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天 球 儀

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蒼天の系譜 【第三幕】 ...07

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【第三幕】 砂塵に舞うは


07







「ようこそ砂漠の国、イシスへ。国の代表として皆様を心より歓迎いたします」


 玉座の前に立ち、目の前に並んで控え首を垂れる面々に向かって砂漠の国の女王がにっこりと笑みを浮かべて見せた。
 肩口で切りそろえられた艶やかな黒髪、額には恐らくこの国固有の生物なのだろう、ティアラはコブラという蛇の一種だと教えてくれたが、その生物を模した黄金のサークレットを飾り、身に着けた真っ白なローブから除く両手首や長く白い首にも黄金に光り輝く装飾品を身に着けた女性。微笑みを浮かべるその顔は幼くも見えるし、成熟した女性にも見えるという、なんとも不思議な顔立ちをしていた。一言で言えば年齢不詳だ。


「歓迎痛みります、イシュタル陛下。ネクロゴンド国王が娘、ティアラ=オウラノス=ネクロゴンドにございます」


 女王の挨拶に率先して応えたティアラの言葉に、後ろで一瞬どよめきが上がる。ユウたちのパーティと一緒に通された、ヴァナディスの面々からだ。ひときわ大声を上げているのはリベルティーナだったが、座長に小突かれて渋々黙った。
 おそらく彼女の身分に、というよりは、とっくの昔に滅んだと思われた王家の生き残りであることの方に驚いたというのが正しいかもしれない。現にイシュタル以外の家臣たちはみな困惑したような表情を浮かべ、互いに顔色を窺っているのが分かった。
 しかしイシュタル自身は小さくうなずくと、首を垂れるティアラに顔を上げさせ、分かりますよと少女に優しく微笑みかけた。


「お顔立ちがあなたのお母様に瓜二つですもの」

「母……ですか?」


 微笑むイシュタルとは対照的に、唐突に母親の話題を出されたティアラが困惑気味に眉間に皺を寄せる。


「申し訳ございません陛下。私は母の顔を知りません。幼い頃もしかしたら、絵や写真を見たことがあるのかもしれませんが……生憎、記憶に残っておりませんので」

「もちろん、分かっています。それを親不孝だなどと責める気もありませんわ。ただ嬉しいのです。あなたのお母様は私の数少ない友人でしたから……あなたがこうして生きて、私に会いに来てくれた。私はそれが本当に嬉しい」

「母、の」


 懐かしそうに笑うイシュタルを見つめたまま、ティアラが言葉を詰まらせる。そのまま僅かに視線を外して何かを考えるようなそぶりを見せ、再びイシュタルに視線を戻して口を開きかけはしたが、女王はそんな少女の仕草を片手を上げて制した。


「聞きたいことは沢山あるでしょう。でも後ほどそれはゆっくりとお話しますから」


 今はまだ、ね? とユウたちパーティの後ろに視線をやりながら、サークレットに飾られた装飾をシャラシャラと品よく鳴らして、女王がいたずらっぽく小首をかしげた。
 ユウたちの後方には女王に招かれた一座も控えている。ティアラもそれで察したのか、静かに目を伏せて黙ったまま首を垂れた。本当だったら今すぐにでも聞きたいことだろう。それでも自制して、さらにそれを表に出さないところが彼女の大人なところだ。ユウなら性分からして、すぐに聞きはせずとも間違いなく不満が顔に出ている。
 そんなことを考えて眺めていたティアラの背中から視線を正面に戻すと、いつの間にか女王の視線が自分に向いていることに気が付き、慌てて頭を下げた。


「あなたが……オルテガさまのご子息ですね」

「はい。ユウ=イペリオネにございます」

「その顔立ち……確かにかつてのオルテガさまによく似ていらっしゃる」

「父を」


 ご存じなのですか、と聞こうとして、先にそれを察した女王が物悲しそうに微笑んで頷いた。


「ネクロゴンドへ足をお運びになる前、最後に立ち寄られたのがこの国でしたから……それに、若い時分にも幾度かお会いしたことがあります」


 そう告げながら女王はふいに視線を外し、広間の窓の外を見る様にその視線を遠くへと移した。そこに何があると言うわけでもない。ただ昔の、オルテガがこの国へ来た時のことを思い出しているのだろう。その横顔にはどこか悲壮感さえ漂わせていた。
 ここでも。どこへ行っても父の影が付いて回る。特にここ最近は女性関係が多くて、若干の不信感が生まれてきていることは否めない。
 僅かに眉間に皺の寄ったユウの脇腹をレンに突かれ、微妙に呻き声を漏らしたことで女王は我に返ったらしく、弾かれた様に視線をユウたちに戻して僅かに苦笑を漏らした。


