天 球 儀

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蒼天の系譜




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    本当に望むことは。

勇者と謳われた男は、世界を恐怖に陥れる魔王バラモス打倒を誓い旅に出た。しかし道半ばで彼は命を落とし、男の息子がその後継として再び魔王討伐の旅に出ることとなる。

しかし息子は、父の偉大さの陰で様々な葛藤を抱えていた。本当に自分は世界のためを思っているのか。自分に世界を救うなんてことができるのか。

子どもではないが、まだ大人でもない少年が仲間と共に旅をし、のちに伝説と謳われる勇者へと成長していく物語。


スクエニのRPGドラゴンクエスト3の二次創作。

オリジナルおよび恋愛要素の強い内容となっておりますので、ドラクエファンの方は特にご注意ください。傾向としては、♂勇者x♀賢者らしきものです。


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ユウ …おとこ/16さい/ゆうしゃ/やさしいひと

ティアラ …おんな/16さい/けんじゃ/さびしがりや

セリア …おんな/23さい/せんし/ねっけつかん

レン …おとこ/24さい/ぶとうか/きれもの


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序 幕 そして始まる物語

第一幕 遥かなる旅路へ 01 02 03 04 05 06 07 08

第二幕 エルフと盗賊 01 02 03 04 05 06 07 08 09 10 11

第三幕 砂塵に舞うは 01 02 03



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ユウ ティアラ ティアラ


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蒼天の系譜 【第三幕】 ...03

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【第三幕】 砂塵に舞うは


03







「私、セリアとレンて恋人同士なのかと思ってたんだけど」


 露店を覗いていたティアラが唐突にぽつりと呟いたので、一瞬何の話か理解できなかったセリアが僅かに眉間に皺をよせ、でもすぐ自分の話だと理解してますます表情を険しくした。
 明らかに不機嫌になったセリアを見てティアラは可笑しそう笑ったが、何も可笑しいことはないとでもいうようにセリアは不快感をあらわにしている。


「違うんだね」

「どうしてそう思うの?」


 全く自分の感情を取り繕おうとしないセリアをものともせず、ティアラは笑ったまま小さく首をひねった。


「んー、なんだろう。仲はいいけど、お互い干渉しないっていうか……仕事とプライベートを分てるって言っても、そういうのとはちょっと違うっていうか?」


 上手く説明できないなぁ、とティアラは唇を尖らせて腕組みをし、自問自答するかのように小さく呻った。普段は大人びた表情ばかり見せているこの少女も、こうして可愛らしい仕草を見せている時はやはり年相応に見えると思いはしたが、彼女の見解は全てが外れているとも言い難く、こんなやっとこ成人した程度の、まだまだあどけない表情を見せている小娘だとしても女の勘というものは侮れない。
 そこを考えるとセリアを威嚇、もといけん制してくるサリも侮れないと言えば侮れないだろう。見た目や仕草は子供っぽいようで、女はいくつだろうと女なのだと実感する。


「ま、ね。当たってはいるけど」

「え、なに、お前らラブラブって関係じゃないんだ?」


 どちらにしても別に隠すような事でもないので、セリアはあきらめた様に嘆息して苦笑した。
 それをすかさず横からカンダタが突っ込んできたので、それはさすがにウザく感じて片眉を吊り上げて横目で睨みつけてやった。


「なに、文句ある?」

「いや? 男女の関係なんてそんなもんだろ。まぁでも……」


 睨まれたことを気にするでもなく、カンダタは飄々とした表情のまま首を振ったが、その後すぐになぜか面白がるように唇で弧を描き、目を細めてセリアを眺めて来た。どことなく気味の悪いその表情に、さすがにセリアも引き気味になって、なによと呻く。


「恋人同士ってわけじゃないなら、傷のなめ合いかな」

「男女の関係なんて、そんなもんなんでしょ?」

「そういう切り返しは、ずっるいなぁ」


 にんまりと笑うカンダタから視線をそらしながら、セリアが突き放すように切り返す。自分で言ったはずのセリフをそのまま返されたカンダタは、肩をすくめながら苦笑した。
 そんな二人を眺めていたティアラがきょとんとして首を傾げる。いくら大人びていようと聡明であろうと、そして年齢にそぐわない人生を送っていようと、理解できないものはあるだろう。
 特にこういう色恋沙汰なんて年代によって事情も様々だろうし、ましてやこの少女が同年代の友人とそういう話で盛り上がるなんてこともなかったはずなので、よけいに。実際、理解に苦しむと言うよりは本当に理解できていない様子がうかがえる。
 セリアはカンダタと顔を見合わせ困ったように笑いながら、なんでもないわ、と小さく首を振った。


「恋だの愛だのっていうのは、人によって色々あるって話」

「それくらいは私だって分かるよ。そうじゃなくて、もっと自分の感情に素直でもいいんじゃないかなって思うだけ」


 幼い子供をたしなめるような言い方が気に入らなかったのか、ティアラはハスを尖らせながらぷいと顔を反らせて拗ねた様な仕草を見せた。
 少女の言い様にセリアは絶句し、カンダタは違いないと失笑した。笑い出したカンダタを鋭く睨めば、彼はさっと顔を反らして笑うのだけはやめたが、時々肩を震わせて笑いをこらえているのはありありと見て取れた。
 睨んで黙らせたカンダタから視線を外しながらセリアは小さく嘆息して肩を落とし、どうしたものかと思案する。


「ティアラは自分の感情に素直かしら?」

「私は……それこそ、事情があるもの」

「王族っていう問題?」


 むくれて視線をそらせていたティアラの顔を覗き込む様に話しかけてきたセリアを、少女は一瞬あっけに取られたように見つめ、すぐに表情を曇らせてセリアの視線から逃れる様に、今度は身体ごと顔を反らせる。
 それがまさに、色々だろう。ティアラにはティアラなりの事情があるように、セリアやレンにだって事情がある。確かにセリアが抱える問題はティアラが抱える問題よりは小さいかもしれない。しかし当人たちにとっては大きさの問題ではないのだ。
 少女の問題は自分の出自であるだろうことは容易に想像がつく。国を追われたとしても彼女は正当な王位継承者だ。国を取り戻せたのなら、必然的に王位に就くであろうことは想像に難くない。
 そして彼女がユウに好意を寄せていることは明らかで、口にはしなくてもお互いにまんざらではないことは、誰も何も言いはしなが分かり切ったことだ。
 ただでも、それが問題だと言えるだろう。祖父の代で騎士団長を務めていたとはいえ、すでに除隊して爵位も返上している。ユウはたとえ英雄の息子だとしても平民だ。これでユウ自身がバラモスの討伐に成功したとして、それで彼をティアラのパートナーとして受け入れられるかと言えば、そういう簡単な話でもない。


「英雄は為政者にはなれない」


 呟くように漏らされたカンダタの言葉に、ティアラがはっとしたように彼を見た。少女の表情にカンダタがにやりと笑う。


「オルテガは確かに英雄だ。戦士として、傭兵として偉大な功績を残してきた。それだけに、国内だけでなく他国からの権力者から引く手あまただった。娘の婿にと。前ロマリア国王も熱望した位にな」

