FC2ブログ

天 球 儀

PREV | PAGE-SELECT | NEXT

≫ EDIT

スポンサーサイト

上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。

| スポンサー広告 | --:-- | comments(-) | trackbacks(-) | TOP↑

≫ EDIT

蒼天の系譜 【第三幕】 ...01

dq3.gif


【第三幕】 砂塵に舞うは


01






 ふと、青年は瞳を開いた。どうやらうたた寝をしていたらしいことに気が付き、思わず自嘲するように笑ってしまった。
 睡眠を必要としないこの身体。それでもつい瞳を閉じてしまうのは、人間だったころの癖というか本能みたいなものが残っているせいなのかもしれない。あるいは夢を見ていたいせいか。
 瞳を閉じて遠くに意識を飛ばせば、かつて青年が愛した彼女が、あのころと変わらない笑顔で出迎えてくれる。そんな彼女に会いたいがために、青年はただ瞳を閉じるのかもしれない。

    望んだものは一つだけだったはずなのに。

 決して多くを望んだわけではない。元々、青年は生まれた時から疎まれるような存在だった。普通ではないと言うだけで親からは捨てられ、周囲からは気味悪がられ、幸せとは程遠い人生を歩んでいた。
 だから、同じように家族や親族から疎まれてつまはじきにされていた、自分と同じような境遇だった彼女と親密になるには、そう時間はかからなかった。あるいはただの傷の舐めあいだったのかもしれない。
 青年はそれでもよかった。自分のことを理解してくれる者に初めて出会い、彼女と一緒にいるだけで救われるような気がして、だからこそ青年は望んだ。それ以上のことは何一つ望まなかった。ただ、彼女の傍にいたいと。
 しかし青年と彼女は、境遇こそ似てはいたが立場は雲泥の差で、それは”ただ”では済まないことだったのだ。それは分かっていたことだった。
 それでも青年は望んだのだ。だから。そんなささやかな願いすら敵わないのなら。ただひとつ、それすら手にできないのなら。

    こんな世界、壊れてしまえばいい。

 だが今の青年ではだめなのだ。まだ力が足りない。この力だけでは。もっと強い力を。もっと強い器を手にしなければ。それまでにはまだもう少し、時間がかかる。器が育たなければ意味がない。強大な力を受け入れることができるようになるまで、あともう少しだけ。その為に馬鹿馬鹿しい茶番をけしかけたのだ。
 精々、踊るがいい。青年は口の端だけ釣り上げて、小ばかにするように喉の奥で笑った。どちらが踊らされていたのかはその時が来れば、青年を闇に落とした張本人にも分かるだろう。
 青年は椅子のひじ掛けにもたれかかる様に身体を預け、再び瞳を閉じた。もう一度、愛しい彼女に会うために。





「……いま、なんか聞こえなかった?」


 火の弾けた焚火から視線を上げて、ユウが訝しそうにあたりに視線を彷徨わせた。
 他の四人はきょとんとして首を左右に振ったが、ユウはそうかな? と納得いかないような顔をして首をひねる。


「獣かなんかじゃないの?」

「いや、獣の鳴き声とはまたちょっと違うような……」

「じゃあ、気のせいでしょ」


 寝床を作りながらセリアが適当なことを言ったが、そもそも鳴き声が聞こえそうな距離に獣が居ればセリアだって気配位感じるだろう。取り合ってもらえないことに不満を感じながら、それでもユウは周囲に意識を向けてみる。

 エルフの里で意識を失ったあと、ユウたちはノアニールの宿屋で目を覚ました。見覚えのあるその宿は、里へ行く前に立ち寄って、部屋を借りた宿屋だ。しかしその時と明らかに違うのは、村が機能していたことだった。
 何が起こったのかさっぱり分からないユウたちに説明してくれたのはクリスで、クリスとアンもユウたちと同じように、エルフの女王に魔法で飛ばされてこの村に戻されていたのだと言う。彼らにはその時、この村を目覚めさせることのできる魔法の粉を持たされていた。それを使って村の機能を戻したということだった。
 先日まで不気味に佇むだけだった村人たちは、確かに活気を取り戻して何事もなかったかのように生活していた。エルフの女王に会ったことでさえ、夢だったのではないかと思える。里に迷い込んだ人間は大概がそう思ってしまうということが、納得できるような気がした。それくらい不思議な時間だったように思う。

