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天 球 儀

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蒼天の系譜 【第二幕】 ...11

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【第二幕】 エルフと盗賊


11






「女王陛下。もしかして……盗まれた宝玉というのは、ルビス様から授かったというオーブではありませんか? それも翠色の」


 ふと、エルフの女王の話を一緒に聞いていたティアラが、首をかしげながら思いつめたような顔をして声をかけてきた。その声に娘を宥めながら、彼女がそうです、と頷く。


「はるか昔、ルビス様がこの地を離れる際に遺されていったものです。いつの日か来るべきその日、その運命を背負いし者へ授けよとおっしゃられて。それ以来われらが種族で守ってきた翠の宝玉、グリーンオーブ」

「オーブだって!?」


 思わずといったように声を上げたレンをよそに、ティアラは俯いて何か考え込むような仕草を見せた後、もう一度顔を挙げて女王に視線を向けた。


「私はおそらく、あなたが愛したという人間を知っています。もし同一人物なのだとすれば……彼は、テドンという村で罪を犯して捕まっていました」

「罪?」


 訝しそうに眉間にしわを寄せた女王に、ティアラは躊躇いがちにはい、と頷いた。


「殺人です。彼は、人を殺しました」

「なん……」

「ただし、これには理由が有ります。彼はその理由を言わなかった所為で、なかなか牢から出して貰えなかったのです。言えば彼が隠し持っていたそれを、奪われてしまうと思っていたのかもしれません。そして里からオーブを奪ったのは彼ではなく、彼と一緒にいたもう一人の人間です。彼はその人間からオーブを奪い返そうと、里を出たのです」


 信じられないものを見るような、愕然とした表情を浮かべて固まってしまったエルフの長に、ティアラは記憶をたどるように視線を外して考え込むと、もう一度彼女を見据えた。


「そして追いついたテドンで奪い返す際に、誤って殺めてしまった……彼は言っていました。いつか必ず、これを返しに行くのだと。愛する彼女を傷つけてしまった、その罪も償うために、と」

「それで……彼、は」


 女王の声が震えている。いや、震えているように聞こえたのは、身体が震えている所為もあるかもしれない。それは、宝玉を奪っていったのが彼では無かったことへの歓喜のせいか、あるいはもう一度彼に会えるのではないかという期待からか、それとも何かを恐れているせいか。傍ではアンが彼女の震えをとめようとするかのように、そっと彼女の背を撫でている。
 わななく唇から息を吐くように、女王がティアラに問いかけると、少女は申し訳なさそうに、そして泣きそうな表情を浮かべながら小さく頭を振った。


「……テドンは魔物の襲撃によって焼かれました。牢は強固なものではなかったので、あるいは逃げ出すことは不可能ではなかったかもしれません……でも、おそらくは……」


 少女はその先の言葉をあえて口にはしなかったが、その表情から何を言わんとしていたのかは、その場にいた全員が理解できた。女王は自分で自分の肩を抱きしめるように腕を回し、爪が食い込むほどきつく力を込めて静かに俯いた。
 いなくなってしまっては、言葉を交わすことは出来ない。もう二度と。それはたぶん、誰もが分かっているようで、実は分かっていないことなのかもしれない。また明日、なんていうその明日が、必ず来るものとは限らないのだ。だから、伝えるということは大切なのだろう。そしてそれは、あらゆるものを繋げていく手段なのだ。想いを、絆を、あるいは意志を、未来を。
 俯いた女王は静かに肩を震わせている。もう永遠に届くことの無い想いを、言葉を抱きしめるように、自分の肩をきつく抱きしめてエルフの女王は声も上げずに涙を流し、やがて静かに顔を挙げた。


「……ありがとう、ティアラ殿。彼の最期を、教えてくれて」

「……申し訳ありません。私が……幼い私は、何も」


 涙の跡は見られてはいないが、悲しげに微笑む女王を見て、ティアラは苦しそうに眉間にしわを寄せて唇を噛み、爪が手のひらに食い込むほどに拳を握り締めて俯く。
 しかし女王は頭を振って、あなたが気に病むことはありません、と優しく笑った。


「自分を責めてはいけませんよ。でも忘れてはいけません。あなたが生き残るために犠牲になったものたちを。そしてその者たちの犠牲を無駄にするようなことをしてはなりません。あなたには、それに報いる義務が有るのです」


 女王の優しく、でも諭すような言葉に、ティアラが固まった。なぜ、と問うように瞳を丸くして女王をぽかんと見上げている。
 そしてそれは彼女だけでなく、ユウを含めたほかのパーティメンバーも同じ思いだったようで、全員が全員まったくティアラと同じような表情で女王を見上げていた。それが彼女には可笑しかったのか、ここに来て初めて品のある笑い声をあげて、パーティメンバーを順繰りに見回した。


「我々はただ閉塞的に生きているわけでは有りません。全ての人間と手を取り合って共存することはできませんが、必要ならば力を貸すくらいの心持はあります。同じ世界に生きているのですから。ですから外界の情報も把握はしています。もしかしたら、人間の一般市民よりもずっと我々のほうが現状を把握しているかもしれませんね」


