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天 球 儀

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蒼天の系譜 【第三幕】 ...03

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【第三幕】 砂塵に舞うは


03







「私、セリアとレンて恋人同士なのかと思ってたんだけど」


 露店を覗いていたティアラが唐突にぽつりと呟いたので、一瞬何の話か理解できなかったセリアが僅かに眉間に皺をよせ、でもすぐ自分の話だと理解してますます表情を険しくした。
 明らかに不機嫌になったセリアを見てティアラは可笑しそう笑ったが、何も可笑しいことはないとでもいうようにセリアは不快感をあらわにしている。


「違うんだね」

「どうしてそう思うの?」


 全く自分の感情を取り繕おうとしないセリアをものともせず、ティアラは笑ったまま小さく首をひねった。


「んー、なんだろう。仲はいいけど、お互い干渉しないっていうか……仕事とプライベートを分てるって言っても、そういうのとはちょっと違うっていうか?」


 上手く説明できないなぁ、とティアラは唇を尖らせて腕組みをし、自問自答するかのように小さく呻った。普段は大人びた表情ばかり見せているこの少女も、こうして可愛らしい仕草を見せている時はやはり年相応に見えると思いはしたが、彼女の見解は全てが外れているとも言い難く、こんなやっとこ成人した程度の、まだまだあどけない表情を見せている小娘だとしても女の勘というものは侮れない。
 そこを考えるとセリアを威嚇、もといけん制してくるサリも侮れないと言えば侮れないだろう。見た目や仕草は子供っぽいようで、女はいくつだろうと女なのだと実感する。


「ま、ね。当たってはいるけど」

「え、なに、お前らラブラブって関係じゃないんだ?」


 どちらにしても別に隠すような事でもないので、セリアはあきらめた様に嘆息して苦笑した。
 それをすかさず横からカンダタが突っ込んできたので、それはさすがにウザく感じて片眉を吊り上げて横目で睨みつけてやった。


「なに、文句ある?」

「いや? 男女の関係なんてそんなもんだろ。まぁでも……」


 睨まれたことを気にするでもなく、カンダタは飄々とした表情のまま首を振ったが、その後すぐになぜか面白がるように唇で弧を描き、目を細めてセリアを眺めて来た。どことなく気味の悪いその表情に、さすがにセリアも引き気味になって、なによと呻く。


「恋人同士ってわけじゃないなら、傷のなめ合いかな」

「男女の関係なんて、そんなもんなんでしょ?」

「そういう切り返しは、ずっるいなぁ」


 にんまりと笑うカンダタから視線をそらしながら、セリアが突き放すように切り返す。自分で言ったはずのセリフをそのまま返されたカンダタは、肩をすくめながら苦笑した。
 そんな二人を眺めていたティアラがきょとんとして首を傾げる。いくら大人びていようと聡明であろうと、そして年齢にそぐわない人生を送っていようと、理解できないものはあるだろう。
 特にこういう色恋沙汰なんて年代によって事情も様々だろうし、ましてやこの少女が同年代の友人とそういう話で盛り上がるなんてこともなかったはずなので、よけいに。実際、理解に苦しむと言うよりは本当に理解できていない様子がうかがえる。
 セリアはカンダタと顔を見合わせ困ったように笑いながら、なんでもないわ、と小さく首を振った。


「恋だの愛だのっていうのは、人によって色々あるって話」

「それくらいは私だって分かるよ。そうじゃなくて、もっと自分の感情に素直でもいいんじゃないかなって思うだけ」


 幼い子供をたしなめるような言い方が気に入らなかったのか、ティアラはハスを尖らせながらぷいと顔を反らせて拗ねた様な仕草を見せた。
 少女の言い様にセリアは絶句し、カンダタは違いないと失笑した。笑い出したカンダタを鋭く睨めば、彼はさっと顔を反らして笑うのだけはやめたが、時々肩を震わせて笑いをこらえているのはありありと見て取れた。
 睨んで黙らせたカンダタから視線を外しながらセリアは小さく嘆息して肩を落とし、どうしたものかと思案する。