「でも平民でしょう?」

「二十年近く前の話だ。ユウの祖父はまだ現役で、騎士としての爵位を返上していなかったからな。一応爵位のある家柄って名目があった。でもオルテガは一切、その話に乗らなかった」


 なぜかわかるか? と口にはしなかったが、そう問うようにその視線でティアラをとらえる。少女は少し考えて小さく首をひねった。


「おばさまがいたから?」

「それもある。でもそれだけじゃない、てことは分かってて聞いてるな?」


 意地の悪い笑みを浮かべるカンダタを、ティアラは若干非難するように睨みはしたが、でも何も言わなかった。ただその沈黙が肯定であることはセリアにも分かった。でも何を少女が分かっているのかが、セリアには分からない。


「どういうこと? 一応、家柄はあるし、年齢にそぐわない功績を残してる。ユウの母親を想っていることは分かるとして、でもそれだけで断る理由になる? しかも相手は権力者でしょう」


 セリアはオルテガがどんな人物だったのか、よくは知らない。セリアがアリアハンに来たとき、オルテガは既に帰らぬ人という扱いだったので面識がない。歴史に残るような戦士だったという話を、人づてに聞く程度だ。ユウが性格も見た目も父親そっくりだと周りが言うのをよく聞くのでそれから想像するしかないが、それでも心に決めた人がいるなんて理由が、上からの圧力を突っぱねるだけの効力になるだろうか。
 納得いかないと言うように顔をしかめるセリアに、カンダタは笑うのを止めてティアラを一瞥してからセリアに視線を滑らせた。


「だから、オルテガの言葉だよ。さっきのは。英雄は為政者にはなれない。戦はできても政治はできないってことだ。オルテガは自分のことをよく分かってた。自分の役割を、存在意義を。そんでもってそういうこと考えるのはユウも、多分同じだよ」


 そっくりだからな、あの親子は。カンダタはそうしめて寂しそうに笑った。


「今はあんまり分かってないかもしれないけどな」

「でもそれは、素直になれない理由にはならないわ」


 カンダタの言葉の語尾にかかる様にセリアは口を開いた。思ったより剣の含んだ口調になってしまったのは、苛立っていた所為だろう。びっくりしたように大きな瞳をこぼれんばかりに見開いているティアラに、セリアは呆れた様に嘆息した。


「別れが決まっているのなら、今ちゃんと素直になっておきなさい。うじうじして悔いが残るくらいなら、いっそスパッと割り切って、今は好きにすればいいの! その方が後腐れがなくてよっぽどいいわ! そうやってうじうじしてるのは、見ててほんっとイライラする! せっかく傍にいるのよ!? 限られてる時間なら、余計もっと大事にしなさい!!」


 言いながら人差し指をティアラの鼻先につきつける。あっけに取られている少女を尻目に、隣でカンダタが盛大に噴き出した。


「もっと優しく諭すのかと思ったら、それかよ! いや、説得力あるわその豪快さ」

「褒めてんの貶してんの!?」

「褒めてる褒めてる。ユウがあんたとかレンを信頼してる理由、分かる気がするわ」


 けらけらと腹を抱えて笑うカンダタに拳を振り上げるセリアを、両手でなだめるようなジェスチャーを見せたカンダタが一呼吸置いて笑いながら肩をすくめた。
 それを見ていたティアラも口元に手を当てて小さく笑いだしたので、セリアがじろりと睨む。セリアの鋭い視線を受けた少女は、ごめん、と申し訳なさそうに肩をすくめ、すぐにありがとうと小さく笑って小首を傾げた。


「なんか色々考えちゃってたけど、そうだね。つまんない後悔はしないようにする」

「そうしておきなさい」


 私みたいにね。と口にはしなかったが、心中で独り言ちた。結局、素直になるタイミングを掴めず、いつまでもズルズルとつまらない関係を続けてきてしまった自分に、少女を諭すような資格はないかもしれない。でも素直になれなかったせいでそうなってしまったというのもまた事実だ。まだ少年少女という枠から出きっていない彼女たちに、同じような思いをしてほしくないとも思う。
 傷のなめ合いと言われてしまうと、そうなのかもしれない。お互い故郷を捨てた様に出て来た身だったので、なんとなく親近感が湧いた。
 お互い詳しい事情を話し合ったことはない。話し合ったことはないが、レンは知っていたかもしれない。彼が国王直属の間諜だったことは、セリアも最近まで知らなかった。でもそれは別にどうでもよかった。身内だろうと、言えるはずのないことだ。
 怖かったのは、セリアの素性を知られているから曖昧なままなのではないかと思わされたことだ。いつから知っていたのか、それとも初めから知っていてセリアと関係を持ったのか。自分もやっぱり、仕事柄関係を持たざるを得なかった人間の一人だったのか。
 考えて、セリアはそれを振り払うように頭を振った。それでも信頼していることに違いはないし、何にしても自分の事をよくわかってくれている人間の一人であることに変わりはない。少なくとも、この旅の間はこのままでいいと思う。どこかでけじめをつけなければいけないのであれば、旅の後だろう。きっとそれぞれが、それぞれの道を選ばなければいけない時が来る。その時決めればいいことだ。


「なぁ」

「は?」


 自分の考えに没頭していたセリアの肩を、カンダタが若干強めにつついてきた。肩当のない部分をつつかれたので思わず口調ごと苛立ちをぶつけたが、カンダタは気にすることもなくセリアをつついた指をそのまま明後日の方向に滑らせ。


「あれ、いいのか? ほっといて」


 どこか面白がるような笑みを浮かべて、指さした方向を顎でしゃくって見せた。
 何の話だと言うより早くセリアはその指先に視線を送り、思わずぎょっと目を見張る。そこには数人の男に囲まれたティアラが、彼女同年代くらいの少女をかばう様にして立ちはだかっているではないか。何事だと問いたくはあったが、それよりも。


「ほっといていいわけないでしょ!? つーかあんた、分かっててほっておくの止めてくれない!?」

「いやだって、止める前に走り出しちゃったんだよ。セリアが止めてくれるのかと思ったら、おまえなんか考え事しちゃってるし」

「人の所為にしないで!!」


 言い訳はしているが、カンダタの顔は完全に面白がっているようにしか見えない。町娘ならいざしらず、あの少女なら放っておいてもチンピラ程度は軽くあしらえるだろうが、だからって放っておいてもいい理由にはならない。もし万が一、何か間違いでもあったら責任もって預かると言ってきたアリアハン王に面目が立たない。
 分かってて放置するカンダタを鋭く睨み、肩をすくめてこわっ、とおどける彼をスルーし、少女たちの方へと駆け出したころには、あたりの通行人が足を止めて遠巻きに眺め出していたので、すでにちょっとした騒ぎに発展していた。しかし誰も彼女たちを助けようとはしない。当然と言えば当然か。囲まれているのは華奢な少女二人で、囲んでいるのは複数のしかも男だ。思うほど厳つくはないが、一般人が相手をして簡単に勝てるとも思えない。
 人だかりになってしまっているせいで思う様に少女たちに近づけないが、どうも言い争いを聞きかじった感じでは、男たちが無理やり少女を連れて行こうとしていたところを、ティアラが助けたと言ったところの様だ。それはあんたの役目じゃないでしょうがと思いはしたが、困っている人を助けたいと思う気持ちは彼女らしい。
 思わず笑いそうになって、笑っている場合ではないと慌ててそれを振り払い、どうにか人ごみを割って進んでようやく輪の中心部へ出た時にはすでに、おそらくティアラを殴ろうとしたか捕まえようとしたかしたのであろう男が一人、彼女に足を引っかけられて転ばされているところだった。その瞬間、人だかりから一斉に笑い声が上がる。
 年端もいかない少女にコケにされ、挙句ギャラリーから笑いものにされた連中がこのまま引き下がるはずもなく、ますますいきり立つ男たちに向かって、ティアラはすでに半身を引いて構える姿勢を取っている。まぁここで年端もいかない少女にコテンパンやられれば、暫くはこの連中も大人しくなるのだろうが。


