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天 球 儀

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蒼天の系譜 【第三幕】 ...10

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【第三幕】 砂塵に舞うは


10








 外の世界から一切遮断された地下に音など当然あるはずもなく、響いてくるのは三人分の足音。時折、散らばった何かしらの骨を踏んでは乾いた音が挟まることはあったが、口を聞く者は誰一人いなかった。
 それはそれで何となく気まずくはある。ヒルデの後ろをついてくる二人はもしかしたら、先ほどの出来事を反芻しているのかもしれないが、特にお互いが意見を交わすという様子も見受けられない。
 足を止めることはせず、ヒルデは肩越しに僅かに振り返って背後を伺う。二人とも特に考え込んでいる風でもなく、ただ黙々とヒルデの後ろをついてきていた。
 ただ。なんとなくではあるが、先ほどの件からユウの気配が変わったような気がしていた。確かに今までも周りに気を配っているということは分かっていた。それはもちろんしんがりを務めるのだから当然の話ではある。それくらいの気配りはできるのかと、ヒルデはやや馬鹿にしていたのも確かだ。けれど今感じているのは、そういう類のものではない。
 それは先ほど目の当たりにした、彼の瞳があまりにもオルテガに酷似していたせいで、ヒルデ自身がユウへの意識が変わりつつある所為か、本当に彼のまとう気配が変わったせいか。
 おそらく後者だろう。確かにユウの対するヒルデの意識の変化もある。けれどそれだけではなく、明らかに背後から感じるユウの殺気にも似た鋭さを感じるその気配。気を抜くと後ろから一息に貫かれるのではないだろうかと思わせる緊張感。
 外から完全に遮断されている所為か、この地下は上よりも暑くはない。むしろ涼しいくらいではあるが、汗がヒルデの顎を伝って流れ落ちて行く。その気配だけ鑑をみても、本当に城であの腑抜けた様を見せた人間と同一人物なのだろうかと思わせる。どうして。


「ヒルデ」


 考え事をしているところに突然背後から声をかけられ、思わず悲鳴を上げて飛び上がりそうになったのをどうにかこらえ、なに? と足を止めて緊張気味に振り返る。
 いつの間にかユウはティアラを追い越してヒルデのすぐそばに立っていた。けれど声をかけたくせにヒルデのことを見るでもなく、自分たちの進行方向を目を凝らすように睨みつけいた。
 訝し気に顔をしかめて口を開きかけたヒルデを彼は片手で制し、そのまま静かにするようにとでもいう様に人差し指を口元に当てた。


「何か来る」

「え?」


 ユウの言葉にヒルデがますます眉間の皺を深くする。向かっている方向はもうすぐ出口だ。しかも外から正規のルートでここへ来るためには特殊な手順が必要で、それを知っているのは一部の人間だけのはずなので、もし何かあるのだとすれば魔物の類だろう。あるいは上部の探索を終えた、エイルたちだろうか。
 ヒルデとてそれなりに鍛錬を積んでいる戦士だ。魔物の気配位は察知できる。しかしこれから進もうとしている先に、そういった邪悪な気配は感じられない。魔物でないにしろ、ユウの言うコチラに向かってきている何かの気配すら感じられない。
 険しい表情を浮かべるユウを不審そうに眺め、その視線を彼が睨む様に凝視している通路の先へ向けて意識を集中させてみたが、やはり何の気配も感じない。
 しかし。しばらく通路の先の曲がり角を見つめていると、明かりに照らし出された長い影が通路に落ちてくるのが見えた。その影からして形としては人間のようではある。
 この時点で人間がここへ来るのであれば、それはヒルデの上司であるエイルたちが上部の探索を終えて自分たちを探しに来てくれたと考えるのが妥当だろう。彼女たちなら邪悪なものではないのだから、気配を感じられないのもうなずける。
 暫く固唾を飲んで見守っていると影はやはりこちらに向かってくているらしく、長く伸びていた影が徐々に縮まり、やがて通路を折れてその”何か”が姿を現した。


「た……隊長……」


 確かにそこに現れたのは自分のよく見知った上司であるエイルだったので、思わずホッと息をつく。別に魔物だったとしても、ここに出てくる程度のものだったのなら対処できないわけではないのだが、ユウがやたらと緊張感を煽ってくるので自分でも無意識のうちに必要以上に警戒してしまっていたのだろう。


