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天 球 儀

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蒼天の系譜 【第二幕】 ...08

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【第二幕】 エルフと盗賊


08






「……う……おい、ユウ」

「えっ、あ、はい!」


 耳に届いた野太い声に、ユウが思い返していた昨夜の出来事から一瞬で引き戻された。
 謁見の間での件からの流れでユウたちはカエサルやルキウスと会食することとなり、場所を食堂へ移して雑談を交えながら食事を取っていた。
 面子はカエサル国王にその息子ルキウス、そしてカンダタことサマンオサの王子であるサイラス、それにユウたち四人だ。面子としては盛り上がりに欠けそうではあったが、レンは案外カンダタと話が合うらしく二人で何か意見を交わし合っていた。セリアとティアラは女性同士で楽しそうに談笑しており、それぞれがそれぞれの楽しみ方で食事をしている中で、ロマリアの王子であるルキウスは、父であるカエサルともほとんど会話らしい会話をしておらず、謁見の間からずっと険しい顔をしていた。カエサルはカエサルで別段それを気に留めることもなく、その場にいる全員をどこか楽しげに眺めている。
 そんな中でぼんやり考え事をしていたユウが、カエサルにいきなり呼ばれて思わず大声で返事をし慌てて顔を上げて見れば、いつの間にかその場にいた全員が自分に注目していた。それがなんだか恥ずかしくなって顔を上気させてすみません、と謝ってしまったが、何故呼ばれたのかは全く分からない。
 俯いて縮こまってしまったユウに、呼んだカエサルが改まるなよ、と可笑しそうに笑った。


「さっきの話の続きだが……お前たちの名前は、国や世界の立て直しに使わせてもらうが、そこんとこはお前らが何か気にすることはねぇ。お前はお前なりにやんな。オルテガだって英雄だなんて言われてるけどな、あいつのは家族愛が行き過ぎたただのバカだから」

「……は?」

「おまえは知らんだろうがな。あいつの行動の根本にはまず嫁がいる。次にお前で、世界だ国だなんてのはもっと優先順位が後ろの方だ。あいつのやってた行き過ぎた家族愛が単に英雄を作ったってだけで、当の本人はいつだってお前たちのことしか考えてなかったよ」


 いきなり父の話を振られたユウがぽかんと間の抜けた顔をする。そんな彼にカエサルはにやりと笑いながら、だから、と言葉をつづけた。


「おまえもそう気負うな。おまえがこれからやってくことが、いつかこの世界を救うってことにつながるだけだ。おまえは大事なもんだけ守っていけば、それでいい。後のことは国の偉い奴がやるからよ。オルテガの尻拭いだって、大概俺たちだったんだからな」


 言いながらカエサルは盛大に笑ったが、ユウはただただ唖然とするしかなかった。完璧な人間、誰もが評価する英雄。それが父であったはずだ。なのにカエサルの語る父は、世間から聞かされる姿とはあまりにもかけ離れている。母だって、父は英雄であったと幼いユウにいつも聞かせてくれていた。
 でも今思えば、父が世界の為とか民衆の為とかそういう大それた理由で戦っていたと、母も祖父も言っていなかったのではないだろうか。ただいつも、私たちのためにとかユウの為にとか、父が家にいない理由は酷く限定された物言いだった記憶がある。
 いかんせん幼い頃から父の偉大さを周りからも聞かされていたユウは、そばにいることのほとんどなかった父の本質を理解することができず、あまつさえそれに世間からの父に対する評価が交じって、いつの間にかその姿が歪んで見えていたのかもしれない。
 とはいえ今はまだ混乱していてすぐには受け入れられそうもなかった。だってずっと物心ついた頃から、父は家族よりも世界の人々の方が大切なんだと、そう思い込んでいたのだ。それが今さら、実は誰よりも家族の事を考えている男でしたなどと言われて、はいそうですかとそう簡単には納得できるはずがない。
 それにはまだもう少し時間が必要ではあるが、それでも今確かに分かったことは、父も自分とそう変わらなかったのだと言うことだ。大切な人を守りたいと思う気持ちは、変わらなかった。そしてそれはなんとなく、自分は間違ってなかったと言って貰えたような気がして少し嬉しかった。


