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天 球 儀

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蒼天の系譜 【第一幕】 ...02

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【第一幕】 遥かなる旅路へ


02



「……あれ」


 父の墓標が見える場所まで来て、先を歩いていた友人たちがふと足を止めた。


「なに……」

「いや、ほら」


 足を止めた彼らに並ぶと、中の一人が父の墓標に向かって指をさした。その指先を目で辿っていくと、ユウたちより先に墓標に向かっている人影が見えた。 後姿から見るに、おそらくユウと同年代くらいだろうと推測できる少女のようだ。
 父の墓参りに訪れる人間は少なくない。実際、毎日誰かしらが来ていて、いつもたくさんの花に囲まれている。そのほとんどがこの町の住人で、ユウとは顔見知りな人たちばかりだ。 しかも同じ年頃なら余計に知らない顔はない。しかし今日墓標の前にいる少女は、見慣れない容姿をしていた。
 友人たちを見回してみれば、全員が肩をすくめて首をかしげている。自分を含めて誰一人、心当たりがないようだ。


「あの……」


 全員と視線を交わしてユウが小さくうなずき、ゆっくり近付いて声をかけると、少女は驚いたのかびくりと肩を震わせて弾かれたように振り返った。 一つにまとめられて高く結い上げられた長い銀色の髪がふわりと舞い、さらさらと静かに風になびかれる。
 振り返った少女は、ガーネット色の大きな瞳を見開いて驚いたようにユウを見つめていたが、やがてゆっくり立ち上がると、ふわりと笑った。


「こんにちは」


 銀色の髪に赤い瞳。見たことのない少女の珍しい容姿に、ぽかんとそれを見つめていたユウは、声をかけられてようやく我に返り、こんにちはと釣られるように挨拶を返す。
 少女の容姿に見とれていた自分に気がついて、心なしか頬が熱くなるのを感じた。周りの友人たちも少女の容姿に、にわかに色めきだっている様子がうかがえる。


「父の……墓に何か?」


 微笑む少女に戸惑いながら声をかけると、少女は小さく頷いてゆっくり墓標を振り返った。


「私の父がオルテガ様にはとてもお世話になったの。亡くなられたって聞いたから……父の代わりにせめてお墓にだけでもお礼がしたくて」


 墓標を見つめて少女がそう呟き、視線をユウに戻して、あの、と声をかける。
 きょとんとしているユウに、少女は暫く戸惑うように視線をさまよわせていたが、再びユウを見上げて小さく首を傾げた。


「あなた……オルテガ様のご子息の……ユウ……よね?」

「そう、だけど」


 自分をじっと見上げてくる少女の問いに、ユウがどぎまぎしつつ答える。
 白く透き通るような肌、濡れたような長いまつげが飾られたガーネット色の大きな瞳。何より珍しい銀色の長い髪。小柄な容姿に似合わないスタイルの良さ。かなりの美少女だ。
 そんな少女に見つめられ、どうしたらいいのか分からずユウが戸惑っていると、少女は困ったような表情を浮かべてもう一度うかがうように小首を傾げた。


「私のこと、覚えてない?」

「え……」


 首をかしげる少女に、今度はユウが困惑して言葉を失った。
 覚えてるかと聞かれても、目の前にいるような美少女に知り合いなどいるはずもなく、どう答えていい分からずにうろたえていると、少女はおもむろに耳にかかった髪をかきあげて その耳たぶをユウに見えるように差し出す。 耳に飾られた小さなサファイアのピアスを見て、ユウがハッとして息を呑んだ。

 はめ殺しの格子戸に降り注ぐ日の光。その光を反射してキラキラ輝く、どこまでも続く長い廊下。そして窓の向こうに広がる、広大な森と大空を羽ばたいていく鳥。 それを一緒に眺めた少女と交わした約束。それは紛れもなく、その証として交換した自分のピアスだ。
 いつも見る夢の中の少女は、大きなガーネット色の瞳でじっと自分を見つめていた。目の前に居る少女と、同じ微笑を浮かべて。


「……ティアラ?」


 ストン、と自分の中で何かがはまった気がした。ぼやけていた夢の中の彼女の姿と、目の前で微笑む少女の姿が重なった。 目の前に立つのは間違いなく、自分が子供の頃出会った少女だ。
 しかし夢の中の少女が誰だったのか思い出したことよりも、彼女が今ここに存在していることに愕然とする。
 ユウは満足そうな笑みを浮かべている少女を、信じられないものを見るような目つきで見つめ、どうして、と思わず呟いた。 いや実際信じられなかった。彼女が生きて、自分の目の前に立っていることが。


「だって……」


 つぶやきかけた所で、少女が人差し指を自らの唇にあてて首を振る。 少女のその仕草に、今ここで、周りに自分の友人たちがいる状況で、言葉の続きを口にする事は憚られるのだと気が付き、ユウは喉まで出かかった言葉を飲み込んだ。


「また後でね?」


 仕草の意味を悟ってくれたユウに満足したのか、少女はにっこり微笑むと、すぅっとユウの横に近づいて小さく囁いた。
 少女が通り過ぎたのと同時に、強い風が駆け抜けていく。墓前の花を揺らし、丘に立つ木々が音を立ててこすれ、少女のかすかな香りを、その気配すら消すように通り過ぎた風に眉根を寄せ、 風の後を追うように振り返ってみても、すでに少女の姿はどこにもなかった。
 その場にいた友人たちを含め、全員が夢でも見ていたかのように丘を下っていく道をぽかんとしたまま見つめていると、不意に道の向こうから人影が駆け上がってくるのが見えた。 薄亜麻色の髪を揺らしながら駆けてくるのは、騎士団の甲冑を身に着けた年若い女性だ。