「どうしてこちらへ?」

「遅いので迎えに。お二人ともご無事で何よりです。それにヒルデも」


 エイルは微笑みかけながらヒルデの傍まで歩み寄り、その肩を小さく叩く。その手のぬくもりに気が抜けたようにヒルデは息をつき、はい、と笑って頷いて見せる。
 それを見たエイルはもう一度ヒルデに笑いかけると、すいと視線を後ろに控える二人に向けた。彼女の視線を追いかけるようにヒルデもユウとティアラに視線を向け。
 何故か二人は険しい表情を浮かべてこちらを伺っていた。特にティアラはどこか怯えるような表情で、ユウの背中に隠れる様に彼にしがみ付いている。


「なに……」

「……おまえは何だ?」


 訝し気に眉をひそめて口を開きかけたヒルデの言葉を遮る様に、ユウが低く呻った。
 何を言いだすのか。思わず呆れかえってエイルの表情を伺う。彼女はどこか困ったように笑って首をかしげていた。ユウが警戒する彼女はその姿も気配もまごうことなく、ヒルデの上司であるエイルだ。


「落ちた時に頭でも打ったんじゃないのか?」


 ヒルデは冷笑しながらユウに皮肉を漏らす。けれどユウは一瞬だけ彼女に視線を、しかも若干の侮蔑を込めた様に向け、すぐにエイルへと視線を戻した。


「さっきからなんなんだ。腰抜けなだけじゃなくて、本物の馬鹿なのかおまえは」

「どうとでも言えばいいよ。その人が、本当に君の知ってる隊長さんならね」

「何をおっしゃっているのか理解しかねます。さぁ、一緒に戻りましょう? ティアラ様」


 馬鹿にしたように鼻を鳴らしたヒルデには目も向けずエイルを睨みつけたままのユウに、エイルは呆れた様に息をついて首を振り、ユウの背後に隠れているティアラに向かって手を差し出した。
 呼ばれたティアラはびくりと肩を震わせ、そろそろとユウの背中から顔を出して自分の名を呼んだエイルを一瞥し、そのままユウをそっと見上げる。ユウはわずかに視線を下げてティアラに小さく笑いかけ、すぐにエイルに鋭く視線を戻した。


「気配は真似できても匂いは消せないんだな。彼女はおまえみたいに血の匂いなんてさせてなかった……見くびるなよ」


 ふ、とヒルデの横で空気が動いた。え、と思った瞬間には何かが空を切る音と同時に、なぜかティアラがヒルデ倒れ込む様に押し出されてきた。
 転びそうになっていた少女を慌てて支えて顔を上げた時にはすでに、ユウは数歩後ろに下がって剣を抜いてその場で構えていた。ユウとティアラが立っていた場所では、エイルが剣を振り下ろしてユウを上目遣いに睨みつけている。それはつまり。

    隊長が? あの二人のどちらかを切ろうとした?

 ただ押し出されてきたティアラには目もくれずユウを睨みつけているということは、おそらく狙いはユウなのだろう。でもなぜ、エイルがこの少年を襲う必要があるのか。
 混乱を極めたヒルデがにらみ合うユウとエイルを交互に見比べていると、ティアラが小さくヒルデの外套を引っ張った。視線を落とせば少女は黙ったまま首を振り、その視線を対峙する二人に送った。まるでヒルデに、見ていればわかるという様に。


「ヒルデ!! ティアラを頼む!!」

「こざかしいガキが!!」


 言うが早いがエイルは剣を閃かせ、再びユウに切りかかっていく。その剣先を少年はすれすれのところで避けていた。通路が狭くあまり大きく動けないせいもあるのだろうが、それを考慮したとしても、彼はエイルの剣筋を見切って避けているのは明らかだ。
 エイルは間違いなく王宮で最強クラスの戦士であり、ヒルデも彼女に勝てたことはただの一度もない。誰かが成りすましているにしてはあまりにも剣筋が似すぎている。これではまるっきり本人だ。気配だって、ヒルデにはいつものエイルと同じだった。なのに。
 ユウは今目の前でまさに襲い掛かってきているエイルを本人ではないと断定し、あまつさえその攻撃を危なげもなく避けている。王宮で見せたヒルデの剣戟すらろくにさばけなかったあの無様な姿はどこにもない。