「誤解なさらないでね? オルテガさまに心に決めた方がいらしたのは昔からよく知っていましたし、私はもとからそういうつもりは微塵もありませんでしたから。ただ……」


 表情を曇らせたユウの心情を察したのか、女王は静かに首を振り否定をしたが、すぐに眉間に皺を寄せて僅かに目を伏せた。


「あなたには……申し訳ないことをしたと思っています。あの時、お父上を留め切れていればあるいは……」


 そこまで言って女王が口をつぐみ、しばらく目を伏せたまま黙って。


「いえ、やめましょう。仮定の話などしたところで、私の勝手な懺悔にしかなりませんから」


 瞳を開いて女王は気を取り直したように、さっぱりと微笑んだ。
 もしかしたら。あるいは。あの時こういう選択をしていれば、違った道があっただろうか。誰もが抱える後悔の念。ロマリア王も言っていた。もっとカンダタが自分たちを頼ってくれれば、と。それぞれがそれぞれに、何かしら父に対して後悔の念を抱いている。
 そんな必要ないのに。そう思う自分は、父に対して薄情だろうか。でも父もそう思っていたのではないかと思う。それこそ、それが自分の選んだ答えなのだから、誰かが自責の念に駆られる必要なんて本当はないのに。
 ただ父も、もっと話し合えば良かったのではないかと思う。寡黙な人だったのだと言えば、そうなのかもしれない。口下手だったのかもしれないし、あるいは他人に頼ったり弱みを見せたりすることが苦手だったのかもしれない。

    あれ?

 そこまで考えてふと思い至った。言わなかったのではなく、言えなかった?
 勇者の、英雄の後継だと勝手に期待されたユウは、弱さを見せることが許されなかった。いや、許されなかったわけではないかもしれない。でも見せることが怖かった。勝手な期待だとしても、その期待が人々の希望であると分かっていたから。期待してくれる人たちを、落胆させたくなかったから。
 もしかしたら、父も同じだったのかもしれない。勇者とまで呼ばれる人間が弱さを見せるなんて、他人を頼るなんて。
 ただオルテガとユウの違いは、オルテガはそれでも自力でなんとかできてしまう力量が備わっていた。ユウにはまだ、それがない。何かを、誰かを守りたいと思っても、自分だけではまだどうにもならない。


「昔話はこの位にして、本題に入りましょう」


 考え事に没頭していたユウの耳に、イシュタルの言葉が届いた。ハッとして顔を上げると、いつの間にか彼女の手にはロマリア王から預かった親書が握られていた。
 優しく微笑んでいた口元を引き締め、ティアラから順々にパーティメンバーの顔を確かめるように視線を巡らせ。


「ロマリア王からのお話、委細承知いたしました。我が国も今後は同盟へ参加いたしましょう。イシスはネクロゴンドとは隣接している国です。今はまだあまり侵攻はないものの、あなた方の動き次第では激しくなる可能性があるかもしれない。そうなるとイシスはこの大陸防衛の要になるでしょう。あなた方が余計な心配をせずバラモス討伐に集中できるよう、イシスもできうる限りの協力をさせていただきます」

 言いながら女王は最後にユウとティアラを交互に見つめ、薄く笑みを浮かべた。なんとなく、本当になんとなくではあるが、それがせめてもの罪滅ぼしだとでも言っているような気がした。


「まずはそうですね、ピラミッドの内部探索の許可から、でよろしいですか?」

「はい。その親書にもしたためてあるかと存じますが、我々はネクロゴンドへ渡る方法を探しています。ピラミッドはかなり古い遺跡だと聞いておりますので、もしかしたらヒントがあるのではないかと思いまして」


 ユウに代わってレンが説明すると、女王はやや眉間に皺を寄せて僅かに困惑したような表情を浮かべた。


「そう、ですね。あそこは、はるか神話の時代から残る遺跡だと言い伝えられています。いつからかは分かりませんが、王家の墓所として使われている時代もありましたが……近年は魔物の巣窟と化していますし、かなり盗掘にもあっています。定期的に見回りや魔物の排除は行っていますが、キリもなく荒れ放題ですが、それでもよろしければ……エイル」


 レンの説明に頷いた女王が、傍に控えていた衛兵の一人に声をかける。この地域特有なのか、褐色の肌に赤く長い髪を詰めて結上げた、長身の女性兵士だ。軽装な装備から伸びる四肢はしなやかで、良く鍛え上げられているのがわかった。
 エイルと呼ばれた女性兵士は一礼して、近衛隊長だと名乗って笑みを浮かべた。肌が褐色であるせいか、白い歯がひときわ際立って見えるので、どことなく豪快な印象を与える笑みだ。


「巡回、および盗賊や魔物の排除を務めておりますので、ピラミッド内部は私にお任せください。それと……」


 エイルが言いかけて振り返ろうとした瞬間、ひゅ、と鋭い何かが空を切る音がユウの耳に届いた。それと同時に腰から外して右わきに置いていた自分の剣を掴んで後方へ飛ぶと、自分が膝をついていた場所、丁度首にあたるであろう空を剣が横薙ぎに通り過ぎたのが見えた。
 周囲に悲鳴とどよめきが起こったが、そんなことを気にしてる場合ではなく、空を薙いだ剣は瞬時に持ち主がユウとの距離を詰め、切り返されて下から顎をめがけて振り上げられる。それを顎を反らせて避けたが、中途半端な体勢だったせいで足がもつれてそのまま尻餅をついてしまった。