「私の妹に何か用?」


 今にも始まりそうな取っ組み合いに割って入る様に、セリアが声を上げる。騒ぎの当事者だけでなく、ギャラリーの意識さえも一斉に向いてくるのは、さすがにあまりいい気分ではない。それも相まって声には一層、ドスが利いていた。
 高身長な上に鎧をまとい筋肉質、腰には剣をぶら下げているとなれば、例えセリアが女であろうと戦士だということは一目でわかる。ひょろひょろと背ばかり高いだけの街のチンピラ風情が、何人か集まったところで勝てるはずもない。よしんば勝負を挑んだところで、自分たちが痛い目を見るのは目に見えたのだろう。男たちはティアラたちに取っていた横柄な態度とは打って変わって、三文芝居の様な捨て台詞を吐きつつも、互いに足をもつれさせながら転がる様に輪の中から逃げ出していった。
 少女とチンピラのケンカが見られると好奇の目を向けていたギャラリーも、チンピラたちが逃げ出していくのと同時に引いていく。中にはよくやったなどと声をかけて行く酔っ払いなどもいたが、それを適当にあしらい、ようやく完全に人が掃けたところでセリアは安堵した様に息をついて肩を落とした。


「もう……無茶しないで。何かあったらユウになんて言えばいいの」

「ごめん、セリア。でもこの子が無理やり引っ張られていくのに、誰も助けないからなんか腹が立って、つい」

「ついって……」

「止めて! 彼女を責めないで!!」


 呆れた様に嘆息するセリアに、ティアラが申し訳なさそうに肩をすくめる。それをさらに諫めようとしたところで、ティアラの後ろに隠れる様にして縮こまっていた少女が今度はティアラをかばう様に前に躍り出て来た。その動きに驚きつつ、言い回しと動きが芝居がかっていてなんとなく微妙な気分にさせられた。
 よくよく見れば、少女は思ったほど幼くないようだ。身体つきがティアラに似ていたので同年代位かと思いはしたが、顔の造りが彼女やユウよりも大人びている。化粧や衣装の所為もあるのかもしれない。少女と呼ぶには少し濃い目の化粧を施し、身に着けているものは娼婦ほどではないがそれなりに露出が高い。華奢な割にはほどよく引き締まった、メリハリのある身体つき。そして妙な言い回しと独特な、芝居がかった動き。おそらく劇場か何かの役者か、あるいは踊り子なのだろう。


「分かったわ。とにかく二人とも無事で何より」

「で、きみは誰かな」


 こぼれんばかりの大きな瞳をキラキラと湿らせて見上げられ、セリアはうんざりしたようにもう一人の少女から視線を外して、やや投げやりに手を振った。
 その後ろから今さらカンダタが顔を出してきたので、なんだかムカついて軽く脇腹を小突いてやった。しかしセリアの小突くは一般の小突くよりも強かったようで、思ったよりカンダタが痛そうに顔を歪めたのを見て軽く留飲を下げ、きょとんとしたような表情になった踊り子だか役者だかの少女を見る。
 少女は私? とやっぱり大げさな動作で自分を指さし、すぐににっこり笑って薄手のパンツの裾を軽くつまみ、恭しく頭を下げて挨拶をした。


「私は、リベルティーナ。旅の一座、ヴァナディスの踊り子よ。よろしくねっ」


 言いながら頭を上げ、わざとらしく片目を瞑ってまるでハートマークを飛ばすかのような挨拶に、セリアはなぜか無性に苛立ちを覚えて、隣でニヤニヤと意味深な笑みを浮かべているカンダタのつま先を、八つ当たりに力いっぱい踏みつけてやった。



20170311 初稿

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蒼天の系譜 【第三幕】 ...02

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【第三幕】 砂塵に舞うは


02






 商業都市アッサラームは中央大陸と、ネクロゴンドおよびイシスの二国が統治する北大陸、そして東のバハラタ地方を結ぶ中継ポイントに位置していた。多方面から人や物が集まるせいで多種多様な文化が入り混じり、そうしたものを求めて集まって来た行商人たちの手によって大きく発展した、商業に特化した都市だ。
 そして街の多くの商店は、多様な文化ゆえか様々な商業形態が見られる。昼間に開いている店舗もあれば、夜しか営業しないような店舗もあり、商業都市アッサラームは眠らない街としても有名だった。


「でもどっちかっていうと、夜のが賑わってるなぁ」

「それがこの街の特徴って奴だな。他の都市じゃちょっと許されないような風俗店とかも、この街じゃ当たり前だし」

「……あぁ、だから……」


 レンに連れられて街を見回しながら歩いていたユウが、苦笑を浮かべて納得した様に頷いた。
 今歩いている繁華街は市場などの日用品や雑貨などの生活用品を扱うような市場とは違い、店舗の前ではやたらと露出の高い女性や、ちょっと怪しげな雰囲気を醸し出す風体の男性などが、行き交う人々にとっかえひっかえ声をかけては店へと連れ込んでいく様子が見られている、いわゆる風俗街のようだった。出ている看板を見れば大概が酒場であろうことは理解できたが、看板のないような店もちらほらと見受けられる。そういう店へ入っていくのは、ほぼ半裸と言っても過言ではないような女性を伴った男性ばかりだ。これがようは”他の都市では許されない”という風俗店なのだろう。