「どうした!? 避けるので精いっぱいで反撃もまともにできないのか!?」


 嘲笑すら浮かべるエイルがどこか嬉々としたよう声を上げたが、ヒルデはそうではないと確信していた。
 ユウが剣を握る右手はここに落ちた時に負傷し包帯がまかれている。とてもではないがまともな打ち合いはできないだろう。だからこそ無理に右手で振ずに、相手の隙を見ているのではないだろうか。エイルを相手にしてなおそれができるということは、彼がそれだけ強いということだ。
 けれど避けているだけではどうにもならないことも事実で。ヒルデがそう思った瞬間、エイルが突然剣筋を変えた。彼女も今までは様子を見ていたのだ。ただユウが避けることに徹したことで、取るに足らないとでも判断したのだろう。一気に畳みかけるつもりであることが見て取れた。
 ユウもさすがに避けきれないと即座に判断したらしく、下から切り上げてきた剣を受け止めたが、その衝撃が負傷部に響いたのか顔を歪めて歯を食いしばった。
 その表情を見たエイルが口元を歪めて醜く笑ったのをヒルデは見逃さなかった。彼女はそんな風に笑ったりはしない。ヒルデの知っているエイルならばしないはずだ。ではこれは誰だ。
 ゾッとした。同じ顔、同じ剣筋、同じ気配。さっきまではまごうことなきエイルだったはずなのに。違うと悟ったとたん、醜い魔物のように見えてくる。実際、醜く笑ったその表情は人間の物ではないようにも見えた。
 エイルは、いやエイルだったそれは醜く顔をゆがめたまま剣を引こうとして。それより早くユウが受け止めた自分の剣でそのまま彼女の剣を跳ね上げた。
 まさか苦痛に顔を歪めた人間に反撃されるとは思わなかったのか、それともユウのその力の強さと勢いに気おされたのか、余裕すら感じさせて笑っていたエイルの表情が一瞬凍りつき。その凍り付いた表情のままエイルは充血した目をこぼれ落ちんばかりに見開いて、自分の胸に沈むユウの剣の切っ先を見下ろした。
 信じられなかった。確かに彼女はエイルではなかったかもしれない。別の何かが彼女になり澄ましていただけなのかもしれない。それでも人の形を成したものに、あのユウが。情けない困ったような笑みばかり見せて、柔弱さのにじみ出ている、ヒルデと同じ歳とは思えないくらい幼さを感じさせた彼が、迷うことなく手にしていた剣をエイルの胸に、渾身の力を込めて沈めているその姿が。人の形をしたもの、しかも見知らぬ人間ではないものを切るのだ。少しくらい躊躇いがありそうなものなのに、今の彼はまるでそれを感じさせなかった。


「ば……馬鹿な……この女の、記憶の貴様は……」

「……人間を相手に戦いたいわけじゃないからね。俺を弱く思おうが情けなく思おうが、相手の自由だ」


 言いながらユウは剣を持つ手を不意にひねり、胸に沈んだその切っ先を無造作に引き抜く。ごぼり、と音を立ててエイルだったそれが口から血の泡を吐き出し、信じられないようなものを見る様に大きく目を見開いたままあおむけに倒れて行った。その胸部と貫かれた背部から血があふれ出しみるみる血だまりを作り。


「あ……っ!?」


 エイルの姿かたちをしていたそれが風船のようにしぼみ、やがて血だまりの中に老人のような顔に手足が生えたような魔物が浮かび上がってきた。


「ま、魔物……?」

「魔法で化けていたみたいね。それにしても……」


 血だまりに溶けるように地と同じ色の泡となって消えて行く魔物を見ながら、ティアラが口元に手をあて思案するようなそぶりを見せた。
 なに? とヒルデが首をかしげる。ティアラはハッとしたような表情を浮かべ、すぐに曖昧に笑ってなんでもないわと首を振った。
 訝しく思いはしたがどうせ問い詰めたところで先の件と同様に言い含められて終わるのだろう。あるいは、はぐらかされてしまうか。力で負けはしなくとも、口では絶対に彼女の勝てる気はしない。というかきっと勝てない。
 それはともかく。