 ですから、と女王は崩していた相好を引き締め、ティアラに視線を定めた。


「どうか、運命に負けないで下さい。犠牲になった人たちを、思うのなら。大切な人たちを、守りたいと願うのなら」

「どういう……こと、ですか」


 女王の言葉に、ティアラは酷く混乱したような表情を浮かべ、苦し気に息を吐きながらどうにかと言ったように言葉を吐き出した。小刻みに震える少女を女王は微かに目を細めてじっと見据えたまま、言葉を続けた。


「娘には分からなかったから、私のところへ来たのではありませんか? あなたの内に秘められたその力について。確かにあなたの力は特殊です。魔王バラモスがまずネクロゴンドへ侵攻したのは、あなたの力に関係があるのかもしれません」


 そこまで言って女王は一呼吸置き、瞳を閉じて小さく嘆息するように息を吐くと、静かに瞳を開いて再び口を開いた。


「あなたの中に存在する力は確かに精霊に近い。しかし我々が使役し、また人間が魔力の源とするものとも次元が違う……それは精霊の中でも至高の存在、いわば頂点となる者の力」


 そこまで言えばわかるだろう。女王は真っすぐ見据えた少女に、そう問いかける様に言葉を切った。
 ユウですら女王の言ったことが分かったのだから、ティアラが分からないはずはない。むしろ、この場の誰一人としてその存在を知らない人間はいないはずだ。
 この世界を創造したとされる神の一人。精霊の中でも至高の存在。全ての精霊の頂点に立つ者。それはまさに。


「精霊神……ルビス」


 誰が呟いたかは分からなかった。喉の奥から絞り出された様に呟かれた誰かのその言葉に、膝をついていたティアラの身体がふらりと揺れた。ユウは慌てて彼女の傾く身体を支えたが、彼女は真っ青な顔で自身の身体に腕を回し、震えを抑える様に両肩を抱きしめていた。
 蒼白になって今にも意識を手放してしまいそうな少女の代わりに、ユウが顔を上げて女王を見上げる。女王は痛ましそうな表情を浮かべてティアラを見ていた。言うべきではなかったと思っているのかもしれない。
 それでもそれが真実なのであれば、受け止めなければならないことだ。当たり前な事ではあるが。だから女王は彼女に言ったのだろう。運命に負けるなと。


「なぜ、とお聞きしても?」


 言葉すら失った少女の代わりに、ユウが女王を真っすぐ見上げて問いかける。ティアラを見つめていた女王はユウに視線を移し、眉間に皺を寄せて頭を振った。


「なぜ彼女の中にその力が存在するのかまでは、わかりません。ですが……ルビス様が我々の祖先にオーブを残した時の言葉。来たるべきその日、そして運命を背負いし者……今現在、世界が陥ってる状況と、彼女の力は関係ないとは思えません」


 それにあなたも、と女王はユウに向かって手を差し出した。


「同じ力を感じます。彼女ほど強くはない。でも、同じ力に守られている。どうやら運命を背負っているのは、彼女だけではないようですね……ティアラ殿」


 困惑した様に顔を歪ませたユウに女王は小さく笑い、そのままユウに支えられて今にも崩れ落ちそうなティアラにその笑みを向ける。ティアラはそれでもどうにか緩慢とした動作で顔を上げ、なんとか女王を見上げた。


「分からないことばかりで、不安や恐怖はもちろんあるでしょう。何故と思うことも。でもそれは今、考えても答えの出ることではありません。オーブを探すと言うことは、ルビス様の軌跡をたどると同じこと。旅を続け、まずはオーブを集めるのです。その先に、きっと答えはあるのでしょう」


 女王は微笑み、再び優しく諭すようにティアラに言葉をかけて行く。女王の言葉を受けて青かった少女の顔には、少しずつではあるが血色が戻ってきているようだった。受け入れがたいことではあるだろうが、それを拒んでも仕方がないことだと、彼女にも分かっているのだろう。


「だから自分を責めて、その力を忌むべきものだと思ってはいけません。それは無力を嘆くのであれば、余計に。耳をふさぎ、目を閉じて真実から目を背け、何もしないままでいるのであれば……いつまでもあなたは無力な子供のままです。大切な人たちを守りたいのでしょう?」


 微笑みかける女王はティアラだけではなく、その場に控えているパーティメンバーの顔を一人ずつ確かめるように見回し、最後にユウへと視線を定めると、まるで何かを確かめるようにじっとユウの双眸を見つめた後、ゆっくりと頷き白く細い指先で宙をなぞり始めた。
 その指先からは光がこぼれ、何も無い空間に光の文字を描くと、女王はふいにそれを払うように文字を描いていた手を振った。とたんに辺りがまばゆい光に包まれ、そのあまりのまばゆさにユウは目を開けている事ができず、思わずきつく目を閉じた。


「運命を背負うことは過酷です。各々の役割を、なぜ共にあるのかというその理由を、見失わないように。あなた方の旅の行く末に、光が有らんことを」


 遠く彼方から聞こえるようなエルフの女王の声を最後に、ユウはまばゆい光の中から闇に投げ出されるように目の前が暗くなり、そのまま意識を失った。



20161118 初稿
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