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天 球 儀

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蒼天の系譜 【第三幕】 ...05

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【第三幕】 砂塵に舞うは


05







 どこまでも続く砂地。遮る岩もほとんどないので、常に吹きすさぶ風がその砂を舞い上げ、そして風紋を描いていく。
 その紋を綺麗だ、なんて思えたのはそれこそは最初に見た時だけで、今思うことはとにかく熱い。暑いではなく熱いの一言に尽きる。
 確かに風は吹いているが、湿気を一切含まないその風はほぼ熱風で、しかも砂塵を舞い上げて容赦なく吹き付けて来る。もちろん、先に述べた通り風も日光も遮ってくれるような岩場もなければ、乾燥した砂地に木が生えているはずもない。そんな砂塵と強い直射日光から肌を守るために厚着もしているので、熱い上に暑い。
 湿気た暑さも無駄に体力を奪っていくものではあるが、乾いていたとしても強すぎる熱気は同じように体力を奪っていくものだった。
 それでも夜はまだマシなので、どうせなら日中より比較的涼しい夜間をメインに移動すればいいとは思うのだが、それを言ったセリアがカンダタに鼻で笑われてブチ切れていたので、ユウは口をつぐんだ。
 というのも、涼しくなる夜間に活動的になるのは魔物も同じだと言うので、それなら日中がどんなに過酷であろうと、まだ安全性の高いうちに移動してしまうのがいいのだという話らしい。
 実際、次の休憩ポイントまでの移動が夜間にずれこんだりしたときなどは、昼間より魔物に襲われる率が高かったので、これは嘘ではないのだろう。一座の人たちも同じことを言っていたので間違いはない。
 教えてくれた直後に疑ったら、なぜかカンダタは微妙な顔をしていたが、普段から息をするように嘘をついたりするので自業自得だろうとは思う。人を傷つけるような嘘ではないのが救いかもしれないが。
 ともあれ。暑さと熱さの入り混じった過酷な環境下を、荷物と女性陣はラクダという、砂漠のような乾燥した環境に適応した生き物に乗り、男性陣はそれについて歩くと言うような移動をここ数日繰り返していた。
 砂漠での移動に慣れていないユウたちは、序盤からだいぶ口数が少なくはあったのだが、それでも何日か移動していくうちに体力の温存の仕方や、砂地でも疲れない歩き方などを教えてもらいながら、どうにか雑談を挟める程度にまでなってきた。
 そうなってくると多少余裕もでてきてはいるということではあるのだが、今度は風とラクダの足音くらいしかない砂漠での移動が精神的に苦痛になってくる。時折、魔物の襲撃があるので気は抜けないが、同じ景色と同じ音だけの世界、そして容赦なく襲ってくる熱気というのは、地味に精神を削られていく。そんな中で。


「よっしゃ、そろそろ歌でも歌うか」


 何を思ったのかカンダタが唐突に提案してきた。カンダタのついているラクダに乗ったティアラが一瞬きょとんとしはしたが、特に何か突っ込むこともなくただ、歌えるの? というなんとなくズレた質問をしていた。


「そういえば、時々一座の誰かが歌ってるの聞くね。なんか意味があんの?」

「キャラバンソング、デスね」


 ティアラの前を歩くラクダについていたユウが…これにはリベルティーナが乗っているのだが、何故かユウについて欲しいと言う彼女の我が侭のせいでそういう配置になってしまった…首をかしげた。
 確かに時々、隊列のどこかから竪琴か何らかの弦楽器を奏でる音と歌が聞こえてくることはある。延々と音と呼べる音のない中に響いてくる音楽は、ささくれそうになる気持ちを多少でも和らげてくれる効果はあった。単に誰かが気まぐれに歌っているだけなのかと思ってはいたのだが。
 そんなユウの疑問に答えたのは意外にもサリだった。ティアラの後ろのラクダに乗っていた少女の答えに、カンダタがそれそれと振り返りながら指をさす。


「さっすが、商人の卵。ちゃんと知ってるねぇ」

「卵じゃナイです! ちゃんと、商人デスよ!?」

「キャラバンソング?」


 からかうようなカンダタの茶々にサリがにわかにいきり立ちそうになったので、ユウがそれを遮る様にサリに聞き返す。サリはじっとりと恨みがましくカンダタを睨んだ後、そうデスと首肯した。


「キャラバン隊だけではないと思いマスけど、風とラクダの足音だけでは寂しいでデショウ? 暑さもあるし気分も沈みがちになってしまいマスから、そういう寂しさとか気を紛らわせるために歌うんデス」

