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天 球 儀

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蒼天の系譜 【第二幕】 ...07

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【第二幕】 エルフと盗賊


07





 以前に訪れた時も同じ事を思ったけど、アリアハンとは造りが全然違うんだな。玉座の間の高い天井を見上げながら、ユウはぼんやりとそんなことを思った。
 アリアハン城はもっと質素で簡素な造りだった。よく言えば無駄のない、機能的な城であると言えるだろう。その分、華やかさや煌びやかさは損なわれてはいたが、細かなところに趣向の凝らされた城ではあった。
 対してロマリア城は、豪華絢爛という言葉を体現しているような造りの城で、玉座の間に至っては天井も高く、壁には細かなデザインの施されたステンドグラスの窓がずらりと並んで、広間いっぱいに光が差し込んでいた。
 その光を受けた壁や柱は真っ白に光り輝き、その白さが中央に敷かれた真紅の絨毯をより一層引き立たせていた。
 見上げた天井にも一面に絵が描かれており、ユウにはよくわからなかったが、同じように天井を見上げていたティアラが、世界の創造を描いているものだとこっそり教えてくれた。
 そんな真紅の絨毯の脇には、おそらくこの国の為政者たちであろう人物が顔を並べており、玉座へ向かうユウたちパーティを胡乱気に眺めていた。居心地の悪い視線を感じながらその並んだ顔を横目にすれば、性格は顔に出るとよく耳にするが、なるほどと思わせるような顔つきの人物ばかりがそろっている。人を見た目で判断すべきでないことも分かってはいても、見るからによからぬことをしでかしていそうな顔つきだ。


「お初に御目文字いたします、ロマリア国王カエサル陛下。ネクロゴンド国王が娘、ティアラ=オウラノス=ネクロゴンドにございます」


 国王の前まで来た四人のうち、ユウとレン、セリアが先に膝をついて頭を垂れる。パーティの中で一番身分のあるティアラだけが王の前まで進み出て、ローブの端をつまんで膝をつき、最後に頭を下げた。
 彼女の挨拶に周囲がにわかに色めきだつ。それもそうだろう。滅んだはずの国の、死んだと思われていた王女がこうして目の前に現れたのだ。
 周りがどよめく中で次にユウが顔を上げる。顔を上げた先の玉座には、確かにカジノの酒場で会った壮年の男性がいた。あの場では何も感じることのない、ちょっといい加減そうなおっさんくらいにしか見えなかったのだが。もちろん見た目のせいもあるのだろうが、今の彼は見るからに威厳に満ち溢れていた。


「アリアハン戦士オルテガ=イペリオネが息子、ユウ=イペリオネにございます」


 ティアラを見定めるように眺めていた周囲が、今度はユウに視線を向けて再びどよめく。
 世界に名をはせる勇者と謳われた戦士であったオルテガ。その名を知らないものなどそうはおらず、またその息子となればネクロゴンドの王女であるティアラと引けを取らないほど、ユウの存在にもインパクトがあることに違いはない。
 魔王バラモスに滅ぼされた亡国の王女。そして魔王バラモスの討伐に赴き志半ばで命を落とした、勇者とまで謳われた戦士の息子。この二人がこの場に揃うことの意味。
 カエサル王は目の前に控える四人を順繰りに眺め、大きくひとつ頷いた。


「よく来た。戦士オルテガが息子ユウ。そしてネクロゴンド王オウラヌスが娘ティアラ。詳細はアリアハン王からの親書にあったが、お前たちは敵でもあるバラモスの討伐に向かうためにこの国へ寄ったのだそうだな」

「はい。私達はバラモス討伐を目指して出立いたしました。しかし私たちだけの力で旅をするには困難な事も多く、こうして各国の力をお借りすべく、ここロマリアにも立ち寄らせていただいた所存にございます」