「い……いかがわしいでス! レン様!! こんなところ、さっさと出まショウっ!」

「勝手についてきといて何言ってんだ。だからティアラたちと行けつったろ」

「む~……ティアラは好きデス。後の二人は苦手デス」


 レンにしがみ付いてなるべく周りを見ないように顔をレンの背中にくっつけて歩いていたサリが、横目で半裸の女性をのぞき見しながら喚いた。そんな彼女の頭を軽く叩きながらレンが呆れた表情を浮かべる。その様子を見ながらユウが困ったように笑って肩をすくめた。
 街に到着したのは丁度昼頃で、とりあえず宿に入って街を見て回る算段をつけようと思っていたユウに、レンやカンダタから夜を待った方がいいと提案された。この街の性質上、買い物は夜の方が向いているのだと言うことらしいが、街を歩いてなるほど確かにと納得できた。
 やがて日が暮れ始めると昼間の閑散とした街並みは一変し、まるで町中の人間が一斉に出て来たかのような賑わいを見せている。文化の様式に統一感こそないものの、賑わいとしては王都ロマリアに引けは取らないだろう。
 そんな賑わいを見せる街で、一行は二手に分かれて行動することになった。片方はポルトガ王へ献上するための黒コショウを探すためで、もう一方はこれからイシスへ向かうための砂漠越えの準備をするためだったのだが、この別行動にまた問題が生じた。
 言わずもがな問題を起こしたのはサリで、レンにくっついて行くと言って聞かなかったのだ。レンはあまりサリを連れて行きたくなかったらしく…その理由はここに来てやっとユウにもわかったのだが…ティアラにも宥めてもらいながら説得を試みたものの頑として聞く様子を見せなかったので、仕方なくこうして連れて来たのだ。
 もっと言えば、セリアやカンダタと行動すること自体が嫌だったという理由もおそらくある。アッサラームへの道々で、薄々セリアを敵視している気はしていたが、それはやはり気のせいではなかったようだ。レンに激しく一方的に想いを寄せるサリが、常にと言っていいほどレンの傍にいるセリアを気に入らないのは分からなくもない。カンダタが気に入らないのはまぁ、自己紹介の時に彼は失礼なことをやらかしているのだから、それはカンダタの自業自得なのでどうでもよかった。ただセリアを敵視するのはさすがにどうかとは思う。


「カンダタはともかくセリアを苦手ってのは、一方的だろ」

「だってなんでレン様といっつも一緒なんですか!?」

「いやまぁ、仲間だし。あと、そういう仲だし?」


 相変わらずレンにしがみ付いてあたりを見ないようにしつつ、それでも不貞腐れた様に頬を膨らませるサリに、ユウがなだめる様に声をかける。サリは横目でにらむ様にユウを見上げ食ってかかって来た。
 何でと言われても一緒に旅をしているのだから常に一緒にいるのは当たり前で、それ以外の理由なんてわかり切っていることだとは思うが一応説明てみたユウに、レンが眉間に皺を寄せてどことなく渋い表情を浮かべた。


「そういう仲ってどういう仲か知らんが、恋人同士って意味なら、俺とセリアはそういうんじゃないからな?」

「……は」


 世間話の一環のような口調でレンは言ったが、ユウからしてみればまるっきり青天の霹靂のような話で思わず言葉を失ってしまった。
 ぽかんと半口を開けたまま言葉を失っているユウに、レンが知らなかったのかと苦く笑ったが、知らなかったとかいう問題ではない。そもそもだって。口走りそうになった言葉に、サリがそこにいることを思い出して慌ててそれを飲み込みはしたが、到底納得できそうな話ではなかった。
 不満げな表情を浮かべたユウが何を言おうとしたのか察したレンは困ったような、でもどことなく寂しそうにも見える笑みを浮かべて小さく首を傾げた。


「なんだろうな。気が付いたらそういう機会を逸してたっていうか、そのままなんとなく曖昧になっちゃったっていうか。……そういう関係を、分かってくれとは言わないよ」

「いや、あの……ごめん」

「謝られるとよけい惨めになるから、気にするな。まぁなんだ、反面教師にでもしてくれ」

「何の話デスかーっ!?」


 ユウの表情を見ながらレンが申し訳なさそうに肩を落とした。自分がどんな表情をしていたかは確認のしようはなかったが、レンを傷つけたことだけは分かったので、思わず口元を抑えてユウは顔を反らして小さく呟くように謝った。
 けれどレンは微妙に情けない顔をしてこの話はおしまいだとでもいうように片手を振り、情けない表情を誤魔化すようにその手で小さく自分の頬を掻いた。そんな二人のやり取りの内容がサッパリわかってないサリが、間に割って入る様に声を上げたので、レンはなんでもないよとそこで本当に話を打ち切ってしまった。
 それでもサリはしつこく食い下がってはいたが、レンはそれをなんでもないように受け流しつつ、話の方向をうまい具合に逸らしていっているのが分かった。しかもサリはそれに上手に乗せられているので、もうセリアの話題はまるでなかったことのように遠くへ置き去りにされてしまっている。
 すでにさっきまでとは全く違う話をする二人を見ながら、そんな風に誤魔化して話の流れを変えてしまう程度には、レンにもきっと触れてほしくない話なのだろうことはユウにも分かった。
 この二人がそれなりに深い関係なことは知っていたし、そういった行為に及ぶ関係はイコールで恋人とかそういった関係だからだと思っていた。でも実際、二人が付き合っているかどうかなんて確かめたことはなかった。そもそも確かめる必要を感じなかったのは、二人は付き合っていると思っていて、それに特に疑問を感じるようなことがなかったからだ。
 いや、まったくなかったかと言われるとそうでもないかもしれない。レンの交友関係を考えると、よくセリアは何も言わないなと思っていたことも事実ではあるが、レンはこと仕事のことになればかなりストイックな性格なので、あくまでもそういう交友関係も仕事の一環なのかと思っていた。感情にストレートなセリアが何も言わない分、余計に。
 言いたくても言えなかったのか。証明された関係ではなく、曖昧で不確定な関係の自分たちが、相手のすることにいちいち口を挟む立場ではないから。それとも本当に思慕の類はなく、ただそういう関係でいいと割り切っていたのか。
 でも。レンは機会を逸してしまったと言っていた。反面教師にしろとも。それは少なくとも、レンからセリアに対する感情は好ましいものだということなのではないだろうか。
 分かるのは、二人ともお互いにお互いへの想いを口に出したことがないと言うことだ。伝え合ったうえで、それでもそういう関係でいいという結論に至ったのなら、曖昧になってしまったなんて表現にはならないはずだ。ということは、想いになんのけじめもつけていないからこその曖昧なのだ。
 二人の間にどういう感情が働いて、それでも曖昧な関係を続けているのかユウにはわからないが、自分の型に当てはめた関係ではない愛情表現も存在するのだということは、なんとなくわかった気がした。それがユウの納得できるような関係では、ないのだとしても。


「ところでレン様。これからどちらへ行かれるんデスか?」


 ユウはサリの今更な発言でようやく我に返り、行先も告げないまま風俗街を歩き続けるレンを見た。ここへ来たのはもちろん、バハラタの名産品でもある黒コショウを探すためにやってきたはずなのだが、何故か連れてこられたのは黒コショウとは何の関係もなさそうな、うっかりすると目的を見失いそうになる店舗ばかりが並んでいる場所だ。
 きょとんとしているサリと困惑気味のユウをレンは交互に見比べると、彼はにやっと笑ってあそこだよ、と通りの奥を指さした。その指先を辿って行った細い路地の先にあったのは、やっているのかやっていないのか判断のつかない小さな店舗だった。
 人一人がやっと通れる程度の路地を縦に並んでようやく通り抜け、看板すらぶら下がっていないみすぼらしい店舗を見上げ、ユウとサリがぽかんとする。