「ティアラは自分の感情に素直かしら?」

「私は……それこそ、事情があるもの」

「王族っていう問題?」


 むくれて視線をそらせていたティアラの顔を覗き込む様に話しかけてきたセリアを、少女は一瞬あっけに取られたように見つめ、すぐに表情を曇らせてセリアの視線から逃れる様に、今度は身体ごと顔を反らせる。
 それがまさに、色々だろう。ティアラにはティアラなりの事情があるように、セリアやレンにだって事情がある。確かにセリアが抱える問題はティアラが抱える問題よりは小さいかもしれない。しかし当人たちにとっては大きさの問題ではないのだ。
 少女の問題は自分の出自であるだろうことは容易に想像がつく。国を追われたとしても彼女は正当な王位継承者だ。国を取り戻せたのなら、必然的に王位に就くであろうことは想像に難くない。
 そして彼女がユウに好意を寄せていることは明らかで、口にはしなくてもお互いにまんざらではないことは、誰も何も言いはしなが分かり切ったことだ。
 ただでも、それが問題だと言えるだろう。祖父の代で騎士団長を務めていたとはいえ、すでに除隊して爵位も返上している。ユウはたとえ英雄の息子だとしても平民だ。これでユウ自身がバラモスの討伐に成功したとして、それで彼をティアラのパートナーとして受け入れられるかと言えば、そういう簡単な話でもない。


「英雄は為政者にはなれない」


 呟くように漏らされたカンダタの言葉に、ティアラがはっとしたように彼を見た。少女の表情にカンダタがにやりと笑う。


「オルテガは確かに英雄だ。戦士として、傭兵として偉大な功績を残してきた。それだけに、国内だけでなく他国からの権力者から引く手あまただった。娘の婿にと。前ロマリア国王も熱望した位にな」

「でも平民でしょう?」

「二十年近く前の話だ。ユウの祖父はまだ現役で、騎士としての爵位を返上していなかったからな。一応爵位のある家柄って名目があった。でもオルテガは一切、その話に乗らなかった」


 なぜかわかるか? と口にはしなかったが、そう問うようにその視線でティアラをとらえる。少女は少し考えて小さく首をひねった。


「おばさまがいたから?」

「それもある。でもそれだけじゃない、てことは分かってて聞いてるな?」


 意地の悪い笑みを浮かべるカンダタを、ティアラは若干非難するように睨みはしたが、でも何も言わなかった。ただその沈黙が肯定であることはセリアにも分かった。でも何を少女が分かっているのかが、セリアには分からない。


「どういうこと? 一応、家柄はあるし、年齢にそぐわない功績を残してる。ユウの母親を想っていることは分かるとして、でもそれだけで断る理由になる? しかも相手は権力者でしょう」


 セリアはオルテガがどんな人物だったのか、よくは知らない。セリアがアリアハンに来たとき、オルテガは既に帰らぬ人という扱いだったので面識がない。歴史に残るような戦士だったという話を、人づてに聞く程度だ。ユウが性格も見た目も父親そっくりだと周りが言うのをよく聞くのでそれから想像するしかないが、それでも心に決めた人がいるなんて理由が、上からの圧力を突っぱねるだけの効力になるだろうか。
 納得いかないと言うように顔をしかめるセリアに、カンダタは笑うのを止めてティアラを一瞥してからセリアに視線を滑らせた。


「だから、オルテガの言葉だよ。さっきのは。英雄は為政者にはなれない。戦はできても政治はできないってことだ。オルテガは自分のことをよく分かってた。自分の役割を、存在意義を。そんでもってそういうこと考えるのはユウも、多分同じだよ」


 そっくりだからな、あの親子は。カンダタはそうしめて寂しそうに笑った。


「今はあんまり分かってないかもしれないけどな」

「でもそれは、素直になれない理由にはならないわ」


 カンダタの言葉の語尾にかかる様にセリアは口を開いた。思ったより剣の含んだ口調になってしまったのは、苛立っていた所為だろう。びっくりしたように大きな瞳をこぼれんばかりに見開いているティアラに、セリアは呆れた様に嘆息した。


「別れが決まっているのなら、今ちゃんと素直になっておきなさい。うじうじして悔いが残るくらいなら、いっそスパッと割り切って、今は好きにすればいいの! その方が後腐れがなくてよっぽどいいわ! そうやってうじうじしてるのは、見ててほんっとイライラする! せっかく傍にいるのよ!? 限られてる時間なら、余計もっと大事にしなさい!!」