「そうか。そなたらの志の手助けとなり平和をもたらすこととなるのであれば、微力ならが助力しよう。なんなりと申すがいい」


 カエサル王の言葉に、良く通るしっかりとした口調でティアラが答えて恭しく頭を下げる。ユウはいつも思うが、普段彼女が自分たちと話をしているときと、こうして公の場や魔法を唱えるときの彼女とでは、まったく話し方も声のトーンも違って聞こえる。
 それは目の前のカエサル王も同じだ。カジノの酒場で会話を交わした時とこの場では、まるっきり抑揚が違う。
 誰でも確かに猫を被るときは声のトーンや質を変えて来るものなのだろうが、そういうものとも違った、それこそ国のトップに立つのに相応しいと思えるような話し方だ。気品だけでなく、ある種のカリスマの様なものを感じると言うべきだろうか。
 カエサルはともかく、亡国のとはいえティアラはやはり王族なのだ。感心するのと同時に、自分との立場の違いに不安も覚える。
 微妙に顔をゆがめたユウの脇腹をレンが小突いた。思わず肩を震わせたが批難するわけにもいかず、でも自分が悪いことも分かっていたので慌てて何でもないような表情を取り繕う。


「では陛下。私からのお願いでございます。現在、世界各地で魔物の横行に便乗した略奪や強奪が頻発しております。我々ももちろん尽力する所存ではありますが、治安の維持に関しては我々だけではどうにもなりません。つきましては各国が協力し、早急な治安の回復と人々の生活の安寧を図っていただきたく存じます」

「馬鹿な! こんな魔物の横行するようなご時世に、そんなお使いを頼むように簡単に事が運ぶと思うか!?」

「そうだ! 大体、そんなことに割く兵がどこにある!? ましてやそんな予算どこから出ると言うのか!」


 まっすぐカエサルの目を見据えて申し立てたティアラの言葉の語尾に重なる様に、脇に控えていた為政者たちから次々と怒号が飛んでくる。しかし彼女は眉一つ動かさず、カエサルを見据えていた目を鋭く彼らに向けた。全く動じることもなく堂々としている彼女とは違い、たかだかやっと成人を迎えようかという小娘に鋭く睨まれて、おどおどとしだす初老の男たち。これにはさすがにユウだけではなく、セリアやレンも笑いをこらえるのに必死だった。


「魔物に関しては我々が尽力すると申し上げたはずです。その後から、できうる限りのことをしてほしいとお願い申し上げているのです。できないことをしろとは申し上げておりません。あなたがたのその首の上についている立派なお顔は、案山子の頭同様に飾りですか? それすら考えることができないと?」


 立ち上がっている訳でもない、ましてや迫っている訳でもない少女の言葉だけで、その場に顔を並べた為政者たちが言葉に詰まってわずかに身を引いた。負け犬の遠吠えのようにキャンキャンと喚くだけの大人とは違う、少女のその気迫に大人たちがたじろいでいる。彼らもまさかこんな小娘に、そこまで気圧されるとは思っていなかっただろう。最初に見せていた、ユウたちを小ばかにして見下すように口元を釣り上げていたその表情は、悔しいと言うよりもどこか怯えているようにも見える。
 そのままさらに迫ろうとするティアラを、カエサルが片手で制した。その仕草に少女はおとなしく、出過ぎた真似をと頭を下げてカエサルに向き直った。
 真っすぐにカエサルを見つめる少女を同じようにカエサルも見つめ返し、玉座にもたれかかりながら深く息をついて顔をゆがめた。その顔はどこか嬉しそうにも見える。


「そなたの言い分はよくわかった。約束しよう。これでもロマリアは同盟国家の盟主だ。他国から先だって示さねば、恰好がつかんからな」

「へ、陛下!?」

「黙れ。ルキウスをここへ」


 年端もいかない少女の提案を受け入れた国王に、並んでいた為政者たちが一斉にどよめく。カエサルはそれを一言で黙らせると、そばに控えていたユリウス宰相に声をかけた。
 宰相は一礼すると一度広間から出て、今度は誰かを伴って再び国王の元へと戻ってくる。ユリウスと共に戻って来た人物を見た、ティアラ以外の三人は思わず声を上げそうになって吸い込んだ息を慌てて飲み込んだ。
 長身の凛々しい顔立ちをしたまだ年若い青年。カザーブでユウたちをカンダタの元へ案内してくれた男に間違いなかった。カエサルとよく似た顔立ちからして、どう考えても彼の血縁であることは明らかだ。


「紹介しよう。息子のルキウスだ」


 ぽかんとする三人を、カエサルはいたずらが上手く行った子供のようににやりと口元をゆがめながら眺め、自分の隣に立った青年を指した。
 青年ルキウスは唇を引き結んで表情を変えないまま一礼すると、手にしていた紙の束を父王に差し出す。カエサルはそれを頷きながら受け取り適当にぱらぱらとめくった後、脇に並んだ為政者たちにそれを差し出した。