「やってんの、ここ。ていうかそもそも店?」

「れっきとした店だよ。信用できるかの保証は、ないけどな」

「え、それハ……」


 肩をすくめたレンにサリが眉間に皺を寄せた。何か言いたげな彼女に、レンは唇をゆがめてその唇に人差し指を当て、静かにするようにというようなジェスチャーをして見せる。要するに大っぴらにはできない商売をしているということなのだろう。そしておそらくこの街には、そんな合法とは言えないような店などごまんとあるのだ。まだまだ駆け出し商人のサリには、あまり納得できるような話ではないようだったが。
 若干ぶすくれているサリの頭をレンは軽く叩き、今にも外れてしまいそうなほど立て付けの悪い扉を押し開ける。油もさされていないような扉を甲高い音を立てて開いた先にある店内はほの暗く、香でも焚かれているのか不思議な匂いが立ち込めていた。無造作に置かれた棚やテーブルには、商品なのかそうでないのかよくわからない雑貨類が雑然と並べられており、とても商売をしようとする気があるとは思えない状態だ。
 その店の一番奥、カウンター上に一つだけひっそりと灯るランプに、ゆらりと踊る影が浮かんだ。その陰の大きさにサリがひぃ! と小さく悲鳴を上げ、レンの腰のあたりにしがみ付いた。


「なんだい、人をバケモノみたいに」


 やがて影は徐々に小さくなり、物陰から小柄な女性が姿を現した。店のみすぼらしさからは考えられない、それなりに身綺麗な女性だ。指輪のちりばめられた手で、値の張りそうな長い煙管が煙をくゆらせている。店内に立ち込めている匂いは、この煙管だったらしい。若くはないがそれほど歳が行ってるようにも見えない。年齢不詳と言ったところだろうか。


「バケモノっていうか、魔女っぽいっていうか」

「何年振りかに来て人を魔女扱いとはいい度胸だ。この店でアタシに楯突くとロクなことにならないよ」

「いい意味で言ってんだろ。年取らないって事」


 しがみ付くサリを引っぺがしながらレンが肩をすくめる。最初は険しく眉間に皺を寄せていた女性は、苦笑したレンをひと睨みした後、おべっか言ってんじゃないよと不機嫌そうな口調で吐き捨てはしたが、口元は笑っていたのでそこまで機嫌を損ねたわけではなかったようだ。


「それよりなんだい。ここはガキが来るとこじゃないよ」

「ガキじゃないでス! 十六歳は立派な成人デスよ!!」


 唇をやや可笑しそうに歪めていた女性は、レンの傍にいるユウとサリに視線を向け、再び不機嫌そうに顔を歪めた。
 面喰って言葉を失くしているユウとは反対に、ガキという言葉に反応したサリが引け腰になりつつも反論したが、微妙に声が震えて裏返っていたので、しっかりその態度が虚勢であると言うことが見て取れていた。
 そんなサリを女性はへぇ、とにんまりと唇をゆがめて笑いながらしげしげと眺め、手にしていた煙管をサリに向かって突き出した。


「とてもそうは見えないけどねぇ……でもそういう趣味の客も多少いるし、見た目と年齢にギャップがあるから高く売れるよ」

「う……売る……?」

「ここがどういう場所に建ってるか、見て来ただろう?」


 おびえる様に縮こまって再びレンにしがみ付きながら、サリが低く呻る様に聞き返すと、女性はますます意地の悪い笑みを浮かべ、芝居がかった手振りで煙管をゆっくりあたりを指し示すように振り、歪めた唇まで戻して首をかしげて見せた。その怪しさを極めた動きは本当に魔女の様だ。
 そしてどうやら彼女の話は、サリを娼婦館へ売り飛ばす算段の話らしい。サリは大きく身震いしてますます強くレンにしがみ付いた。しがみ付くサリの頭をなだめる様に叩きながら、レンが呆れた顔で手を振った。


「子供を売りに来たわけじゃないって。ちょっと事情があってな。黒コショウを探してるんだ」

「この店に来るのはみぃんな、事情のある連中さ。日用雑貨に風邪薬から傷薬、よく眠れる薬に媚薬もある。堕胎剤だって需要が高い」

「だっ……堕胎剤!? そんなものなんで! だって、せっかく芽生えた命なのに、誰がそんナ……!」


 女性は長い指を折り曲げながら店で扱っている商品の一例をあげて聞かせたが、最後の言葉にサリがぎょっとしたように目を見張り、表情を険しくて声を荒げた。
 しかしサリの言葉の最後を聞く前に甲高い音が店内に響き渡ったので、ユウとサリが思わず肩をすくめて強張った。見れば女性が手にしていた煙管をカウンターに叩きつけ、さっきまでの穏やかだった目つきは一変し、酷く冷たい鋭い目つきでサリを睨んでいる。その鬼気迫る雰囲気に、サリは泣きそうな表情を浮かべて身を縮こまらせた。


「言っただろう? この店がどういう場所に建ってるか見て来ただろうって。せっかく芽生えた命? そんなことはね、ぬくぬくと平和に何の不自由もなく生きて来た人間の言う台詞だよ」


 女性はカウンターに叩きつけた煙管を鋭くサリに向け、心底バカにするように笑っておめでたいガキだよと吐き捨てた。


「この街の女はね、口減らしに売られてきた子や攫われて売られた子もごまんといる。どこに? 決まってるだろう。到底合法とは言えないような娼婦館が主だ。そこで客を取らされ、ろくに避妊もさせてもらえないような子が辿る道なんて決まってんだろう」


 言わなくてもわかるだろうとでもいうように、女性はまくし立てていた言葉をいったん切った。
 サリは相変わらずおびえた表情のまま凍り付き、泣き出すのを堪える様に唇を噛んでいる。
 少女がしがみついているレンにユウはちらりと視線を送ったが、レンはただ僅かに眉間に皺を寄せているだけで、特に女性を制止するようなこともしようとはしていない。
 知る必要のないことだとすれば、きっと彼なら自分たちには関係ない話だと止めてくれるはずだ。それをしないということは、彼女の語る話は知る必要のある現実なのだ。自分たちの知らない、だから知る必要のある、この世界の現状の一つなのだと言うことなのだろう。
 ユウはぐっと唇を噛んで女性を見た。女性はユウの視線に気が付き、少し驚いたような顔をしたが、すぐに表情を険しくして短く嘆息した。


「内で扱う堕胎剤は、そういう子たちが使う薬だ。望まない行為の果ての望まない妊娠。それでもいつか自由になるために、家族を守るために、彼女たちは自分を切り売りする。……それでも昔はこんなじゃなかった。バラモスなんて馬鹿が現れる前は、もっとマシだったんだ。全部バラモスが悪いとは言わない。でもあんなのが出てきたせいで、そういう道を辿る子が増えたのも確かなんだよ。可哀想だの酷いだのなんて言葉はね、そうやってそれでも懸命に生きてる彼女たちを侮辱する言葉だ。覚えておきな」


 言いながら煙管を引っ込めた女性に、サリは涙目のまま何度も首を縦に振り、レンの腰のあたりに顔をうずめて小さく肩を震わせ始めた。
 おそらく泣き出してしまったのであろうサリを横目に、じっと話を聞いていたユウが、どこか疲れた様な顔をしてカウンターにもたれかかる女性に向かって一歩前へ踏み出す。それに気が付いた女性が、訝しそうに眉をひそめ、あんたは、と呟くように口を開いた。