「いって……!!」


 かなりの勢いで転んで尾てい骨を強打したので、思わず悲鳴を上げる。気が付いたときには目の前に剣を突き出されていたが、ユウに剣を突き出した当人には、セリアとカンダタが両脇から首筋に短剣と剣を突き付けられていた。


「仮にも一国の使者に、その態度は失礼じゃないの? これがこの国の礼儀?」

「うちの大事な勇者様になんかしたら、ただじゃおかないぜお嬢ちゃん」


 剣の持ち主の耳元で、セリアが表情険しく冷たい口調でささやく。その反対でカンダタもおどける様に言ってはいたが、目はまったく笑っていない。持ち主である女性兵士……そう、まだユウとそんなに年の変わらなそうな少女がセリアとカンダタを睨みつけ、そのままさげすむ様な視線をユウに向ける。


「こんな軟弱そうな子供がオルテガさまの息子だなんて、私は認めない」

「さがりなさい、ヒルデ」

「イシュタル様もそうお思いではありませんか!? あの方は強かった! あんなに強かったお方の息子がこの程度だなんて……こんな無様な格好で、仲間に助けてもらわないと何もできないような子供だなんて……!!」

「ヒルデ」


 イシュタルに険しい表情で諫められた少女、ヒルデはまだ何か反論しようとしていたが、エイルに再び諫められて大人しく黙り、でも謝ることもせずただ頭だけを下げてエイルの後ろに下がった。
 カンダタは苦笑いで肩をすくめて短剣を納めたが、セリアは嫌悪感をあらわにしたまま今度はユウを睨んでくる。彼女の言わんとせんことは分かっていたので、声には出さずジェスチャーだけでごめんと伝えはしたが、彼女は全く納得していないようでその視線を再びヒルデに向けた。


「あなたはオルテガさまを知っているのね?」

「答える義理はない」


 表情は険しかったがなるべく静穏を取り繕ってセリアは聞いていたが、ヒルデはまるで取り付く島もないようにつっけんどんに答えたので、セリアのこめかみに力が入るのがユウにも分かった。
 止めようかとも思ったが、先にレンが片手でユウを制して、半分切れかかっているセリアの肩を小さく叩く。セリアはまだ納得いかないようではあったが、ふんと鼻を鳴らしてそっぽを向いた。まるで子供の喧嘩だ。
 尻餅をついたままのユウをティアラが心配そうにのぞき込んできたので、大丈夫という様に手を上げて答えながら苦笑した。


「大変失礼いたしました。ピラミッドへは私と、そこのヒルデでご案内します」

「はぁ!?」

「失礼は承知ですが、彼女もピラミッドには慣れておりますので、どうぞご承知おきください」


 頭を下げたエイルにセリアが素っ頓狂な声を上げたが、淡々と述べたエイルに渋々了承する。知らない土地の知らない遺跡を歩くのだから、当然道案内は必須なのでこればかりはしょうがない。
 なんとなくまた一波乱くる予感がする。自分を鬼の様な形相で睨むヒルデに苦笑いを浮かべながら、ユウは小さくため息をついた。


「陛下、もう一つお願いがございます」

「なんでしょう?」


 なんとか収まった場で、レンがおもむろにイシュタルに頭を下げる。女王がきょとんとして首をかしげた。


「仲間が一人、熱病にかかって宿に残っております。もしよろしければ、医師を紹介していただけませんでしょうか」


 レンの言葉にユウとティアラがハッとして顔を見合わせた。
 それはイシスに到着する直前、最後に休憩で立ち寄ったオアシスでの話だ。
 サリが昼間からあまり体調が良さそうではなかったのだが、オアシスに着いてからそれが顕著になった。高熱にうなされ、イシスに着いてからも熱は一向に下がらない。ティアラはおそらくこの土地特有の熱病ではないかと診断したが、だからと言って手持ちの薬草などでは対処療法しかできず、魔法で病気は治せないのでどうにもならない。仕方なく今は一座の座員に宿屋で見てもらっている状態だった。しかしこのまま放っておけば、命に関わる。
 頭を下げるレンにならって、ユウたちもお願いしますと膝をついて頭を下げると、イシュタルは優しく微笑んで頷いてくれた。


「分かりました。熱病でしたら私たちの方が詳しいですから、その方は城内で看病いたしましょう。あなた方は安心してピラミッドへ向かってください」

「ありがとうございます」


 微笑むイシュタルにもう一度深く首を垂れるレンを、どこか複雑そうに眺めるセリア。ユウはそれを、なんとなく見なかったことにはできなかった。ティアラもそれには気が付いていたようで、ユウを上目づかいで伺ってきはしたが、ただ肩をすくめて苦笑するだけにとどめる。
 あの二人はあの二人で、複雑なんだよな。自分とティアラも今、なんとなくぎこちない。複雑と言えば複雑なのだが、これは原因がはっきりしているので、そのうちきちんとけじめを付けなければいけないとは思う。
 けれどセリアとレンに関しては。複雑というかこじれているというか。こればかりは二人の問題なので、ユウやティアラが口を出すことではない。二人が決着を付けることなのだから。それがどんな結末であろうとも。



20180303 初稿
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