 そうしてある程度の支度を整え、クリスとアンに挨拶してノアニールを経って、そろそろ二週間が経とうとしていた。
 ユウたちはノアニールから続く街道を東に向かい、アッサラーム地方とバハラタ地方を分断する山を沿うように、さらに続く街道を南下し、一路アッサラームを目指していた。
 流石に大きな大陸であるだけのことはあり、アリアハンの寂れた街道よりは多少なりとも機能しており、宿場町もちらほら見受けられはしたが、そうでない時はやはり野宿を強いられた。
 それでも途中でいわゆる傭兵を雇ったキャラバンなどとすれ違ったり、あるいはそういったキャラバンと野宿を共にさせてもらったり、魔物の襲撃に警戒するばかりの旅ではなかったので、小さな大陸の城下街しか知らないユウにとっては、不謹慎かもしれないが少し楽しかったりもしていた。
 それにティアラもだいぶ旅慣れて来たようで、以前に比べれば休憩する回数もぐっと減り、ずっと移動のペースも早くなった。彼女自身、エルフの里で女王と話をしたことで何かしら心境の変化もあったようだ。
 ノアニールで新調した理力の杖は攻撃にも適しているようで、非力ではあってもある程度の物理攻撃も可能になった彼女は、できた心身の余裕のおかげか、魔法だけでなく武術の稽古も合間を縫ってできるようにもなっていた。
 剣の方が扱いやすいのではないかとセリアが聞いたが、結局剣を持って振り回すには筋力的に向かないということと、匿われていたガイア神殿では体術や棒術を主に教わっていた所為で、剣はあまり使えないのだと彼女は言った。
 神殿なら確かにそうだろう。司祭や神官は剣の類は使わない。聖職者に刃物はご法度で、当然神殿の僧兵がそれを扱えるはずはない。そうなると、必然的に教わることになるのは剣以外の攻撃法になる。なので彼女の稽古は大体、レンが請け負っていた。
 なぜか時々、カンダタとも組み手をしているのを見かけるが、カンダタはカンダタで、レンとはまた違う動きをしているのがユウは気になっていた。
 短剣での攻撃を組み込んだ体術には違いないが、レンの武術ともまた少し違う。その疑問を一度カンダタにぶつけてみたが、秘密だとあしらわれてしまった。ユウが知る必要はないとも言われ、ティアラは良くて何で自分はダメなのか釈然としないものを感じはしたが、ともあれ身軽なティアラならともかく、動きのスピード的に真似できそうなほどユウは身軽ではないので、あまり深くは追及しなかった。ただでも、彼女が強くなることでパーティ全体の戦力も上がったのも確かだ。

 そうしてようやく残り数日でアッサラームに着くかという頃。その日は生憎、宿場までたどり着くことはできず、キャラバンも捕まえることができなかったので野宿となった。この時期のこの地方はうっかりすると豪雨に見舞われることもあるので、野宿には慎重を期する。この日は天候に恵まれたようで、暑さはあるが湿度はそれほどでもないので寝苦しいと言うほどでもないだろう。
 そうして寝る準備に入ったところで、ユウはふと耳をそばだてた。獣とは違う甲高い、悲鳴のような声が聞こえた様な気がしたのだ。
 セリアの言うように気のせいだったのだろうかと首をひねりはしたが、不意にセリアと同じように寝床を整えていたレンが険しい表情で顔を上げた。
 音が聞こえたわけではなく、何か気配を感じたらしく、それはセリアにもユウにも分かった。互いの表情を確認して、それが確信であることを悟り、置いてあった武器を手元に引き寄せ。


「いやぁぁぁああああ!!!!!」

「だっ!?」


 セリアとユウが剣を引き抜いて構えようとしたところで、茂みの奥から少女が絶叫にも近い悲鳴を上げながら飛び出して来たかと思うと、その勢いのままレンの腹部のあたりに頭から盛大に突き刺さった。
 無防備だった分、少女の頭突きが余計に答えたらしいレンは、うずくまるように半身をやや折り曲げはしたが、突き刺さった少女が彼の腹部にしがみ付いたままだったのでそれもできず、ひとまず悲鳴を上げっぱなしの少女を落ち着けるようにその肩を子供をやすように優しく叩いた。
 肩を叩かれた少女は驚いたように声を引きつらせ、自分のしがみ付いているものを恐る恐る確認するように顔を上げ、困ったように笑っているレンを見上げてきた。


「こんな時間にこんなところで、一人か?」


 ようやく悲鳴を上げることを止めた少女は、見上げたものが人であったことに安堵したのか、それともこんなところで人に出くわしたことに驚いたのか、きょとんとしたような顔でレンを見上げている。
 落ち着きを取り戻したことを確認したレンは、やはり小さな子供を相手にするように優しく笑って声をかけたが、少女はなぜか大きく目を見開き、そして僅かに頬を染め呟いた。