「そういうあなたの尻拭いをしてきたのは、誰だと思っているんですか?」


 複雑そうな笑みを浮かべたユウが口を開きかけた瞬間、今までほとんど黙ったままだったルキウスが強い口調で口を開いた。それに伴って今までユウに向いていた視線が一斉にルキウスへ集中する。


「ルキウス」


 非難するような視線をカエサルへ向けるルキウスに、カンダタが声をかけようとしたのをカエサルが片手を上げて制止する。カンダタは一瞬眉間に皺を寄せて困惑したような表情を浮かべはしたが、それ以上は何も言わずそのまま口をつぐんだ。
 それを確認したカエサルがルキウスへ向き直り、テーブルに片肘をついて息子であるルキウスを、どういうことだ? と斜めになって眺めた。


「国王としての責務すら果たせないあなたが、他人の尻拭いですか? 面倒は他人に押し付けて遊びほうけてる人間が、今さらなにをしようと言うのですか」

「……なるほどな。金の冠持ってったのはお前か、ルキウス。そんなに俺が気に入らないか」


 じっと睨み合う親子を見ながら、レンが隣のカンダタの脇腹を肘でつつく。横目で返事をするカンダタの耳元で、レンが耳打ちをした。


「嫌がらせって、おまえのじゃないのかよ」


 その言葉にカンダタはただ苦笑だけして肩をすくめる。そのままルキウスに視線を向けて、静かに首を振った。


「止めとけよ、ルキウス。そのおっさん責めると、後で自分が痛いだけだぞ」

「サイラスだっていいように使われたってぼやいてただろう? そういう人間なんだよ、この人は。自分が面倒だから、そうやってなんでも他人に押し付けて」

「甘やかされて育ったんだな、あんたは」


 どこかかわいそうなものでも見るような顔をしてルキウスをたしなめるカンダタに、それでもルキウスは吐き捨てる様に自分の父親を悪しざまに罵る。カンダタの隣でそれを聞いたレンが、呆れた様に肩をすくめて嘆息した。
 レンの言葉が気に入らなかったのか、ルキウスが今度はキッとレンを睨みつけたが、レンは口の端を釣り上げて皮肉っぽい笑みを浮かべて腕組みをしながら椅子の背もたれに寄り掛かって、若干ふんぞり返るような姿勢でルキウスを見つめる。さながらその姿は、相手を小ばかにしているように見えなくもない。


「このまま行くと、裸の王様になるぞ。ルキウス殿下」

「なに……」

「もっと父親だけじゃなくて周りを見な。こんな王様なのに、なんで宰相のユリウスはそれでも付き従ってる。なんで国民の人気は高い。世界でトップの貿易国家でいられてると思う。そして同盟国の盟主を任されてる理由。考えればいくらでもあるだろう。それも考えないで、ただうわっつらのアホなトコだけ見てムカつくから嫌がらせ? 甘ったれんなガキが」

「おいおい、人の息子に好き勝手言うなよ」


 口元は小ばかにしたように歪めながら、でも冷めた目でユリウスを眺めながらレンが鼻で笑う。
 馬鹿にされたルキウスはますます険しい表情を浮かべ、心底憎らしそうにレンを睨んでいたが、そこでカエサルが苦笑いしながら割って入って来た。レンは失礼しましたと口では言いはしたが、態度と口調で全く悪いと思ってないことが伺える。
 ただ普段滅多な事で他人をやたらと卑下したりしないレンにしては珍しいので、ユウにはレンがルキウスを馬鹿にしていると言うよりは、彼に対して何か怒っているのだと言うことは分かった。