「兵がない? 予算がない? 面白いことを言うな。横領、賄賂、横流し。ここにはお前たちのしてきたことが全て記されている。それを含めてお前たちの資産を搾り出せば兵を育て、国を立て直す予算くらい出て来るだろう? ん? どうだ?」

「へ、陛下!! なにを……」

「どうせバラモスが倒せなければ消える命と金だ。溜め込んでるだけじゃ、便所の紙程の役にも立たないんだよ。よって資産はすべて没収とする。地位までは取らん。だが監査は入れる。今後はせいぜい国民に尽くせよ」


 紙の束をバサバサと振りながら、カエサルが口の端を釣り上げて笑った。脇に並んだ為政者たちは目を白黒させ、互いに互いを罵り合い始める。お前がやろうと言ったんだ、お前がそそのかしたんだろう。罪を擦り付け合い、へらへらと笑って言い訳を並べ立てていく。
 しかしカエサルは見向きもせず、かと言ってそれ以上何か言葉をかけるでもなく、ただ手だけ振った。それを合図に控えていた兵たちが、喚き散らす為政者たちを引きずる様にして広間から強引に退出させて行った。
 やがて扉が閉まって全員退出し、喚き声を収まって広間に静寂が戻った頃、カエサルがくつくつと肩を揺らし始めたかと思うと、いきなり大声を上げて笑い出した。
 国王の前に控えていたユウたちも、傍にいたユリウスやルキウスもぎょっとして腹を抱えてひぃひぃと笑うカエサルを見る。


「いや悪い。ネクロゴンドの娘なんて言うからまさかとは思ってたが、間違いねぇ。いい子ちゃんなところがまるっきりネクロゴンドだ。オルテガの息子にネクロゴンドの娘か! アリアハンも面白い連中を寄越したもんだ」

「……馬鹿にされてます?」

「いや、懐かしかっただけだ。悪いな。……友を失くすってのは、そういうことなんだよ」


 笑い転げるカエサルにティアラが見るからに不機嫌そうに顔をゆがめる。
 カエサルはそこでようやく笑うのを止め、今度は、少し影を落としたように寂し気な笑みを浮かべてユウとティアラを見た。
 ユウの父であるオルテガ、ティアラの父であるネクロゴンド王。どちらもロマリア王の友であったとレンは言っていた。立て続けに友を失くしたのは、アリアハン王だけではなかったのだ。まだそれほど年老いてもいない、かといって病でもない、そんな風にある日突然大切な人が消えてなくなる、その喪失感はどれほどのものだろうか。
 ティアラはちょっと申し訳なさそうな顔をしたが、そんな顔をするなとカエサルはまた笑った。


「友は亡くなったが、残したものはある。残したものが、ちゃんとこうやって繋がってくれるのは嬉しいことだな」

「では、陛下」

「あぁ、さっきも言ったが約束しよう。お前たちの軌跡を無駄にはしない。俺たちは俺たちができる事をしていく。ただ……おまえは、おまえたちはそれでいいのだな?」


 微かな笑みを残していたその表情がふと真顔になり、カエサルはティアラを見た後、その後ろに控えているユウに一瞥をくれた。ユウはきゅっと唇を引き結び僅かに眉間に皺を寄せたが、カエサルを見つめたままゆっくり頷いた。
 肩越しにそれを確認したティアラは再びカエサルに向き直り、どこか苦いものを噛む様に唇を小さくかんだ後、微かに首を縦に動かした。


「構いません。それが希望となり、世界がまとまるきっかけになるのであれば」

「……そうか、分かった。ならもうこれ以上、言うことはねぇ。後は任せな」

「重ね重ねよろしくお願い申し上げます。カエサル陛下」


 力強くうなずいたカエサルを確認したティアラは、片膝をついたままローブの端をつまみ、ひれ伏すように頭を下げてそう結んだ。
 それを後ろから眺めながら。ユウはわずかに視線を落として誰にも悟られないようにそっと嘆息した。