 言いながら人差し指をティアラの鼻先につきつける。あっけに取られている少女を尻目に、隣でカンダタが盛大に噴き出した。


「もっと優しく諭すのかと思ったら、それかよ! いや、説得力あるわその豪快さ」

「褒めてんの貶してんの!?」

「褒めてる褒めてる。ユウがあんたとかレンを信頼してる理由、分かる気がするわ」


 けらけらと腹を抱えて笑うカンダタに拳を振り上げるセリアを、両手でなだめるようなジェスチャーを見せたカンダタが一呼吸置いて笑いながら肩をすくめた。
 それを見ていたティアラも口元に手を当てて小さく笑いだしたので、セリアがじろりと睨む。セリアの鋭い視線を受けた少女は、ごめん、と申し訳なさそうに肩をすくめ、すぐにありがとうと小さく笑って小首を傾げた。


「なんか色々考えちゃってたけど、そうだね。つまんない後悔はしないようにする」

「そうしておきなさい」


 私みたいにね。と口にはしなかったが、心中で独り言ちた。結局、素直になるタイミングを掴めず、いつまでもズルズルとつまらない関係を続けてきてしまった自分に、少女を諭すような資格はないかもしれない。でも素直になれなかったせいでそうなってしまったというのもまた事実だ。まだ少年少女という枠から出きっていない彼女たちに、同じような思いをしてほしくないとも思う。
 傷のなめ合いと言われてしまうと、そうなのかもしれない。お互い故郷を捨てた様に出て来た身だったので、なんとなく親近感が湧いた。
 お互い詳しい事情を話し合ったことはない。話し合ったことはないが、レンは知っていたかもしれない。彼が国王直属の間諜だったことは、セリアも最近まで知らなかった。でもそれは別にどうでもよかった。身内だろうと、言えるはずのないことだ。
 怖かったのは、セリアの素性を知られているから曖昧なままなのではないかと思わされたことだ。いつから知っていたのか、それとも初めから知っていてセリアと関係を持ったのか。自分もやっぱり、仕事柄関係を持たざるを得なかった人間の一人だったのか。
 考えて、セリアはそれを振り払うように頭を振った。それでも信頼していることに違いはないし、何にしても自分の事をよくわかってくれている人間の一人であることに変わりはない。少なくとも、この旅の間はこのままでいいと思う。どこかでけじめをつけなければいけないのであれば、旅の後だろう。きっとそれぞれが、それぞれの道を選ばなければいけない時が来る。その時決めればいいことだ。


「なぁ」

「は?」


 自分の考えに没頭していたセリアの肩を、カンダタが若干強めにつついてきた。肩当のない部分をつつかれたので思わず口調ごと苛立ちをぶつけたが、カンダタは気にすることもなくセリアをつついた指をそのまま明後日の方向に滑らせ。


「あれ、いいのか? ほっといて」


 どこか面白がるような笑みを浮かべて、指さした方向を顎でしゃくって見せた。
 何の話だと言うより早くセリアはその指先に視線を送り、思わずぎょっと目を見張る。そこには数人の男に囲まれたティアラが、彼女同年代くらいの少女をかばう様にして立ちはだかっているではないか。何事だと問いたくはあったが、それよりも。


「ほっといていいわけないでしょ!? つーかあんた、分かっててほっておくの止めてくれない!?」

「いやだって、止める前に走り出しちゃったんだよ。セリアが止めてくれるのかと思ったら、おまえなんか考え事しちゃってるし」

「人の所為にしないで!!」


 言い訳はしているが、カンダタの顔は完全に面白がっているようにしか見えない。町娘ならいざしらず、あの少女なら放っておいてもチンピラ程度は軽くあしらえるだろうが、だからって放っておいてもいい理由にはならない。もし万が一、何か間違いでもあったら責任もって預かると言ってきたアリアハン王に面目が立たない。
 分かってて放置するカンダタを鋭く睨み、肩をすくめてこわっ、とおどける彼をスルーし、少女たちの方へと駆け出したころには、あたりの通行人が足を止めて遠巻きに眺め出していたので、すでにちょっとした騒ぎに発展していた。しかし誰も彼女たちを助けようとはしない。当然と言えば当然か。囲まれているのは華奢な少女二人で、囲んでいるのは複数のしかも男だ。思うほど厳つくはないが、一般人が相手をして簡単に勝てるとも思えない。
 人だかりになってしまっているせいで思う様に少女たちに近づけないが、どうも言い争いを聞きかじった感じでは、男たちが無理やり少女を連れて行こうとしていたところを、ティアラが助けたと言ったところの様だ。それはあんたの役目じゃないでしょうがと思いはしたが、困っている人を助けたいと思う気持ちは彼女らしい。
 思わず笑いそうになって、笑っている場合ではないと慌ててそれを振り払い、どうにか人ごみを割って進んでようやく輪の中心部へ出た時にはすでに、おそらくティアラを殴ろうとしたか捕まえようとしたかしたのであろう男が一人、彼女に足を引っかけられて転ばされているところだった。その瞬間、人だかりから一斉に笑い声が上がる。
 年端もいかない少女にコケにされ、挙句ギャラリーから笑いものにされた連中がこのまま引き下がるはずもなく、ますますいきり立つ男たちに向かって、ティアラはすでに半身を引いて構える姿勢を取っている。まぁここで年端もいかない少女にコテンパンやられれば、暫くはこの連中も大人しくなるのだろうが。