「カエサル陛下が入り婿なのは知ってるな。ルキウス」


 困ったような笑みを浮かべたカンダタが、カエサルを一瞥しながらルキウスに声をかける。カエサルは若干微妙な顔をしてはいたが、カンダタの発言を制することはしなかったので、ルキウスが小さくうなずいたのを確認してカンダタは話をつづけた。


「元は現サマンオサ国王の弟……だけどな、元は平民なんだよ。このおっさん」

「え……?」


 カンダタの言葉にルキウスが大きく目を見開く。もちろん、カンダタだけではない。その場にいたカエサルとカンダタ以外は全員、ぎょっとしたようにカエサルを一斉に見た。カエサルは片肘をつき、居心地の悪そうな顔をして視線を逸らせている。それを苦笑いで見て、カンダタはさらに話を進めた。

 カエサルは初めから王族だったというわけではなく、病弱だった先に生まれた現サマンオサ王が身まかられた時のことを考えて、先王が外で産ませた子供だったらしい。ならもう一人作るか、あるいは側室を迎えればいいだけの話なのだが、前サマンオサ王妃は第一子を産んだ時点で子を産めなくなってしまった挙句、大変嫉妬深く側室を迎えることは絶対に許さなかったのだと言う。
 だからカエサル自身も、自分が王族の血を引いているなどと知りもしなかった。ただ母一人の稼ぎしかないのに生活が困窮したことはなかったので、それは不思議だったがなんのことはない。こっそり城から生活費が出ていたからなのだ。
 やがて王妃は流行り病にかかり、出産以降体が弱っていたせいであっという間に身まかられた。その頃、カエサルの母親もやはり流行り病で亡くなり、嫉妬深い王妃のいなくなった王宮に母を亡くしたカエサルは呼ばれ、以降は王族として城で暮らすようになったという。
 しかしそれで上手く行くかと言えばそうではなかった。兄である現サマンオサ王は兄弟ができたことに喜び良くはしてくれたが、いくら王族の血を引いているとは言え、平民育ちだったカエサルをよく思わない人間も大勢いた。
 さらに病弱だった兄が身まかることはなく、弟であるカエサルと刺激し合うことで、むしろ年を重ねるにつれ健康体となって行ったことで王位継承の問題が出て来た。そのころロマリアでは跡取り問題が出てきており、王女の婿を探しているところへきて、サマンオサの王位継承問題。お互いの国の利害が一致した瞬間に、カエサルはロマリアへ婿に入ることが決まった。
 しかしロマリアはサマンオサよりも厳格な国で、平民の中で育ってきたカエサルへの風当たりは当然きつく、そんな国で育ってきた妻である王妃との仲も決していいとは言えなかった。
 それでもやがて生まれたルキウスだったが、男子であるルキウスが生まれたことで夫婦の溝は益々深くなった。だからルキウスは王妃が一人で育ててきたと言ってもいい。ことあるごとに父親であるカエサルのことを悪しざまに、まるで恨み言を子供に吹き込む様にして。そんな境遇で育てられた子供が、父親に良い感情を持つはずもない。


「王妃から、ダメな王だダメな父親だと。あんな王にはなるなと言われておまえは育ってきたな。だからおまえは陛下の本質を知らないし、知ろうともしない。だから甘やかされて育ったって言われるんだ。自分で考えず、ただ母親の言われるがままに過ごしてきたおまえが、初めから用意された国王という座に、王たるものが何なのかも分からないまま座ったところで、レンの言う通り裸の王様になるだけなんだ」

「父上……それは」

「まぁ、概ね合ってるよ」


 悲しそうな顔をするカンダタをただ茫然と見つめた後、ルキウスはぎこちなく視線をカエサルに向けた。カエサルは相変わらず視線を外したまま、どこか拗ねた様な顔をして小さく嘆息して肩を落とした。


「俺はな、どこに行っても邪魔者扱いだった。サマンオサでもロマリアでも。でもだからこそ、何不自由なく生活する王宮の人間では学べないことも学ぶことができた。上に立ち、人を動かす術もその一つだ。誰かを恨んだことがねぇかって言われたら、そんなこともねぇよ。卑屈になることだっていくらでもあった。それでも、それも糧になる。無駄だったことは何一つねぇ」