    お前たちはそれでいいのか。


 それはまだ昨夜の話だ。
 なかなか寝付けなかったユウは部屋を抜け出して庭に出た。ティアラが目を覚ましてからも宿に戻ることはなく、診療所を兼ねた家は二人で住むにはやや広めな造りで部屋も余っているからと、アンやクリスの好意で身を寄せさせてもらっていた。庭もそれなりの広さがあり、よく手入れされていた。
 アリアハンとは全く気候が違い、出発する頃は春を迎えアリアハンを出る頃にはすでに初夏に移ろうかという気候だったが、こちらはこれから秋を迎えて冬の準備に入る頃合いなせいか、朝晩の風はやや冷たさを感じる。
 部屋着に外套を肩にかけては来たので寒くはないが、すぐそこに冬の訪れを感じてユウはなんとなく可笑しくなった。この間までアリアハンで冬を越したばかりなのに、また冬を迎えるのはなんだかおかしな気分だ。このままずっと、暖かい季節なんか訪れないのではないかとさえ思ってしまう。
 ユウが、あるいはユウ以外の誰でもいい。バラモスを倒せなければ、本当に世界はそうなってしまうのかもしれない。暗く冷たい、未来も希望もない、寒々しい世界に。


「希望……か」


 頭に浮かんだ文字をぽつりと声に漏らした。それでも世界にはかつて希望があった。ユウの父であるオルテガだ。
 オルテガの名を知らないものは、世界にきっとほとんどいない。強さと優しさを兼ね備え、望んだ時には必ず訪れる、決して人々の期待を裏切らない、そんな人間だった。でも人々は知らない、その陰で寂しい思いをしていた息子を、そういう人間の妻だからと気丈に振る舞っていた妻を、犠牲と言っては大げさかもしれないが、それでも家族の中にはいてほしい時にいてくれなかった父。それでも確かに彼は、世界の希望だった。
 そんな彼ですらバラモスには届かなかった。その時に駆け巡った世界の絶望感は計り知れない。それまで、それでもなんとか耐えてきた、堪えてきたものがその一瞬で崩れ去ったのは言うまでもないのだ。あのオルテガですらバラモスには敵わないと。
 だから今、世界はバラバラだった。大きな国同士で同盟を結びはしているが、今はそれもほぼ機能していない。このロマリアもそうだ。カエサルはいい加減そうに見えはするが、決して愚王ではない。世界情勢に対して、それでもギリギリのラインで国を守り切っている。しかしやはり国政の荒廃はとどまらなかった。
 カンダタが調べ上げた為政者たち。国民を顧みない、私欲にまみれた所業。これでは国がきちんと回るはずがない。政治のことはユウにはよくわからないが、城下の格差はアリアハンの比ではない。国が大きくなれば大きくなるだけ、そういうものの差も大きくなるのだろう。


「どうすればいいんだろう」

「新しい希望を作ればいいのよ」


 完全に独り言で呟いた言葉に、突然返答があった。びっくりして飛び上がりそうになり、弾かれた様に振り返ると、ティアラが違った? と面白がるように笑って首をひねっていた。


「希望が必要って話じゃないの?」

「え、や……そう、かな?」


 ユウの独り言に、おおよそ合っている答えを導き出した彼女の洞察力に驚き、戸惑いながら頷く。
 彼女は戸惑うユウの横に並んで、確かにね、と真顔になって頷きながら、むき出しになった肩を小さくさすった。この季節には似つかわしくない薄着の彼女の肩に、ユウが自分の肩にかかっていた外套をそっと落とす。
 彼女はちょっと驚いたような顔をしてユウを見上げたが、すぐにありがとうとにっこり笑って外套を掻き合わせた。自分より大きな外套にくるまって縮こまった彼女は、普段よりもっと小さく見えてなんだか可愛らしい。ユウは思わず頬を緩めて、どういたしましてと肩をすくめた。


「オルテガさまは世界の希望だった。今はそれがない。希望さえ、小さくても光になるものがあれば……もっと世界はまとまるかもしれない」


 掻き合わせた外套を強く握って、ティアラは遠くを見る様に目を細めながら、まるで独り言のように小さく呟き、暫く何か考え込む様にじっと一点を見つめ、いきなりぱっとユウに顔を向けた。
 いちいち唐突な彼女の行動に驚きながら、ユウがどうかしたかと首をかしげる。


「……ユウは、オルテガさまが嫌いなの?」


 行動と同じくして言動まで唐突な彼女に、ユウは一瞬あっけに取られ、でもすぐにどうだろう? と困ったように笑った。


「父さんは確かに凄い人間だったと思うよ。戦士としては、尊敬してる。でも父親としてって話なら……嫌いっていうのかもしれない」


 勝手な人だとまでは言わない。でも家族を顧みないという点では、やっぱりどうしても許せない。そういう事も、ユウが父のようにと望まれることへ抵抗を感じる要因の一つなのかもしれない。父の様な戦士になりたいとは思う。でも父にはなりたくないとも思う。


