生死不明という扱いになっていただけで、実際生きてあの年齢まで成長できたということすら奇跡だと言っても過言ではない。
 そもそも生きていたのならなぜ今まで見つからなかったのか。そしてなぜ今になって現れたのか。
 そう考えて少女が昔言っていたことを思い出す。自分は城の外に出てはいけない。出ると恐ろしいものがさらいに来る。記憶は幼いころのもので曖昧な部分もあるが、概ねそんな感じの事を言ってはいなかったか。
 少女の国が滅んだことと、少女の言っていた事柄は繋がっていたのだろうか。少女がいたから国が襲われ、でもその少女は生き延びてきた。生き延びてこれた理由は分からないが、もし本当に少女が狙われて国すら滅ぼされたのだとしたら。

    ここに彼女が留まるなら、アリアハンもただでは済まないかもしれない。

 すべては憶測で断定はできないが、もしその考えが正しければ、そして少女の居所が少女の国を襲ってきた連中に知られていたとしたら、間違いなくここを狙ってくるはずなのだ。
 思ったよりも真剣で真っすぐなユウの視線にセリアは驚いたように瞳を見開き、でもすぐに眉間に皺を寄せて答えようと口を開きかけ。


「……騒がしいわね」


 詰め所の扉の向こうで慌ただしく人の動く気配を感じて、何か聞きたそうなユウをセリアが片手で制しながら耳をそばだてたところで、けたたましい警鐘が鳴り響いた。
 その音に二人そろって椅子を蹴って立ち上がり詰め所の扉を開くと、外では兵士たちが右へ左へと走り回っており、セリアが目の前を走り抜けようとしていた兵士の腕を捕まえながら呼び止めた。


「何があったの!?」

「あっ……セリア様! そ、それが……ま、魔物が突然空から降ってきて……!!」

「なに……あっ、ちょっとユウ! 待ちなさい、ユウ!!」


 予感は的中したかもしれない。ひどくうろたえた様子の兵士の言葉を最後まで聞くことなく、ユウがはじかれた様に走り出す。背中でセリアの呼び止める声が聞こえたが、足を止めることはしなかった。
 騎士団の敷地を駆け抜け城門を飛び出したところでは、すでに兵士たちが魔物と交戦しているところだった。
 加勢しようと腰に下げていた剣に手をかけ、ふと視線を上げると跳ね橋の向こうに立ち、こちらに向かって手をかざしている少女と青年が目に留まった。オルテガの墓前にいた銀髪の少女ティアラに、近衛兵団員のレンだ。


「ベギラマ!!」


 二人の名前を呼ぶより早く、少女が呪文を唱えてかざしていた手を振り下ろす。途端にまばゆい閃光が走り、続いて熱風が駆け抜けた。その光と熱を片腕を上げて遮り、視界が回復したところでもう一度顔を上げれば、交戦していた兵士を残して魔物達は綺麗に消し去られていた。
 その威力に唖然とする兵士立ちをよそに、少女は一瞬だけユウに視線を送ってきたが、すぐにはっとしたように目を見開き城門の上部に視線を移した。
 釣られるようにユウも視線を上げようとしたが、それより早く目の前に何かが降り立った。漆黒のローブを頭まですっぽり被った、どうやら人型の何かであることは分かったが、ユウに対して背を向けているので顔までは見えない。
 けれど目の前の人物の気配に足元から這い上がってくるような冷たさを感じて、ユウはじりじりと様子を伺いながら後退したが、ふいにローブの人物がこちらを振り返った。
 図らずも合った視線に、足元からゆっくり這い上がってきているだけだった冷たい感触が、一気に背中を駆け抜けていき全身の肌が粟立った。理由は分からない。でも本能というものが備わっているのであれば、それがこれは危険だと訴えているような気がした。


「……オルテガの息子か」

「だったら……なんだ」


 低く地の底から響いてくるような声。その声から性別は男だということは判断できた。ローブの隙間から覗く瞳は燃える様に赤く、口元には不気味な笑みをたたえているのに、表情は氷のように冷たい。
 嫌な汗が背中を伝っていくのが分かったが、目をそらすことも後ろに下がることもできなかった。少しでも動けば命はない。そんな気にさせる気配。その気配に気圧されているのが、自分でもわかった。


「目障りだ」

「な……」


 言うが早いがローブの男はユウに向かって手をかざし、次の瞬間にはその手のひらでみるみる火球が膨れ上がった。


「イオラ」


 男が紡いだ文言と共に火球が弾けた。とたんに激しい爆発音と共に跳ね橋の板は炎をまとってめくり上がり、爆風がそれを巻き上げ、さらにはレンガ造りの城門も一部吹き飛ばして激しい砂煙を舞い上げる。
 巻き込まれたて吹き飛ばされた兵士たちは、堀に落ちたり城壁に叩きつけられたりして、あたりには怒号が飛び交い状況は混乱を極めていた。
 その様子を心底面白いものを見るように眺めていた男が、すぅっと流れるように少女を振り返る。


「さて……」

「子どもだと思って舐めない方がいいぞ」


 両手を正面に構えた少女の横で赤い髪の青年、レンが口の端を釣り上げて皮肉っぽく笑った。
 その様子を訝しそうに見ていたローブの男が、ハッとした様に目を見開いて立ち昇る砂煙を振り返る。砂煙中から光の壁が浮き上がって来たかと思うとそれを切り裂くように剣が突き出され、短い気合いと共に砂煙の中からユウが飛び出し、男との間合いを瞬時に詰めて真横に剣を薙いだ。
 不意を突かれた男は寸ででその切っ先を交わしたが、ローブの端がわずかに切れて頬にうっすら血が滲んだ。その血を指先で拭い、眉間に深く皺を刻んで両手に剣を構え肩で呼吸するユウを睨みつけた。


「なるほど……王女のマホカンタが間に合ったか。確かに子供ではないな。貴様も王女も。面白い! 面白いぞルビス!!」


 その言葉は独り言なのか、それともユウに対して発せられているのか判断に苦しんだが、男はひとしきり笑った後、少女に向かって一瞥をくれ、すぐにユウを睨みつけて再び冷たく笑った。


「いいだろう。せいぜいあがけよ、オルテガの息子。もし私の元へ辿りつけたその時には……貴様にも私と同じ絶望を与えてやろう」


 喉の奥で不気味に笑った男は、そのまま吹いてきた一陣の風と共に忽然と姿を消した。
 その場にいた誰一人として声を上げることもできず、ただ呆然と男が消えたそこを見つめることしか出来なかった。


20160418 初稿


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