「見たことある顔だ……昔……そう、オルテガだったか……館の子たちが騒いでたことがあった。客としては来なかったけど、見かけたとかって色めきだってたね」


 こんなとこでも有名人とは。思わずユウは苦笑してしまった。
 確かに写真などで見る父は凛々しい顔立ちをしていた。母に言わせれば、あれ以上の男は居ないということらしい。そりゃあ母は父にほれ込んでいたのだから、ひいき目に見ればそうだろうとは思っていたが、娼婦の間でも話題に上るとなれば、母の言うことはあながち間違いでもないのだろうかと考え、それではよく父に似ていると言われる自分を自画自賛するのと同じようなものだと思いいたって、慌ててその考えを振り払った。


「自分は息子です。父に代わり、バラモスの討伐を目指しています。その過程でどうしても、黒コショウが必要なんです。取り扱っているのなら、売ってはもらえませんか?」

「バラモスを?」


 お願いしますと頭を下げたユウを、女性は目を見開いて見つめ、そのままその視線を本当かというようにレンに向ける。笑って大きくうなずいたレンを女性はしばらく見つめ、再びユウに視線を戻した。
 どこか見定めるような鋭い目つきで自分を眺める女性を、ユウが物おじせずにじっと見つめ返していると、女性はやがてふっと表情を崩して肩を落とした。


「なるほど……昔オルテガもそうして旅をしていると聞いてね、バラモスが本当に倒されるかどうかみんなで賭けをしてたこともあった。アタシは無駄な賭けだと思ってその賭けは乗らなかったけど、いいさ。アンタには賭けてあげるよ」

「え?」

「持ってきな。本当なら数万は貰いたいところだけどね。お代はバラモス退治って事にしてあげるよ」


 無駄とはどういう意味か。オルテガでは力不足だと女性は思ったのか、それとも倒されると目に見えているからこそ賭けるなんて無駄だと感じたのか。そう聞く前に女性は小さな革袋をユウに向かって放り投げた。それを慌てて両手で受け取り、きょとんとしてレンを見上げる。レンはおかしそうに笑いながら、良かったな、とユウの頭をぐしゃぐしゃと撫でまわした。
 撫でまわされた頭を不本意そうに撫でつけながら、ユウは何が、とハスを尖らせて低く呻る。彼は決まってんだろ、と今度はそんなユウの背中を軽く叩いた。


「認められたって事だ」


 レンの言葉に暫くきょとんとして瞬きを繰り返し、もう一度女性を見ると、女性はどこか優しそうに笑って頷いて見せてくれた。
 なんとなくくすぐったいような気分になり、ユウははにかんだように笑いながら、女性に向かってありがとうございますと小さく頭を下げた。
 女性はゆっくり頷くと、レンのしがみ付いたまま顔を上げなくなったサリにアンタ、と声をかける。その声に少女は肩をビクリと震わせ、おそるおそる顔を上げて女性を伺うように見上げる。


「こんなご時世だ。耳をふさぎたくなるような話なんていくらでもある。それでもね、みんな懸命に生きてるんだよ。商人はね、そういう人たちの助けにならないといけない。どんな汚い商売でも、それを必要としてる人間がいる。全てじゃないが、それでも必要な悪ってのはどこかしらにあるもんだ。覚えておきな」


 女性は優し気に目元を細め、わかったかい? とサリに語り掛けた。少女は面喰ったような表情をしていたが、思うところがあったのかきゅっと表情を引き締めて、力強く頷いた。それを見た女性も満足そうに頷くと、後は店に来た時と同じような、どこか不機嫌でけだるそうな表情を浮かべて手にした煙管を口にくわえ、もう用はないとでもいうようにひらひらともう片方の手を三人に振って見せた。
 遊びに飽きた様に興味を失ったような女性にレンは苦笑しながら一礼し踵を返すと、サリも慌ててそれに倣って頭を下げて小走りでレンに追い付いて店の扉をくぐっていく。
 最後にユウも頭を下げて店を出ようとしたところで、女性がそれでも、と誰にでもなくぽつりとつぶやくのが聞こえたので思わず足を止めて女性を振り返る。


「望まなくてもね、芽生えた命に愛着は湧くんだよ。でも娼婦が生んだ子どもの辿る道なんて決まってる。女児なら特にね……昔ならそれでも里子にでも出せたが、こんなご時世だ。外に出したところで養ってくれるとこはない。みんながみんな、自分の生活で手いっぱいだからね。誰もが好きで堕胎するわけじゃないんだ。できるなら産んで育ててやりたい。幸せにしてやりたい。それができないから、そうするしかない……母親が安心して子供を育てられるようなご時世を、アタシは待ってるんだよ」


 振り返った女性はユウを見てはいなかったが、その横顔はどこか愁いを帯びた様な笑みを浮かべていた。彼女にも彼女なりの人生があったはずだ。それを経て来たからこそ彼女はこの店で、この街で働く女性たちの助けになるよう努めているのかもしれない。
 絶望の淵に立っている今の世界で、それでも少しでも誰かの助けになろうと働きかけている人たちが、こうして少なからずいる。そういう人たちの思い。そういう人たちに支えられて生きている人たちの願い。それを無駄にしたくはないと思う。いや、思えるようになってきた。
 少しづつ見えて来たこの世界に、ユウはなんとなく自分のしたかったことが分かってきたような気がして小さく笑うと、女性に向かって力強く頷き、店の扉をそっと閉めた。



20170115 初稿

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蒼天の系譜 【第三幕】 ...01

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【第三幕】 砂塵に舞うは


01






 ふと、青年は瞳を開いた。どうやらうたた寝をしていたらしいことに気が付き、思わず自嘲するように笑ってしまった。
 睡眠を必要としないこの身体。それでもつい瞳を閉じてしまうのは、人間だったころの癖というか本能みたいなものが残っているせいなのかもしれない。あるいは夢を見ていたいせいか。
 瞳を閉じて遠くに意識を飛ばせば、かつて青年が愛した彼女が、あのころと変わらない笑顔で出迎えてくれる。そんな彼女に会いたいがために、青年はただ瞳を閉じるのかもしれない。

    望んだものは一つだけだったはずなのに。

 決して多くを望んだわけではない。元々、青年は生まれた時から疎まれるような存在だった。普通ではないと言うだけで親からは捨てられ、周囲からは気味悪がられ、幸せとは程遠い人生を歩んでいた。
 だから、同じように家族や親族から疎まれてつまはじきにされていた、自分と同じような境遇だった彼女と親密になるには、そう時間はかからなかった。あるいはただの傷の舐めあいだったのかもしれない。
 青年はそれでもよかった。自分のことを理解してくれる者に初めて出会い、彼女と一緒にいるだけで救われるような気がして、だからこそ青年は望んだ。それ以上のことは何一つ望まなかった。ただ、彼女の傍にいたいと。
 しかし青年と彼女は、境遇こそ似てはいたが立場は雲泥の差で、それは”ただ”では済まないことだったのだ。それは分かっていたことだった。
 それでも青年は望んだのだ。だから。そんなささやかな願いすら敵わないのなら。ただひとつ、それすら手にできないのなら。