「砂漠を超えるための知識の一つってところかな?」

「そぉよぅ。葬列じゃあるまいしぃ、どうせならぁ楽しくいかないとね~」

「そうそう、そういうこと」


 説明してくれたサリにティアラが納得した様に頷く。と、間延びした甘ったるい声が会話に割って入って来た。ラクダの上の声の主をユウが見上げると、リベルティーナがね? と小首をかしげて笑った。
 リベルティーナに同調したカンダタは、いつの間に手にしていたのか手元の弦楽器を確かめるように鳴らすと、そのまま音を奏でながら歌いだした。
 その歌声は普段のおちゃらけた雰囲気からは想像できないくらいの美声な上に、弦楽器も慣れた様に美しい音色を奏でている。どこで習うんだと思いはしたが、彼は元々王族だ。歌も楽器もそれなりの教養を受けていてもおかしくはない。
 ユウは意味ありげに微笑むリベルティーナに合わせる様に、なんとなく曖昧に笑って、気づかれないようにそっとため息をついた。
 アッサラームを出てからリベルティーナはほぼユウにべったりだった。その割に未だに肝心なことは聞けていない。聞こうと思うと相手に上手くはぐらかせれてしまうのだ。レンはそれでも、リベルティーナの方がユウよりずっと上手だから仕方がないとなぐさめてはくれるが、カンダタには情けないと面白がるように笑われていて、それはそれで面白くない。
 もっと面白くないのはリベルティーナがユウにべったりなせいで、仲間と一緒にいられる機会が少なくなっていることだ。レンやセリアはともかく、ティアラには微妙に距離をあけられているのが何より気になる。その分なぜか、カンダタが妙にティアラと一緒にいるのも気に入らない。砂漠越えの隊列上、仕方がないと言えば仕方がないのかもしれないが、どことなく卑屈な気持ちにはなる。
 特に話がはずんでいるように見えたりする時なんかに余計にそう思ってしまうのは、気にしないようにはしていてもやっぱり心のどこかでは、自分とは格が違うと考えてしまっているからかもしれない。
 二人で一緒にいるところを見ていると、その立ち振る舞いなどはやはり平民との違いが垣間見え、それがまたなんだかお似合いに見える。身分を知っているユウだから思うことかとも初めは思ったが、一座の中でも最近そういう話を耳にするので…情報源は大概がリベルティーナだが、でも何も知らない他人から見てもそう見えるという事がまた、自分が卑屈になる気持ちに拍車をかけていた。


「ねぇ、ちょっと」

「分かってる。多分、気の所為じゃない」


 考え事をしていたユウの思考を遮る様に、後ろからカンダタの思ったよりも上手い歌声に交じってセリアとレンが交わした会話が耳に入って来た。はっとして顔を上げてようやく、服の下で自分の肌が総毛だっていることに気が付く。


「リベルティーナ!!」


 ユウが就いてるラクダの上で、カンダタの歌に合わせて呑気に鼻歌を歌っているリベルティーナを呼びつけるのと同時に、彼女の着ているローブの端を引っ張ってその背から引きずりおろす。
 彼女は間の抜けた悲鳴を上げて砂の上に盛大に尻餅をつき、ユウを批難するべく声を上げようと息を吸い込んだところで。さっきまで彼女の首があったであろう空間を、鋭い爪の様なものが通り過ぎて行った。それを見た彼女は吸い込んだ息をそのまま飲み込み、青くなって首を引っ込めて縮こまる。


「いつの間に集まってきたんだ!?」

「ていうか、何でこんなにいきなりいっぺんに集まってきたんだろう!?」


 同じようにラクダからおろしたサリを抱えたレンが、眩しそうに空を見上げている。空にはいつ集まってきたのか、魔物の群れらしき影が飛び交っていた。ぱっと見ただけでもかなりの数であることが伺える。
 ついでにどうやらサリはちゃんと抱っこされておろされたらしく、それを見つけたリベルティーナはなんだか不平を漏らしていたが、ユウはあえて聞かないフリをして剣を引き抜いた。


「あちゃー! やっぱ来ちゃったかぁ」


 音を奏でる手を留めたカンダタが、上空を飛び交っている魔物らしき影を見上げながら苦笑した。


「なに、どういうこと!?」

「いや俺さぁ、子供の頃から歌ったり口笛吹いたりすると、どーもおかしなモノを呼び寄せちゃうらしくて、周りからずーっと禁止されてたんだよねー。さすがに大人になったし、大丈夫かなと思ったんだけど、やっぱダメだったみたい」

「そんなお茶目にテヘってしながら暴露することじゃないよね!?」


 剣を構えて訝しそうな顔をしたセリアに、カンダタは肩をすくめて照れた様に笑いながら説明していたが、そんなに気楽に話してほしい内容ではない。むしろ歌う前に説明してほしかった。思いはしたが今さらなのであえて誰も責めることはしなかった。というより、彼を責めている余裕があるほど魔物の数は少なくはない。まずは集まってきてしまったものを何とかする方が先決だ。