「セリア?」


 酷くあわてたように駆けてくる女性をいぶかしむ様に眺め、ユウが女性の名を口にする。
 セリアと呼ばれた女性は、いぶかしげな顔をするユウに向かって目を見開き、ぽかんと口を開いて指をさすと、今度は自分が駆け上がってきた道を振り返ってそちらを眺め、再びユウに視線を戻した。


「やられたーっ!!」


 彼女の不可解な行動に、ユウも友人たちも顔をしかめて顔を見合わせたが、彼女が突然悲鳴にも似た声で叫んだので、思わず肩をすくめてこわばった。
 全員でしきりに何かを悔しがるセリアを眺め、何があったのか聞けよと誰からともなく互いの隣を肘でつつきあい、そのあと一斉にユウに視線が送られた。この中で彼女と一番親しいのは、ユウなのだ。
 ユウは自分を見る友人たちをふざけんなと言わんばかりに睨みつけたが、次の瞬間にはセリアに両肩を掴まれて、思わず視線を彼女に移してしまった。


「ど……どうかした?」

「今ここに!! あんたたちと同じくらいの女の子いなかった!?」

「い、いたよ……でもセリアが上がってくる時にすれ違っただろ?」


 この丘に続く道は一本だけだ。しかも両脇は麦畑になっている上に、今はまだ時期ではないので畑は閑散としている。隠れようにも見晴らしがよすぎて身を隠す場所はどこにもない。 同じ道を辿っていけば当然すれ違うはずだし、少女が戻ったタイミングとセリアが上ってきたタイミングを考えれば、姿を見なかったということはまずあり得ないだろう。
 しかしセリアは何も答えず、彼女の勢いに面喰っているユウをじっと眺めた後、おもむろに手を伸ばしてその頬をひねりあげた。突然発生した痛みにユウが悲鳴を上げ、思わず自分の頬を抓りあげる手を叩き落とす。 直後に彼女に逆らったことに対してしまったと思って身を固くしたが、彼女は顔をしかめてまじまじとユウを眺め、あきらめたようにため息をついた。


「あんたは本物なのね」

「何の話だよ!? つーかなんだよいきなり人の顔抓って!!」


 訳も分からず抓られて、一人で勝手に自己完結したセリアに抗議をしたが、彼女はまったく人の話を聞いていないようでしばらく考え込んだ後、ユウの後ろに控えている彼の友人たちに一瞥をくれ、ちょっと、とユウの腕を引いて彼らから少し離れた場所に誘導した。


「彼女が誰か、知ってるわね?」

「……セリアが彼女を追ってきたってことは、たぶん俺の知ってる彼女で間違いないと思う」


 セリアは宮廷に騎士団に所属する戦士だ。歳は若いが実力を買われているので、それなりの地位を確立している。国王からの信頼も厚い人物だ。
 そんな彼女が一人の小娘ごときで慌てふためくくらいなのだからよほどのことで、そしてその小娘の立場を知っていればそれは当然のことだと言える。


「……さっき、そこの道であんたに会ったの」

「……は?」

「だからこういう娘を知らないかって聞いたら、この先にいるって。だから私はここに来た。でもあの方はおらず、あんたがいた。どういうことだかわかる?」

「ごめん、ちょっとわかんない。だって俺はずっとここに……」


 あぁ、そうか。思い出した。さっきの彼女がどういう人物なのか。どういう能力を持っているのか。幼少の頃に少しだけ力を見せてもらったことはあるが、あの頃はまだ本当に初歩の初歩である力しか持っていなかった。それでも、それこそ年端もいかないような子どもがそんな力を持っているということ自体が類まれであることは、自分も魔法を習うようになってから知った。


「モシャス?」

「たぶん。あぁ、もう! だから魔法の使える人間は厄介なのよ」

「厄介扱いは不味いんじゃない?」


 眉間に皺を寄せて呟いたユウに、セリアは深々とため息をつきながら肩を落とした。彼女はおそらくセリアが上がってくるのが見えて、とっさに変身魔法であるモシャスを使ってユウに化けたのだろう。一度でも見たことのある人物になら、よほどのことがない限りは化けることができる。ユウには直前で会っていたので、それも可能だったはずだ。
 そして確かに彼女には魔法使いの能力が備わっている。長いこと会っていなかった間にその力が強くなってはいたのだろうが、それでもモシャスを扱えるということは相当の能力だ。ユウが魔法を習っている王宮の魔法使いも、そこまで強くはない。そんな彼女だ。護衛を出し抜くのもわけなかっただろう。
 しかしセリアの立場から彼女を厄介者扱いするのは上手くない。苦笑したユウに、わかってるわよ、とセリアが吐き捨てるように呟いた。


「私は彼女を探すのに戻る。あんたには多分、また接触があると思うからその時は知らせて。絶対、逃がさないでよ」

「いいけど、騒ぎになってないのかよ」

「今はまだね。でも曲がりなりにも国王の賓客って扱いの人間が脱走なんて洒落にならない」


 遠巻きにこちらを訝しそうに伺うユウの友人たちを気にしつつ、セリアが声を潜めながらそれでも険しい表情でユウにそう伝え、最後に頼んだわよ、と肩を叩くと弾かれた様に踵を返して丘を駆け下りて行った。
 その後姿を見送りながら、ユウはこの事態を友人たちにどう説明しようかと頭を抱えたくなって深々と嘆息した。


20160404 初稿


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