「まさか隊長……いや隊長ではないのか。い、いやでも、隊長と同じ強さだったのだから……隊長が、負けるなんて……」

「まぁ、それだけ彼女もユウを軽く見ていたってことなんじゃないかしら?」

「それはっ……だって、でもそれならなんで……馬鹿にされておまえは悔しいとか思わないのか!? 仮にもオルテガさまの息子でありながらそんな……プライドくらいあるだろう!?」


 確かにヒルデもユウを過小評価していた。あの英雄の息子だというのだからどれほどの人間か試してみたかったからこそ、王宮でユウに切りかかってみた。結果は見るに堪えないもので心底ガッカリしたし、あの英雄の息子がここまで情けないなんてと腹も立った。だから馬鹿にしていた。
 ヒルデが思うくらいなのだから、エイルが何も思わなかったはずはない。彼女とてオルテガに憧れて戦士の道を選んだ一人だったのだから。
 ユウだって馬鹿にされていることくらい分かっていたはずだ。なのに怒りもしなければ咎めることすらしなかった。それが余計に疎ましく思わせた。
 ユウは自分の剣を振り抜いて血を払い、要らない布でひと拭きしてから鞘に納めて声を荒げたヒルデを真っすぐ見た。正面から思ったよりも真剣な眼差しを向けられ、思わずたじろぐ。


「言っただろ。俺は別に人間を相手にしたいわけじゃないって。力を誇示したくて強くなりたいわけじゃないんだ。誇りだのなんだのなんて、自分を守るための言い訳なんかどうでもいいよ。俺が守りたいのは……俺が大切だと思う人たちだけだから」


 それとも、とユウが僅かに眉間に皺を寄せる。初めてみる彼の、不快感を露わにしたその表情。ヒルデが今まで彼に向けていたそれと同じ、侮蔑を込めるようなその視線。


「君は守りたいものがあったからではなく、力を誇示するために強くなりたいのか? ならオルテガに憧れてなんて言うな。あの人は、父さんはそんなくだらない理由で強くあろうとしたわけじゃない……馬鹿にするなよ」


 低く呻る様に吐いたユウの言葉とその気配が、ヒルデの肌だけでなく心臓をもをちくりと刺した気がした。そして思いだした。幼い頃、オルテガにかけられた言葉。その意味。

    あぁ、そうか。私は。

 あの人は何と言っていた? 何故強くなりたいのかと、強くなるだけなら簡単だけれど、その先に何を望むのかとまであの人は聞いていた。もちろん、ヒルデはあなたのような英雄になりたいと即座に答えた。自分の答えにあの人は少し困ったように、そう、ユウと全く同じ顔で笑った。
 そして彼は言ったのだ。自分を英雄だなんて思ったことはないと。それはただ、大切な人たちを守るために戦ってきた結果でしかないのだと。
 そんなことずっと忘れていた。そして今でも何のために強くなりたいかなんて考えもしていなかった。ただかの英雄のように強くなりたいと願うばかりで。
 だけどそれは自己満足だ。それでいいこともあるかもしれない。でもヒルデは兵士だ。国を、陛下を、民を守ることが役割のはずだ。それなのに自分は。
 表情を硬くして強張っていたヒルデが、ふと肩の力を抜いて笑った。まるで憑き物が落ちたかのように穏やかに。


「そう、ですね。昔オルテガさまに、何のために強くなりたいかと問われたことがありました。きっと……あなたのおっしゃるような答えをあの方は望んでおられたのでしょう。あの方も、大切な人の為に戦っていると、そうおっしゃっていました。今のあなたのように……あなたは間違いなく、あの方のご子息だ」


 そう言ってヒルデは小さく息をつき苦笑しながら小さく肩をすくめた。
 彼女の言葉のどこに引っかかったのかヒルデには分からなかったが、ユウは小首をかしげて肩をすくめながら複雑そうな笑みを浮かべ、その隣ではなぜかティアラが笑いをかみ殺そうと俯きながら口元に手を当て、でも小さく肩を震わせていた。



20180920 初稿
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