「ティアラ、魔法……」

「やーん! こわーい!!」

「ちょっ……!!」


 カンダタの手を借りるまでもなく、ラクダからすでに飛び降りていたティアラをユウが振り返ってみれば、いつの間にか立ち上がったリベルティーナが、何故かティアラを盾にするように彼女の背中にしがみ付いていた。
 思わず唖然として慌ててそれを引きはがそうとして。それよりも早く急降下してきた魔物がユウと彼女たちの間に割って入って来る。しまったと思った時にはもう遅く、魔物は彼女たちに向かって奇怪な鳴き声を一つ上げた。耳障りなその音に思わず耳をふさぎたくなりはしたが、特に体に異常が出たわけでもなかったのでホッとしたのもつかの間、その向こうに見えたティアラは驚愕した様に目を見開き、喉を両手で押さえて何かをしきりに訴えようとしている。


「ティアラ!?」

「ユウ! そのキャットバット早く倒せ!!」

「え、あっ……!!」


 レンに言われて目の前の猫に蝙蝠の翼を生やした魔物がキャットバットだと理解はしたが、切り捨てるよりも早くキャットバットは再び上空に飛び上がってしまい、そのまま上空を飛んでいるキャットバットの群れに紛れて個体の判別はほぼ不可能になってしまった。
 レンが小さく舌打ちしてティアラに駆け寄り声をかけたが、彼女は眉間に皺を寄せたまま首をただ縦か横に振る仕草しか見せない。どうやら声が出ないようだ。


「ユウ! おまえが魔法でなんとかしろ!」

「なんで俺!?」

「マホトーンだ! 奴らはこっちの魔法を封じる呪文を持ってる! 術を使ったヤツを倒すか遠くに離れないと解けない!! おまえはかかってないんだろう!?」


 つまりはあの無数のキャットバットの中から、ティアラに魔法をかけた個体を見つけて倒さなければならないということだ。しかしただでさえ飛び交うキャットバットを落とすことさえ面倒なのに、個体を識別して撃破するなどほぼ不可能に近い。なら魔法で一掃してしまえばいいのだろうが。


「こんな状況で俺が魔法使えると思う!?」


 降下して襲い掛かってきたキャットバットを薙ぎ払い、さらに後から来たもう一体の爪をどうにかかわしてユウが叫ぶ。
 ティアラは無詠唱で魔法が使えるのだから、一瞬で魔法が発動できる。集中しなければいけない時間も極端に少ないので、サポートは最小限で構わないが、本職でないユウが魔法を使うのは簡単な事ではない。元々苦手な上に詠唱も必要だし、それなりの集中力が必要になる。セリアやカンダタも一座の人間を守ったり、襲ってくる魔物を処理するので手一杯で、ユウもこんな状況で集中出来ようはずもない。


「ようするにぃ、動いてる魔物を動かないようにできればいいんでしょぉ?」

「できればな!」


 こんな状況にも関わらず、相変わらず間延びしたような口調でリベルティーナが唇に人差し指を当てながら、きょとんと首をかしげる。
 お前の所為だろうが。と顔で語っているようなレンがじろりとリベルティーナを睨んだが、彼女はそんな気配もものともせずふーん、と鼻を鳴らして上空を見上げ。


「できるわよぉ?」


 彼女はにっこり笑って首をかしげ、カンダタが手放した弦楽器をおもむろに拾い上げると、近くにいた一座の人間に放り投げて、よろしく~と声をかけながらローブの留め具を外し、ぱっと翻して脱ぎ捨てた。まるでこれから舞台に立つかの様なその動きに、レンもユウも思わずぽかんとする。


「見せてあげるわぁ。一座きっての踊り子の実力ってゆーのをね」


 ぱちりと片目を瞑りながらリベルティーナは手拍子を始めた。本来なら舞台の上で足を踏み鳴らして観客を煽るためのものなのだが、砂地では足を踏み鳴らしたところで意味がない。そのかわりの手拍子なのだろうが、こんなところでいったい何のために。
 怪訝に思ううちに、リベルティーナの手拍子に合わせて弦楽器の音が響きだす。その手拍子と弦の音に、その場の人間だけではなく、魔物の意識も自然と彼女へと向かい。
 それを確認したリベルティーナはにんまり笑うと、ステップを踏み出した。リズミカルで楽し気な音に合わせた、リベルティーナの軽快なステップ。砂地で動きづらいはずなのに、まるで舞台の上と同じように彼女は軽やかにステップを踏んで踊っている。この場にそぐわないほどの、心の底から楽し気な笑みを浮かべて。
 軽やかな足取りと彼女の楽しそうなその表情に、なぜか釣られるように笑いそうになってユウは慌てて口元を引き締めた。が、それは他のメンバーも同じだったらしく、一座の人間においては彼女のステップを煽る様に手拍子を始めている。
 そんな場合じゃないだろ。思って魔物に意識を戻せば、何故か魔物達も彼女の踊りに釘付けになっており、さっきまで威嚇するように飛び回っていたはずなのに、今はすっかり浮かれて動きが緩慢になっていた。