「でもユウ。あなたは確かにオルテガさまの息子で、私はネクロゴンドの王女よね。どんなに嫌いでも抗っても、それは曲げることのできない事実」

「そりゃあ……」


 当たり前じゃないか。言いかけて、ユウはハッとした。思わず顔をこわばらせ、そして自分をまっすぐ見上げるティアラを見つめ返す。


「ユウは嫌かもしれない。そうやって祭り上げられるのは。でもオルテガさまは世界の希望で、あなたはその希望の息子。あなたがどんなに嫌でも抗っても、これから先ずっとあなたは期待され続けて行くわ」


 そして私も。呟くようにこぼした彼女は、苦しそうに眉間に皺を寄せた。
 英雄の息子。亡国の王女。その二人が親の、国の敵を打つために、そして世界を救おうと立ち上がった。これを世間が美談と取らずして何と取ろうか。そしてそれはきっと、希望になる。人々が再び立ち上がるきっかけになる。彼女の言わんとせんところは、恐らくそこだろう。
 その立場を受け入れ、世間の評価を享受してユウは旅をしなければならない。否が応でもこの先そうなっていくのであれば、今この場でその決意を固めろと。そういうことなのだろう。
 でもそれは。酷く苦いものを噛んだような表情になったユウに、ティアラは真正面から向き合ってユウの両手を取った。その手を握りしめて、彼女が左右に首を振る。


「でもそれは世間の評価。何も知らない他人が、好き勝手言ってるだけ。いいの、そんなのは好きに言わせておけば。大事なのはそれに流されて、自分を見失わないこと。自分の成し遂げたいことを、自分なりに成し遂げて。その為に、あなたのことを一番分かってくれてる人たちと旅に出たんでしょう?」


 それにね、と彼女はユウの手をぎゅっと握ったまま小さくはにかんだ。


「ユウはオルテガさまとは違う。オルテガさまは一人だったけど、ユウはユウを理解してくれる仲間がいる。だからもっと仲間を頼って。一人で抱え込まないで。みんなで分け合って行こう。言ったでしょ? 私も手伝うって。ちょっとしょっぱなから躓いてカッコ悪かったけど、これからまた頑張るから」


 仲間って、そういうものじゃないの? 柔らかく微笑んで首を傾げたティアラの言葉に、ユウの中で何かが音を立てて嵌まった気がした。一人じゃない。そう、一人じゃないんだ。ずっと今まで、ユウにかけられてきた期待や希望。苦しくてしんどい時もあったけれど、それを傍でずっと見守ってくれてくれていた人たちがいた。今も、ユウの葛藤を責めることもなく、ただそれを受け入れられる日を待ってくれている。いつか、自分から話してくれると信じて。


「甘ったれんなって、レンに怒られないかな?」

「むしろユウはもっと甘えていいと思うよ。ユウの英雄の息子っていう立場が、きっと甘えなんて許されないって縛ってるんだと思うけど、十六歳なんて法律上成人なだけで中身は備わってないんだから、もっとじゃんじゃん甘えていいのよ。大事なのは甘えた部分をちゃんと伸ばして、いつまでも甘えるだけにしないようにすること」


 困ったように首を傾げたユウに、ティアラは若干呆れた様な顔をして肩をすくめた。
 彼女の言う通り、甘えるなんて許されないと思っていたところもある。あれだけの人間の息子なんだから、できて当然みたいな空気に甘えは許されなかった。それは決してユウが悪いわけではなく、そうさせた周りが悪いともいえる。
 ユウはそっか、とぽつりと小さく呟くと、自分の手を握りしめていたティアラの手を引っ張った。そのまま小さく悲鳴を上げた彼女の身体を両腕で抱き留めて、その肩口に顔をうずめる。
 一瞬彼女の戸惑いが伝わっては来たが、彼女はすぐにそっと伺うように両腕をユウの背中に回して、なだめる様に小さく叩いてきた。


「だから、一緒にがんばろうね」

「……うん、ありがとうティアラ」


 少女の優しいぬくもりを抱きしめながら、ユウは喉の奥からこみあげてくる熱いものを必死に飲み込みながら、絞り出すように囁いた。


20160822 初稿


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