    こんな世界、壊れてしまえばいい。

 だが今の青年ではだめなのだ。まだ力が足りない。この力だけでは。もっと強い力を。もっと強い器を手にしなければ。それまでにはまだもう少し、時間がかかる。器が育たなければ意味がない。強大な力を受け入れることができるようになるまで、あともう少しだけ。その為に馬鹿馬鹿しい茶番をけしかけたのだ。
 精々、踊るがいい。青年は口の端だけ釣り上げて、小ばかにするように喉の奥で笑った。どちらが踊らされていたのかはその時が来れば、青年を闇に落とした張本人にも分かるだろう。
 青年は椅子のひじ掛けにもたれかかる様に身体を預け、再び瞳を閉じた。もう一度、愛しい彼女に会うために。





「……いま、なんか聞こえなかった?」


 火の弾けた焚火から視線を上げて、ユウが訝しそうにあたりに視線を彷徨わせた。
 他の四人はきょとんとして首を左右に振ったが、ユウはそうかな? と納得いかないような顔をして首をひねる。


「獣かなんかじゃないの?」

「いや、獣の鳴き声とはまたちょっと違うような……」

「じゃあ、気のせいでしょ」


 寝床を作りながらセリアが適当なことを言ったが、そもそも鳴き声が聞こえそうな距離に獣が居ればセリアだって気配位感じるだろう。取り合ってもらえないことに不満を感じながら、それでもユウは周囲に意識を向けてみる。

 エルフの里で意識を失ったあと、ユウたちはノアニールの宿屋で目を覚ました。見覚えのあるその宿は、里へ行く前に立ち寄って、部屋を借りた宿屋だ。しかしその時と明らかに違うのは、村が機能していたことだった。
 何が起こったのかさっぱり分からないユウたちに説明してくれたのはクリスで、クリスとアンもユウたちと同じように、エルフの女王に魔法で飛ばされてこの村に戻されていたのだと言う。彼らにはその時、この村を目覚めさせることのできる魔法の粉を持たされていた。それを使って村の機能を戻したということだった。
 先日まで不気味に佇むだけだった村人たちは、確かに活気を取り戻して何事もなかったかのように生活していた。エルフの女王に会ったことでさえ、夢だったのではないかと思える。里に迷い込んだ人間は大概がそう思ってしまうということが、納得できるような気がした。それくらい不思議な時間だったように思う。

 そうしてある程度の支度を整え、クリスとアンに挨拶してノアニールを経って、そろそろ二週間が経とうとしていた。
 ユウたちはノアニールから続く街道を東に向かい、アッサラーム地方とバハラタ地方を分断する山を沿うように、さらに続く街道を南下し、一路アッサラームを目指していた。
 流石に大きな大陸であるだけのことはあり、アリアハンの寂れた街道よりは多少なりとも機能しており、宿場町もちらほら見受けられはしたが、そうでない時はやはり野宿を強いられた。
 それでも途中でいわゆる傭兵を雇ったキャラバンなどとすれ違ったり、あるいはそういったキャラバンと野宿を共にさせてもらったり、魔物の襲撃に警戒するばかりの旅ではなかったので、小さな大陸の城下街しか知らないユウにとっては、不謹慎かもしれないが少し楽しかったりもしていた。
 それにティアラもだいぶ旅慣れて来たようで、以前に比べれば休憩する回数もぐっと減り、ずっと移動のペースも早くなった。彼女自身、エルフの里で女王と話をしたことで何かしら心境の変化もあったようだ。
 ノアニールで新調した理力の杖は攻撃にも適しているようで、非力ではあってもある程度の物理攻撃も可能になった彼女は、できた心身の余裕のおかげか、魔法だけでなく武術の稽古も合間を縫ってできるようにもなっていた。
 剣の方が扱いやすいのではないかとセリアが聞いたが、結局剣を持って振り回すには筋力的に向かないということと、匿われていたガイア神殿では体術や棒術を主に教わっていた所為で、剣はあまり使えないのだと彼女は言った。
 神殿なら確かにそうだろう。司祭や神官は剣の類は使わない。聖職者に刃物はご法度で、当然神殿の僧兵がそれを扱えるはずはない。そうなると、必然的に教わることになるのは剣以外の攻撃法になる。なので彼女の稽古は大体、レンが請け負っていた。
 なぜか時々、カンダタとも組み手をしているのを見かけるが、カンダタはカンダタで、レンとはまた違う動きをしているのがユウは気になっていた。
 短剣での攻撃を組み込んだ体術には違いないが、レンの武術ともまた少し違う。その疑問を一度カンダタにぶつけてみたが、秘密だとあしらわれてしまった。ユウが知る必要はないとも言われ、ティアラは良くて何で自分はダメなのか釈然としないものを感じはしたが、ともあれ身軽なティアラならともかく、動きのスピード的に真似できそうなほどユウは身軽ではないので、あまり深くは追及しなかった。ただでも、彼女が強くなることでパーティ全体の戦力も上がったのも確かだ。

 そうしてようやく残り数日でアッサラームに着くかという頃。その日は生憎、宿場までたどり着くことはできず、キャラバンも捕まえることができなかったので野宿となった。この時期のこの地方はうっかりすると豪雨に見舞われることもあるので、野宿には慎重を期する。この日は天候に恵まれたようで、暑さはあるが湿度はそれほどでもないので寝苦しいと言うほどでもないだろう。
 そうして寝る準備に入ったところで、ユウはふと耳をそばだてた。獣とは違う甲高い、悲鳴のような声が聞こえた様な気がしたのだ。
 セリアの言うように気のせいだったのだろうかと首をひねりはしたが、不意にセリアと同じように寝床を整えていたレンが険しい表情で顔を上げた。
 音が聞こえたわけではなく、何か気配を感じたらしく、それはセリアにもユウにも分かった。互いの表情を確認して、それが確信であることを悟り、置いてあった武器を手元に引き寄せ。


「いやぁぁぁああああ!!!!!」

「だっ!?」


 セリアとユウが剣を引き抜いて構えようとしたところで、茂みの奥から少女が絶叫にも近い悲鳴を上げながら飛び出して来たかと思うと、その勢いのままレンの腹部のあたりに頭から盛大に突き刺さった。
 無防備だった分、少女の頭突きが余計に答えたらしいレンは、うずくまるように半身をやや折り曲げはしたが、突き刺さった少女が彼の腹部にしがみ付いたままだったのでそれもできず、ひとまず悲鳴を上げっぱなしの少女を落ち着けるようにその肩を子供をやすように優しく叩いた。
 肩を叩かれた少女は驚いたように声を引きつらせ、自分のしがみ付いているものを恐る恐る確認するように顔を上げ、困ったように笑っているレンを見上げてきた。