「私の妹に何か用?」


 今にも始まりそうな取っ組み合いに割って入る様に、セリアが声を上げる。騒ぎの当事者だけでなく、ギャラリーの意識さえも一斉に向いてくるのは、さすがにあまりいい気分ではない。それも相まって声には一層、ドスが利いていた。
 高身長な上に鎧をまとい筋肉質、腰には剣をぶら下げているとなれば、例えセリアが女であろうと戦士だということは一目でわかる。ひょろひょろと背ばかり高いだけの街のチンピラ風情が、何人か集まったところで勝てるはずもない。よしんば勝負を挑んだところで、自分たちが痛い目を見るのは目に見えたのだろう。男たちはティアラたちに取っていた横柄な態度とは打って変わって、三文芝居の様な捨て台詞を吐きつつも、互いに足をもつれさせながら転がる様に輪の中から逃げ出していった。
 少女とチンピラのケンカが見られると好奇の目を向けていたギャラリーも、チンピラたちが逃げ出していくのと同時に引いていく。中にはよくやったなどと声をかけて行く酔っ払いなどもいたが、それを適当にあしらい、ようやく完全に人が掃けたところでセリアは安堵した様に息をついて肩を落とした。


「もう……無茶しないで。何かあったらユウになんて言えばいいの」

「ごめん、セリア。でもこの子が無理やり引っ張られていくのに、誰も助けないからなんか腹が立って、つい」

「ついって……」

「止めて! 彼女を責めないで!!」


 呆れた様に嘆息するセリアに、ティアラが申し訳なさそうに肩をすくめる。それをさらに諫めようとしたところで、ティアラの後ろに隠れる様にして縮こまっていた少女が今度はティアラをかばう様に前に躍り出て来た。その動きに驚きつつ、言い回しと動きが芝居がかっていてなんとなく微妙な気分にさせられた。
 よくよく見れば、少女は思ったほど幼くないようだ。身体つきがティアラに似ていたので同年代位かと思いはしたが、顔の造りが彼女やユウよりも大人びている。化粧や衣装の所為もあるのかもしれない。少女と呼ぶには少し濃い目の化粧を施し、身に着けているものは娼婦ほどではないがそれなりに露出が高い。華奢な割にはほどよく引き締まった、メリハリのある身体つき。そして妙な言い回しと独特な、芝居がかった動き。おそらく劇場か何かの役者か、あるいは踊り子なのだろう。


「分かったわ。とにかく二人とも無事で何より」

「で、きみは誰かな」


 こぼれんばかりの大きな瞳をキラキラと湿らせて見上げられ、セリアはうんざりしたようにもう一人の少女から視線を外して、やや投げやりに手を振った。
 その後ろから今さらカンダタが顔を出してきたので、なんだかムカついて軽く脇腹を小突いてやった。しかしセリアの小突くは一般の小突くよりも強かったようで、思ったよりカンダタが痛そうに顔を歪めたのを見て軽く留飲を下げ、きょとんとしたような表情になった踊り子だか役者だかの少女を見る。
 少女は私? とやっぱり大げさな動作で自分を指さし、すぐににっこり笑って薄手のパンツの裾を軽くつまみ、恭しく頭を下げて挨拶をした。


「私は、リベルティーナ。旅の一座、ヴァナディスの踊り子よ。よろしくねっ」


 言いながら頭を上げ、わざとらしく片目を瞑ってまるでハートマークを飛ばすかのような挨拶に、セリアはなぜか無性に苛立ちを覚えて、隣でニヤニヤと意味深な笑みを浮かべているカンダタのつま先を、八つ当たりに力いっぱい踏みつけてやった。



20170311 初稿
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