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天 球 儀

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蒼天の系譜 【第二幕】 ...09

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【第二幕】 エルフと盗賊


09






 あれは、いつのことだったか。落ち延び保護された村で、ティアラは一人の青年と出会った。出会ったという表現はおかしいのかも知れない。彼は村にただ一つの牢に入れられていた。
 山奥に流れる川辺の小さな村。人口も多くは無く、住んでる人々の大半が自給自足で生活しているような、そんな本当に小さな村。悪く言えば閉鎖的ではあったが、逆にそれが幸いしてティアラも匿う事が出来たと言えるかもしれない。
 そんな小さな村だからこそ犯罪などとは無縁で、彼の入っていた牢も堅固とはいえないお粗末な作りだった。番をしてるのも初老の、とてもではないがそれこそ凶悪な犯罪者でも現れたらあっという間に伸されてしまいそうな、ひょろひょろと背ばかり高い名ばかりの衛兵ではあったが、牢屋の彼は逃げ出そうともしなければ騒ぎ立てるようなこともしてはいなかった。ただじっと、何かに耐えるように、時が過ぎるのを待っている。ティアラにはそんな風に見えた。
 だからティアラは一度だけ、衛兵が転寝をしている隙に、彼がどんな罪を犯したのか直接聞きに行った事があった。取ってつけたような鉄格子の向こうで、寂しそうに、でも穏やかに笑みを浮かべる彼が犯罪者などとはにわかには信じられなかったが、でも彼は首をかしげているティアラに優しく語ってくれた。
 自分は人を殺めてしまったのだと。大切な人を傷つけて、傷つけたその人に謝るために。でも決して命を奪うつもりではなかった。奪うつもりでなかったとしても、人を殺めてしまったことに変わりは無い。だからいつか、その罪が許されてここを出ることが出来たなら、これを携えて大切な人に謝りにいきたい。そう言って、誰にも内緒だよと言って見せてくれたそれが。


「オーブだった?」


 淡いランプの光に照らされたティアラの横顔が、彼女の言葉を受けるように続けたユウの言葉に静かにうなずいて同意した。


「あのイラストと同じデザインだった……と思う。私も小さかったから、詳しいことは覚えてないけど……でもたしかに、彼はオーブを持っていた」

「でも、その村はもう……その、ないんでしょう?」


 思いつめたようにランプの明かりをじっと見つめたまま、呟くように口を開いたティアラに、セリアが言葉を選ぶようにやや躊躇いがちにティアラの横顔を覗く。
 彼女は自分に向けられたセリアの視線に力なく笑みを向け、そっとうなずいてだから、と続けた。


「もしかしたらもう、そこにはないかもしれない。でも……」

「他に手がかりが無い以上、行ってみるしかないよね」


 ぎゅっと眉間にしわを寄せて言葉を切った少女の肩にそっと手を触れたユウが、セリアからレン、そしてカンダタと順番に見回して小さく笑う。それについて三人からは特に反論も無く、ただ小さくうなずいて同意を示した。
 三人が同意したのを確認してティアラに視線を戻すと、彼女はどこか不安げにユウを見上げていた。その表情から見て取れるのは不安なのか、それとも滅んだ村を思ってのことなのかまでは分からないが、少なくとも彼女が楽しくこの話を思い出しているわけではないことくらいは分かる。
 こちらを伺うように見つめるティアラに、ユウは大丈夫とでも言うように微笑み返しながら、彼女の肩に置いていた手を、彼女の膝の上で自らのローブを握り締め、微かに震えている彼女の手にそっと重ねた。


「それにしても、住人はいるのにこれだけ静かなのも不気味よね」


 自分たちの話し声、息遣い以外の音が一切ない部屋の中を見回しながら、セリアが小さく嘆息した。
 窓の外はすでに夜も深け、ただ月の明かりだけが静かに差し込んでいる。その窓から覗く街の中は、民家は並んでいるのに明かりは一つも点っていない。なのに街の中には月明かりに照らされた人影が不気味に映っている。その人影も、まるで人形が佇んでいるように動くことも無く、ただその場に、まるで日常を急に止められてしまったかのように微動だにしていない。何も知らない人がうっかりこんな時間に街に足を踏み入れようものなら、きっと悲鳴をあげて逃げ出すに違いない。そんな、街の住人には悪いが完全にホラーな状況だ。
 街の名前はノアニール。ロマリアで知り合った医師、クリスの故郷になるのだが、今この街は全く機能していなかった。魔物に滅ぼされたわけではなく、放棄されたわけでもない。ただ、住民の時間が完全に止められてしまっているだけなのだが、それ自体がすでに異常なことではあった。
 クリスとエルフの娘であるアンの話によれば、二人が駆け落ちした所為で怒り狂ったらしいアンの母親が、町の住民を眠らせてしまったらしい。現に昼間、街の住人を確認してみたところ、死んでいるわけではないということは分かった。立ったまま寝息を立てている姿というのも、なかなか滑稽ではあったが笑える話でもない。眠ることによって時間をとめているらしく、住民の誰一人として衰弱している様子もない。街が荒廃しているわけでもないので、特殊な力で町全体の時間の流れを止めているのかもしれなかったが、どういう力が働いているのかまではユウたちには分からない。