 そこでカエサルはようやく斜めにしていた身体を正面へ戻し、息子であるルキウスを真っすぐ見つめた。見つめられたルキウスは、父親とこうしてきちんと真正面から向き合うことはほとんどなかったのだろう。困惑したような表情で、どこか落ち着きなさそうに視線をしきりにさまよわせていた。


「だからな、王妃が死んでおまえを育てなきゃならなくなって、俺はどうしていいか分からなかった。俺は全部一人で学んできたからな。それを他人に教えてやるなんてことはできないし、ましてやおまえは俺に近寄りもしない。見て学べなんてことはさせられない。だからおまえをサイラスに預けた。おまえは昔からサイラスにはなついてたし、こいつもいい加減な奴だが、上に立つ器を持ってるからな」


 カンダタはあんたに言われたくないと微妙な表情を浮かべてはいたが、ユウたちから見れば確かに、カンダタはカエサルに似ていた。表はいい加減そうには見えはするが、人を引き付ける何かを持っていることも確かだし、人を動かす力も持っている。血の繋がりは案外、伊達ではないのだろう。
 微妙な反応を見せたカンダタを見ながらカエサルが小さく笑った。なんでも見透かしたような不敵そうな笑みではなく、どこか寂し気な愁いを帯びた笑みだ。そのまま困惑と動揺を隠せないルキウスにまっすぐ視線を向けた。


「ユリウスも平民からの入り婿でな。だからなんだか馬が合って、ここまでやってきた。でもアイツもそろそろ一緒に走るにゃ、ちょっと年を取り過ぎた。だから助けてもらいたいんだ、おまえに。今さら親子ごっこをしてくれなんて言わねぇよ。ただこの国を、この国に住んでる人間を大切にしてやってほしい。そういう人間になってくれ」


 優し気に笑うカエサルは一国の主たる顔ではなかった。ただ子を案じる、一人の父親の顔だ。ユウはもうほとんど父の顔を覚えてはいない。でもおぼろげに覚えている父の笑みは、酷く優しかった。その父と同じものを、今のカエサルからは確かに感じる。
 そしてそれはルキウスも同じだったようで、どうしていいか分からずずっと微妙な表情を浮かべていた彼も、カエサルの表情を見てふっと表情を崩した。


「本当に、人使いだけは立派な人だ。……すぐにとは言えません。でも、努力はします」


 ルキウスは大きく息をついて肩を落としながら複雑そうな笑みを浮かべた。
 複雑なのは当然だろう。ユウだって、カエサルから聞いた父の姿をすぐに受け入れることはできない。長い年月をかけて植え付けられてきた先入観は、そう簡単に変えられるものではない。
 ただでも、ルキウスはユウとは違う。ユウの父であるオルテガはすでにこの世にはなく、オルテガの人となりを聞いていくことでしか父を知ることはできない。それはさながら、散らばってしまったパズルのピースを少しづつ組み上げていくようなものだ。それに引き換えルキウスは、目を背ける事さえしなければちゃんとそこに対象がいるのだ。きっと遠からず親子としてちゃんとやり直すことができる様になるだろう。カエサルだって、別に息子が憎いわけではないのだから。
  ユウはどんなに望んでも、父であるオルテガと言葉を交わすことはできない。だからあの二人が羨ましくないかと言えば嘘になる。ユウだってできれば、ちゃんと面と向かって父と話をして分かり合いたかった。同じ思いを共有する人間として、話を聞いてみたかった。そうすれば、きっともっと父に対する思いや考えは違ったはずで、こんなおかしな葛藤だって抱えなかったかもしれない。
 どこか憑き物が落ちた様な表情をしているカエサルとルキウスを、複雑そうな顔で眺めていたユウの頭を、レンが小さく叩いた。きょとんとして顔を上げると、レンは優しげに笑って小さくうなずいただけだったが、慰めてくれているのだと言うことは分かった。
 こうして自分を分かってくれる人がいる。英雄の息子としてではなく、ユウをユウとして見てくれる。認めてくれる。そういう仲間がいる。それだけで、心にたまった澱が流れて行くような気がした。
 ユウが微笑みかけてくれたレンに笑い返して小さくうなずくと、レンは頭に載せた手でユウの髪をくしゃくしゃとかき回した後、表情を引き締めてカエサルへ視線を向けた。