「ユウ!!」


 あっけに取られていたユウをセリアが小突いた。そうだ呆けている場合ではない。魔物達の意識がリベルティーナの踊りに向いている今がチャンスだ。
 ユウは剣を傍らに突き立て、片方の拳を胸に当てて瞳を閉じる。簡単な魔法ならそこまで集中せずとも使えるようにはなったが、それなりに高度な魔法はまだ深く集中しないと発動できない。それでも比較的短時間で魔法が使えるようになったのは、それなりの成長だろう。そう思いながら。


「我に光を! その力を持って、闇を砕け!! ベギラマ!!」


 胸に当てた手に熱が集まるのを感じるのと同時に、呪文を唱えながらその拳を魔物の群れを薙ぐように振り抜いた。とたんにまばゆい光と熱がほとばしり、動きの止まっていたキャットバットの群れを薙ぎ払う。突然巻き起こった熱線に、難を逃れたキャットバットたちは正気を取り戻したが、焼き払われた仲間たちを見るや否や不快な音を立てて翼を羽ばたかせ、空の彼方へと消えて行った。
 全ての魔物が見えなくなったところでようやくホッと息をついたユウは、突き立てたままにしてあった剣を鞘へと戻し、自分の額に手を当て、ぐったりラクダに身体を持たれかけさせているティアラに駆け寄ろうとしたが。


「見てたぁ!? ユウ!! 私が踊るとぉ、魔物も踊りだすのよぉ~! 凄いでしょっ」


 彼女に辿りつく前に横から飛び出してきたリベルティーナにタックルされるように抱き着かれ、そのまま転ばされた。抱き着かれたまま転んだので、図らずも彼女を抱きとめるような格好で。


「……ってぇ……凄いのはわかったから、飛びつくの止めてくれる?」

「うふふ、褒められた~。役に立つでしょぉ、私~」


 いや褒めてないから。突っ込もうかと思ったところでふと視線を上げると、一瞬ティアラと目が合った。彼女は若干眉間に皺を寄せていたようだが、その皺の意味を汲み取る前に視線を反らされてしまい、そのまま背を向けられてしまったのでそれ以上彼女の表情を伺うことはできなかった。
 微妙な表情を見せられたことも気になるが、何より何も言わずに視線を逸らされたことの方がショックだった。いつもならもっと声を掛け合えるのに。


「いい加減、どいて」

「え~、なんでぇ」

「なんでって……」


 嫌だからに決まってるだろ。などとユウの性格上、そんなことをはっきり言えるはずもなく。苛立ちにの交じったため息をついて、ユウがリベルティーナの両肩を押し返す。彼女は不服そうにハスを尖らせながら、押し返された肩をさらに押し返しながら、ユウの体に巻きつくようにしがみついてくる。


「イチャこいてると次の野営地に間に合わないって話だよ」

「イチャこいてはないだろ」

「説得力はないわね」


 砂上にもつれているユウとリベルティーナを見下ろしながら、レンが呆れた様に嘆息したので、ムッとしてユウがレンを上目づかいに睨みつければ、ラクダから落ちた荷物を積みなおしながらセリアが冷ややかな視線を向けて来る。
 不可抗力の出来事に、そこまで冷たくあしらわれるいわれはない。言おうと思って、でも結局口にする事はせず、黙って無理やりリベルティーナを引きはがし、砂を払いながら立ち上がる。
 結局のところ自分がふがいないから、こういう羽目になるのだ。もっと周りをちゃんと見て、思慮深く動かなければならないはずなのに。
 頭では分かってはいても、それを実行に移すことはまだ難しく、つい視野を狭めてしまう。ちょっとしたことで揺れて、盲目的になってしまう。気持ちが揺らぐ。卑屈になる。でもどうしてそうなるのか、何が足らないのか、ユウには分からない。だから余計に苛立つ。


「……ガキだな」


 こんなんじゃ、みんなにからかわれてあしらわれても仕方ないかな。ぽつりと誰にでもなく呟いたユウの言葉に、リベルティーナはきょとんとして首をかしげたが、ユウは何でもないよと苦笑しながら、彼女がラクダの上へ戻るのを手伝った。



20170627 初稿
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