「世の中には、人の及ばない力ってものがあるってことだな」

「神様って、なにをどういう基準でそういう力の振り分けをしたのかしらね」

「結局のところ……その心に邪さがあるかないか、じゃない?」


 肩をすくめたレンに、セリアがぼやくようにハスを尖らせる。そんな二人に、ティアラがぽつりと呟くように答える。
 きょとんとした二人を見て、ティアラは苦笑を浮かべながら神話でしょう、と首をかしげた。


「人間は、穢れてるってこと?」

「穢れてるわけじゃない。貪欲なのよ。いい意味でも悪い意味でも」


 あまりいい気分ではないとでも言いたげに、セリアが微妙に表情をゆがめた。言い方を間違えたと思ったらしいティアラが、小さく首を振って笑った。


「ティアラは神話に詳しいんだ?」


 なんとなく納得できないようなセリアを宥めるレンを横目に、ユウが首をかしげる。ティアラは肩をすくめながら、暇だったしね、と自嘲するように笑った。


「詳しいって程でもないけど……子供の頃は本しか暇つぶしになることはなかったし、最終的に匿われたのはガイア神殿だったから、学ぶ機会は沢山あったの」


 言いながら、まぁでも、と嘆息する。


「所詮、神話は神話だから。信仰する神様によって、内容も解釈も異なるのよ。全部が正しいってわけじゃない」

「でも信じるものからしてみたら、それが全てってわけだな」


 ティアラの言葉を受けてカンダタが茶化すように続け、ティアラもそれに同意するかのように、でもじゃっかん苦味を含んだ笑みを浮かべて首肯した。
 つまるところ、そんな気の遠くなるような昔のことなど、誰にも真実など分かりはしないのだろう、とユウは思う。語り継がれてきた伝説、神話、そして信仰。いったいいつの時代から囁かれ、伝えられてきたものか。人がいつ生れ、自我を持ち、文明を発展させてきたのかなんて、過去の遺物から推し量るより他ない。それを人が都合よく解釈し、勝手に作り出したものではないとも言い切れない。全てが人間の造り話だとは思わないが、勝手に捻じ曲げられて都合よく解釈されてきたものもあるだろう。
 ユウの父オルテガが英雄であると、好き勝手祭り上げられるのと同じように。ユウをその後継と、周りが勝手にはやし立てるのと同じように。本人やその対象の意図も意志も関係なく、他人によって勝手に作り上げられていく。伝説といわれるもの、神話と呼ばれるものは、そんなものなのかもしれない。
 窓の外で月明かりに晒されて浮かび上がっているノアニールの住人たちの影を見ながら、ユウはぼんやりとそう思った。

 ノアニールで一晩過ごし、ユウたちは街から西を目指した。エルフの里はその森の奥に隠されているとアンは言った。
 見た目は何の変哲も無い森では有るが、足を踏み入れると普通の森とはどこか違う気配を感じた。言いようの無い、なんとも不気味な気配。服の下に隠れているはずの肌が、寒さを感じたわけでもないのにざらりと粟立つのを感じて、ユウは思わず首をすくめた。そうした警戒心を煽って、森への侵入をまず防いでいるらしい。
 ノアニール近辺は自然が豊富だ。森もここだけに限ったものではないので、わざわざ気味の悪さを感じるような森へ入ることはまずしないのが人間の心理だろう。それでも興味本位で森へ足を踏み入れると、抜け出せなくなる仕組みになっているらしい。そういう人間は見つけ次第、森を抜けるように誘導しているという。エルフは人間を好きではないが、闇雲に陥れたり傷つけたりすることも本意ではないらしい。できるならば関わることなく、お互いがお互いの領域で生きていくことを望んでいるのだろう。
 それでもまれに里に足を踏み入れてしまう人間はいる。本当に稀なことで、でもあまりに稀な出来事であるがゆえに、人間も夢ではないかと思ってしまうらしく、帰すことはさほど難しくないのだとか。


「じゃあ、クリスも里に迷い込んでアンに会ったってこと?」


 純粋に、ただ疑問に思っただけのことをセリアはなんとなしに口にしたが、クリスとアンは顔を見合わせるとお互いにほんのりと頬を染めて、言いにくそうに口ごもった。
 各々がそわそわと身体を揺らして視線を合わせたり外したりしている様子は、端から見ればもしかしたら微笑ましくあるのだろうが。