「……運命の人……」

「……ん?」

「呑気に馬鹿やってないで! 来るわよ!」


 少女のなんだかよく分からない台詞と熱い視線を受けたレンが、笑みを浮かべたまま固まる。
 その状況をあっけに取られた様に見ていたセリアが、森の奥から木々をなぎ倒しながらこちらに向かってくる何かに気が付き、抜いたまま行き場を失っていた剣を構えなおしながら声を上げた。
 セリアの声に、その場にいた全員が茂みの奥へ一斉に視線を向ける。木々の間から巨大な影が、行く手を阻んでいる木を軽々となぎ倒し、のっそりとその姿を現した。それはゆうに2メートル以上はある、大ザルだった。
 サルは野営地のたき火を見て一瞬ひるんだような仕草を見せたが、レンにしがみ付いたままの少女を見つけると、途端に牙をむきだして奇声を上げて威嚇してきた。その鳴き声の大きさに、思わずティアラが片耳を抑え、なんなのよと顔をしかめる。


「なんか怒ってるみたいなんだけど!?」


 大ザルの上げた奇声に、少女はふたたび悲鳴を上げさらにレンにしがみ付く。それを引っぺがすように、セリアは少女の襟首を容赦なくつかんで釣り上げると、少女は顔を引きつらせてそうみたいですネェ、と他人事のような台詞を吐いた。


「いやぁ……ちょーっと、寝床をお借りしようと思っただけなんですケドも……ソコに置いてあった果物が美味しそうデ……ちょっと、ホントにチョット味見をですネ……」


 おどおどとしながらしどろもどろに説明する少女を、片手で釣り上げたままのセリアが無言で揺する。とたんにバラバラと音を立てて、少女から果物が辺りに転がり落ちてきた。ぱっと見ただけでも、一体どこに隠してあったのかと聞きたくなるほどの量だ。とても味見程度とは思えない。
 うっそりとセリアに睨まれて、少女はひっと小さく悲鳴を上げて首をすくめた。これではサルでなくても怒りたくなるだろう。
 しかし今さらサルにこれを返したところで、すでに興奮しきってしまっている大サルをなだめることをもう不可能だ。現に大ザルはもうこちらに襲い掛かる一歩手前の体勢を取っていた。


「お猿さんに、罪はないけど……」

「なんか不本意だなぁ」

「だからってやられるわけにも、行かないしな」


 呆れたセリアが少女をその辺に放り投げ、しりもちをついた少女がつぶれた蛙の様な声を上げる。とりあえず彼女にケガなどはないようなので放っておいても問題はないだろう。
 とんだ尻拭いではあるが、飛んできた火の粉を払わないわけにもいかず、ティアラが申し訳なさそうに理力の杖を構える。ユウもがっかりした様に肩を落としてため息をついたが、それを慰める様にカンダタが肩を叩いて苦く笑った。
 幸い大ザルは交戦している間に正気を取り戻したのかそれとも気が済んだのか、唐突に大きく一声鳴くと、そのまま再び木々をなぎ倒しながら森の奥へと消えて行った。


「ワタクシはサリと申します! サリ=ヤカテクト、スーの村出身、十六歳になったばかりデス!」


 あばれザルを追い払い、ようやく全員で火を囲んで落ち着きを取り戻した頃、レンの腹部に突き刺さった少女が、少し訛りの入った言葉遣いで自己紹介をした。
 スーの村は北サマンオサ大陸の内陸部にある開拓村なのだと、南サマンオサ出身であるカンダタが説明してくれた。サマンオサ大陸自体が山が多く、開墾するのにはかなりの労力がいる大陸で、それでも南サマンオサは森の多い土地で土壌はかなり豊かなので農産業が発達しており、それで国の経済を賄うことが可能ではあるが、北サマンオサに至っては切り立った山が多く、未だに未開拓の土地が多く存在する。スーはそんな開拓民たちによって作られた村だ。あまりにも辺境であるがゆえに、独特の言葉遣いと文化が発達したらしい。


「十六歳? じゃあ、俺とティアラと同じ歳なんだ」

「わぁ! そうなんデスか!?」

「同じ歳ぃ?」


 感心した様に頷いたユウに少女、サリが目を輝かせる。こんな辺ぴなところで、自分と同じ年頃の人間に会えるとは思わなかったのかもしれないが、それを聞いたカンダタが胡散臭そうな顔をして不満げな声を上げた。
 なんデスか? と不思議そうに首をひねったサリの顔をカンダタはまじまじと見た後、きょとんとしたユウに視線を移し、再びサリの顔を眺め、そのまま視線を胸元まで落としたかと思うと、今度はティアラの顔をしげしげと眺めた後、サリにしたのと同じように彼女の胸元に視線を落として、もう一度サリの顔を見た。なんだか小ばかにしたように口の端をつり上げて。