「それで、カエサル陛下。我々との約束は」

「あぁ、ネクロゴンドへの行き方だろ? 実はな、最近見つかった古い文献にヒントになりそうなことが書いてあったんだ」


 レンに話を振られたカエサルが同じように表情を引き締め、言いながらカエサルはルキウスに命じて、古びた巻物の様なものを持ってこさせ、それを広げて見せた。
 虫食いやシミなどでかなり痛んではいるが、イラストなどはなんとか見て取ることができた。そこには六個の宝玉に囲まれた鳥の様な生物が描かれている。


「これは?」

「文章がな、上手く読み取れねぇんだが……分かった限りでは、これは精霊神ルビスが残した不死鳥ラーミアっつう神の使いらしい。ルビスはこいつの背に乗って、世界をガイアと作り上げたって話だ。この世界に危機が迫ったら、六個のオーブをラーミアの眠る祭壇にささげると、そのラーミアが助けてくれるんだそうだ」

「えっらいざっくりした説明ですね」


 カエサルの説明は端的で、本当にただかいつまんでいるだけのように聞こえる。それをレンがうっそりと眺めれば、カエサルはムッとしたように眉間に皺を寄せて唇を突き出し、まるで子供が拗ねた様な表情を浮かべた。


「だから読み取れなくてわかんねぇんだから、分かるとこだけ説明してんだろうが。ただ鳥ってからには空を飛べんだろ?」

「それでネクロゴンド城に行くって事ですか?」

「そういうことだな。……なんだよその胡散臭そうな顔。嫌ならいいんだよ。頑張って他を当んな」


 一通り説明してくれたカエサルを、今度はレンだけでなくセリアやカンダタ、果ては息子のルキウスまでが胡散臭いものを見るような目つきでカエサルを見ている。
 ユウは困ったように笑いながらそれをなだめ、イラストを覗き込んで首を傾げた。


「このオーブっていうのは?」

「オーブはな、世界各地の国や遺跡に収められたって話だ。一か所に飾っとけよって話だが、信仰なんかの関係でおそらく各地にバラされたんだろう。だがいかんせん、大昔の話だ。人手に渡ったり、元の場所にはない可能性もある」

「お手上げじゃない?」


 話を聞いていたセリアが両手を上げるジェスチャーをして見せたが、イラストを覗き込んでいたレンがいや、とぽつりとつぶやいた。


「俺はこれを知ってる。俺の国にあった宝玉とよく似てるんだ。お国柄神への信仰へ結構厚い国でな。その関係で残ったか、あるいは手に入れて祀ったか……そういう国や遺跡を回ってみるってのはありかもしれん」

「私もこれ、見たことある気がする……小さい頃だけど……どうしてあの人が持ってたんだろう」


 腕組みをして顎を撫でているレンに倣ってイラスト見ていたティアラも、微妙な顔をして首をひねった。案外ヒントは身近にあるものだ。ユウは思わず苦笑いをして、じゃあどうする? とオーブを知っているらしい二人に向かって声をかけた。


「そっちを探しに行く?」

「いや……船が必要なものは後回しだな。ひとまず別の用事を済ませて……イシスに行ってみよう。あそこには古い遺跡があったはずだからな。探してみる価値はあるだろう」

「船か。なら任せときな。用事とやらを済ませてこっからイシスまで行ってりゃ、戻ってくるまでに船の一隻位用意できる」


 まとまりかけた話の中に、カエサルがテーブルに肘をつきながら割って入って来た。きょとんとした四人に向かって、なんだよ、とちょっと不機嫌そうな顔する。


「必要なんだろう? ポルトガ王が嘆いてんだよ。このご時世で船がろくに売れなくて余ってるって。おかげで交易船の入港もままならなくて、大好きな黒コショウが手には入りづらいらしい」