「……なんだろう、なんかこう、ムカつく」

「えっ!? な、なぜですか!?」


 ぼそりと呟いたセリアの台詞に、アンがショックを受けたように目を見開いたが、それはレンとカンダタも同じような感想を持ったのか、微妙に冷ややかな目で二人を見ていた。ユウはどうリアクションしていいのか分からないのか、困ったようななんとも微妙な笑みを浮かべており、パーティの中で唯一ティアラだけがなんとなく興味がありそうな視線を送り、でも冷ややかな大人三人の空気を読んでそのまま気配をしぼませた。
 ぶっちゃけのろけた空気満載の異種族カップルより、この少女のこういう反応のほうがよっぽどかわいらしく見えるのはユウの贔屓目なのだろうが、ともあれティアラもそういう話に興味のある年頃の少女なのだ。気を張って強がって、大人びた印象の強い彼女の、時折見せるこういう仕草はやっぱり年相応なのだと改めて思わせてくれる。
 同じ年の自分と変わらないこういう部分を見ると、普段は自分が置いていかれているのではないかという不安も和らぐ。ともあれこの少女のほうがよっぽど、ユウよりも聡く知識も豊富であることに代わりはないのだが、それでも自分となんら変わらない部分があるということが分かるだけでホッとするのだ。


「出会いはどうあれ、惹かれたんだから仕方ないでしょ」


 運命なんて言葉は陳腐かもしれないが、それでも出会うだけで終わらなかった二人だからこそ、今が有るのだろう。
 どことなくしょんぼりしているティアラの頭を優しく宥めるように叩きながら、ユウが肩をすくめて。


「セリアとレンだって、似たようなもんじゃん?」


 意味ありげににんまりと笑いながら、冷ややかな気配を漂わせる二人を眺める。とたんにレンとセリアが凍りついたのを見て、ティアラの興味が今度はこの二人に移るのを感じながら、ユウはね? と優しげなのに酷く悪意のある笑みを浮かべて、でもなんでもないように首をかしげる。


「俺たちのことはどうでもいいだろ」

「えっ! よくないでしょ!? 全然、よくないから私は!」

「黙って、お願いだから黙って」


 すっかり興味の対象がパーティの二人に移ったティアラを確認したところで、ユウが改めてクリスとアンに向き直り、勝手な想像ですけど、とパーティをおろおろ見守っていた二人に声をかける。


「あなたのお母さんは、別に人間が憎くてノアニールをあんな目に合わせてるんじゃないと思うんです」


 言い切ったユウに、アンが大きな瞳を鋭くすがめて、なぜ、と低く唸るように声を発した。彼女の憤りの気配に森が反応しているのか、取り巻く空気が微かに変わったような気がして背中に薄ら寒いものを感じる。
 それでもユウはめげずに、理解に苦しむような表情を浮かべるアンと対峙して小さくつばを飲み込み言葉を続けた。


「だって本当に憎かったら、そんな男の子供をわざわざ一年近くもおなかに抱えて産んだり、ましてや大事に育てたりはしないんじゃないかって。あなたは優しい、とてもおおらかな人だし」


 はたしてエルフに人という単語が正しいかは分からないが、ともあれ彼女が優しく朗らかな性格であることには変わらない。そして優しさもその朗らかさも、人を憎むような人格を持つ者から与えられるとは思えない。仮に呪詛を撒き散らすために彼女を生んだのだとしたら、決して人間と相容れるような人格には育たなかったはずだ。でも彼女はクリスに出会い、人間である彼を愛して駆け落ちまでした。


「だから、あなたはちゃんと愛されて育ってるんじゃないかって。だとしたら、怒ってるところは憎しみとはちがうところにあるんじゃないかって、俺は思うんです」


 勝手な考えだし、もしかしたら都合のいい解釈かもしれない。でも人間が憎くて仕方ないのであれば、やっぱり彼女がこうして人間とともにいることはなかったのではないだろうか。もっときっと、別の理由があるのではないかとユウは思う。
 アンは虚を衝かれたような顔をしていたが、ユウの考えに何か思い当たることでもあったのかふと表情を崩して、泣き笑いのような表情を浮かべた。それと同時に森の気配も和らいだような気がして、ユウもほっと息をつき


「……ごめん、俺が悪かったから、いい加減その二人いじるの止めてあげてくれる? ティアラ」


 セリアとレンにしつこく詰め寄るティアラと、詰め寄られてげっそりし始めているセリアとレンを振り返って、困ったような笑みを浮かべた。それを端で止めようともせず、ただ面白がるような笑みを浮かべて眺めているだけのカンダタにも若干呆れながら。


20161028 初稿


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