「……なんデスか、その馬鹿にシタようなお顔ハ」

「いや、だって……どう見ても十六歳とは思えないだろ。顔も身体も」

「ムッキー!! 余計なお世話デスよ!? それにまだ成長期デス!! 伸びしろはありマスよ!? ねぇ、レン様!!」

「……なんで様付けなんだ?」


 カンダタの態度にサリがじっとり彼の顔を睨みつけると、カンダタは口元に手を当てて笑いをこらえる様に小さく肩を揺らしながら少女を上から下まで再び眺めた。
 確かに、と思ってしまったことはユウは顔にも声にも出さない努力はしたが、サリはユウやティアラに比べて背もかなり低く、身体つきも幼女と言ってもいいくらい小柄だ。ユウもティアラも年齢に比べたら若干大人びて見えるせいもあるだろうし、彼女の育った環境の所為もあるのかもしれないが、三人で並んだらおそらく妹かと聞かれてしまうのではないだろうか。それくらい、サリは幼く見える。
 そんなユウの感情はどうやらサリに伝わらなかったらしく、こちらを見ることもなく彼女はカンダタに食って掛かった後、瞳をキラキラさせながら勢いよくレンを振り返って何故か彼に同意を求める。
 レンはサリの勢いにやや引き気味になりながら、微妙に顔をゆがめた。彼の隣ではセリアがどこか呆れた様な顔で嘆息している。


「だってめぐり合ってしまったんデスもの……! ワタクシの運命の人に……!!」


    めんどくさいの、拾ったなぁ……。


 言いながら完全に自分の世界に酔いしれて恍惚とした表情を浮かべているサリを眺めながら、ユウは思わずそんなことを思ってしまったが、ふと仲間たちの顔を見れば、その場にいる全員がユウと同じことを思っているのだということは、火を見るよりも明らかだった。
 年齢的には夢見がちな年頃でもあるだろう。ティアラもこと、恋愛話に関してはそこそこ興味のある様子を見せるので、それはそれで年頃の少女たちの当たり前の感情かもしれないが、サリに至っては若干それが行き過ぎているようだ。


「えっと……サリは、どうしてこんなところにいたの?」


 微妙な空気の漂い始めた場の空気を変えようと思ったのか、ティアラがやや苦笑しながら肩をすくめて、どこか遠くの方へ意識を飛ばして夢を見ているらしいサリに声をかける。
 とたんにサリは弾かれた様に首と意識を現実へ戻してきたが、その勢いと剣幕にティアラも思わず身を引いてしまい、でもなんとか顔が歪むのを堪えはしたが、それでも少し顔を引きつらせながら首を傾げた。


「ハイ! ワタクシは父を探していまス!」

「お父さん?」

「父は新しい村を開拓するのダと村を出たきり、かれこれ五年ほど戻りませン。世の中物騒デスし……ワタクシもようやく成人としての一歩を踏み出しマシたので、こうして父を探すべく旅をしているのデス」


 さっきまでの明るい表情とは打って変わって、どこかしょぼくれた様に首をうなだれたサリに、ユウが小さく唇を噛んだ。
 少女の言う通りこんなご時世だ。生きて再会できるとは限らない。思いながら、ユウは自分の父であるオルテガを思い出した。
 探して会えるものではないと分かってはいるが、でも少し前の自分とは違う。旅に出るまでは、ほとんど覚えていないような父に会いたいと思うことはなかった。でも今は。


「皆サンは、どちらへ?」

「え……あ、うん。俺たちはアッサラームを目指してるんだけど……」


 顔を上げて首をかしげて来たサリの言葉に引き戻されたユウが、思わず素直に口を開き、そこまで言ったユウの脇腹を、レンがそこそこ強くひじ打ちしてきた。いい感じに肋骨に響いたひじ打ちに、何するんだよと言うように彼を睨めば、彼は余計なこと言ってんじゃねぇよとでも言いたげな表情でユウを睨みつけていた。
 ユウとしてはそんなに責められるほど悪いことを言ったつもりはなかったが。


「ホントですカ!? ヨカッタ~。実はワタクシもアッサラームに行きたかったんデス! ご一緒シマしょう!!! あぁ……やっぱり運命の人だったのデスね……」


 させて下さいどころか、しましょうと来たか。サリが再び夢見るような表情を浮かべたのを見て、早まったと思ったのは言うまでもなかった。



20161228 初稿
スポンサーサイト

| DQ3 | 01:00 | comments(-) | trackbacks(-) | TOP↑

PREV | PAGE-SELECT | NEXT

上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。