「……それが交換条件ですか」

「察しのいい奴はめんどくせぇが嫌いじゃねぇ。どうせ東にいくんだろう。アッサラームあたりでちょろっと仕入れて来いよ」


 黒コショウの一つや二つで船が手に入るなら安いもんだろ? カエサルはにんまりと笑って手を振ったが、レンは心底呆れた顔をしてがっくりとうなだれた。
 今度はユウがレンを慰める様に苦笑しながら彼の肩を叩き、カエサルによろしくいお願いしますと頭を下げる。それをカエサルは堅苦しいと一蹴し、いいんだよ、と少しだけ寂しそうに笑った。


「俺たちは確かにオルテガの尻拭いはしてきたけどな、大概のことは独りで何でも出来ちまうヤツだった。でも俺たちから言わせれば、もっと俺たちを頼って欲しかった。そうしてくれれば、あるいは俺たちがもっと踏み込んでアイツを助けてやってれば……おまえに背負わせるものはもっと少なかったんじゃないかって思うこともある」

「それは……たぶん、違うと思います」


 苦いものを噛む様な表情を浮かべたカエサルに、ユウがとっさに声をかける。声をかけてからしまったとは思ったが、カエサルにじっと見つめられてしまい、続きを口にせざるを得なくなってしまった。仕方なく一呼吸置いて、なんとなくですけど、と前置きしてからユウは口を開いた。


「父は……陛下たちを信頼していたんじゃないかと思います。独りではどうにもできないことはあると、分かっているからこそ……陛下たちが後はどうにかしてくれると、信じてたんじゃないでしょうか」


 ユウならたぶん、そうする。仲間を信じてるから、自分を信じてくれる仲間を信じているから、だから一人でも先を走っていける。後ろをちゃんと仲間が補ってくれるはずだから。


「……でも、言わないと分からないこともありますよね」

「生意気いうじゃねぇか」


 照れたように笑って首を傾げたユウに、カエサルは感慨深げな顔をした。オルテガの若い頃とよく似ていると言われるユウに、もしかしたら若い頃のオルテガを重ねたのかもしれない。懐かしそうにユウを眺めて笑うと、カエサルはだとしたら、と表情を引き締めた。


「なおさらだ。アイツにしてやれなかった分、お前たちの力になりたい。背負わせるからにはな、それなりの見返りを用意してぇんだよ。……だから、ユウ」


 頼んだぞ、と念を押すようにユウに力強く訴えたカエサルに、ユウは唇を引き結んで頷いた。
 アリアハンを出る間際にアリアハン国王と対面したことがあったが、あの時も国王はユウをどこか感慨深げに眺めてオルテガに似てきたと言っていた。あの時は酷く複雑な気持ちになったけれど、今はあの時ほど複雑な気持ちにはならない。
 それはたぶん、父の本質が少し見えてきたせいもあるだろうし、独りで背負うことはないのだと思えるようになってきたからでもあるのだろう。
 ずっと父の遺志を継がなければと、自分が世界を救わなければと言い聞かせて来たけれど、独りですべてを背負う必要はないのだと思わせてくれる人たちがいる。一緒に頑張ろうと手を差し伸べてくれる彼女や、戦ってくれる仲間が、父の残してくれた繋がりがそう思わせてくれる。
 世界のためだなんて大きなことを言わずとも、そうして歩んだ自分の軌跡が、いつか世界の平和につながるのなら。

    きっとそれが、一番いい方法なんだ。

 自分の想いと、人々の願いが両立できるのだから。それはアリアハンを出るときとはまた違った思いが、ユウの中に芽生えた瞬間だった。


20160913 初稿


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