「こんな時間にこんなところで、一人か?」


 ようやく悲鳴を上げることを止めた少女は、見上げたものが人であったことに安堵したのか、それともこんなところで人に出くわしたことに驚いたのか、きょとんとしたような顔でレンを見上げている。
 落ち着きを取り戻したことを確認したレンは、やはり小さな子供を相手にするように優しく笑って声をかけたが、少女はなぜか大きく目を見開き、そして僅かに頬を染め呟いた。


「……運命の人……」

「……ん?」

「呑気に馬鹿やってないで! 来るわよ!」


 少女のなんだかよく分からない台詞と熱い視線を受けたレンが、笑みを浮かべたまま固まる。
 その状況をあっけに取られた様に見ていたセリアが、森の奥から木々をなぎ倒しながらこちらに向かってくる何かに気が付き、抜いたまま行き場を失っていた剣を構えなおしながら声を上げた。
 セリアの声に、その場にいた全員が茂みの奥へ一斉に視線を向ける。木々の間から巨大な影が、行く手を阻んでいる木を軽々となぎ倒し、のっそりとその姿を現した。それはゆうに2メートル以上はある、大ザルだった。
 サルは野営地のたき火を見て一瞬ひるんだような仕草を見せたが、レンにしがみ付いたままの少女を見つけると、途端に牙をむきだして奇声を上げて威嚇してきた。その鳴き声の大きさに、思わずティアラが片耳を抑え、なんなのよと顔をしかめる。


「なんか怒ってるみたいなんだけど!?」


 大ザルの上げた奇声に、少女はふたたび悲鳴を上げさらにレンにしがみ付く。それを引っぺがすように、セリアは少女の襟首を容赦なくつかんで釣り上げると、少女は顔を引きつらせてそうみたいですネェ、と他人事のような台詞を吐いた。


「いやぁ……ちょーっと、寝床をお借りしようと思っただけなんですケドも……ソコに置いてあった果物が美味しそうデ……ちょっと、ホントにチョット味見をですネ……」


 おどおどとしながらしどろもどろに説明する少女を、片手で釣り上げたままのセリアが無言で揺する。とたんにバラバラと音を立てて、少女から果物が辺りに転がり落ちてきた。ぱっと見ただけでも、一体どこに隠してあったのかと聞きたくなるほどの量だ。とても味見程度とは思えない。
 うっそりとセリアに睨まれて、少女はひっと小さく悲鳴を上げて首をすくめた。これではサルでなくても怒りたくなるだろう。
 しかし今さらサルにこれを返したところで、すでに興奮しきってしまっている大サルをなだめることをもう不可能だ。現に大ザルはもうこちらに襲い掛かる一歩手前の体勢を取っていた。


「お猿さんに、罪はないけど……」

「なんか不本意だなぁ」

「だからってやられるわけにも、行かないしな」


 呆れたセリアが少女をその辺に放り投げ、しりもちをついた少女がつぶれた蛙の様な声を上げる。とりあえず彼女にケガなどはないようなので放っておいても問題はないだろう。
 とんだ尻拭いではあるが、飛んできた火の粉を払わないわけにもいかず、ティアラが申し訳なさそうに理力の杖を構える。ユウもがっかりした様に肩を落としてため息をついたが、それを慰める様にカンダタが肩を叩いて苦く笑った。
 幸い大ザルは交戦している間に正気を取り戻したのかそれとも気が済んだのか、唐突に大きく一声鳴くと、そのまま再び木々をなぎ倒しながら森の奥へと消えて行った。


「ワタクシはサリと申します! サリ=ヤカテクト、スーの村出身、十六歳になったばかりデス!」


 あばれザルを追い払い、ようやく全員で火を囲んで落ち着きを取り戻した頃、レンの腹部に突き刺さった少女が、少し訛りの入った言葉遣いで自己紹介をした。
 スーの村は北サマンオサ大陸の内陸部にある開拓村なのだと、南サマンオサ出身であるカンダタが説明してくれた。サマンオサ大陸自体が山が多く、開墾するのにはかなりの労力がいる大陸で、それでも南サマンオサは森の多い土地で土壌はかなり豊かなので農産業が発達しており、それで国の経済を賄うことが可能ではあるが、北サマンオサに至っては切り立った山が多く、未だに未開拓の土地が多く存在する。スーはそんな開拓民たちによって作られた村だ。あまりにも辺境であるがゆえに、独特の言葉遣いと文化が発達したらしい。


「十六歳? じゃあ、俺とティアラと同じ歳なんだ」

「わぁ! そうなんデスか!?」

「同じ歳ぃ?」


 感心した様に頷いたユウに少女、サリが目を輝かせる。こんな辺ぴなところで、自分と同じ年頃の人間に会えるとは思わなかったのかもしれないが、それを聞いたカンダタが胡散臭そうな顔をして不満げな声を上げた。
 なんデスか? と不思議そうに首をひねったサリの顔をカンダタはまじまじと見た後、きょとんとしたユウに視線を移し、再びサリの顔を眺め、そのまま視線を胸元まで落としたかと思うと、今度はティアラの顔をしげしげと眺めた後、サリにしたのと同じように彼女の胸元に視線を落として、もう一度サリの顔を見た。なんだか小ばかにしたように口の端をつり上げて。


「……なんデスか、その馬鹿にシタようなお顔ハ」

「いや、だって……どう見ても十六歳とは思えないだろ。顔も身体も」

「ムッキー!! 余計なお世話デスよ!? それにまだ成長期デス!! 伸びしろはありマスよ!? ねぇ、レン様!!」

「……なんで様付けなんだ?」


 カンダタの態度にサリがじっとり彼の顔を睨みつけると、カンダタは口元に手を当てて笑いをこらえる様に小さく肩を揺らしながら少女を上から下まで再び眺めた。
 確かに、と思ってしまったことはユウは顔にも声にも出さない努力はしたが、サリはユウやティアラに比べて背もかなり低く、身体つきも幼女と言ってもいいくらい小柄だ。ユウもティアラも年齢に比べたら若干大人びて見えるせいもあるだろうし、彼女の育った環境の所為もあるのかもしれないが、三人で並んだらおそらく妹かと聞かれてしまうのではないだろうか。それくらい、サリは幼く見える。
 そんなユウの感情はどうやらサリに伝わらなかったらしく、こちらを見ることもなく彼女はカンダタに食って掛かった後、瞳をキラキラさせながら勢いよくレンを振り返って何故か彼に同意を求める。
 レンはサリの勢いにやや引き気味になりながら、微妙に顔をゆがめた。彼の隣ではセリアがどこか呆れた様な顔で嘆息している。


「だってめぐり合ってしまったんデスもの……! ワタクシの運命の人に……!!」


    めんどくさいの、拾ったなぁ……。


 言いながら完全に自分の世界に酔いしれて恍惚とした表情を浮かべているサリを眺めながら、ユウは思わずそんなことを思ってしまったが、ふと仲間たちの顔を見れば、その場にいる全員がユウと同じことを思っているのだということは、火を見るよりも明らかだった。
 年齢的には夢見がちな年頃でもあるだろう。ティアラもこと、恋愛話に関してはそこそこ興味のある様子を見せるので、それはそれで年頃の少女たちの当たり前の感情かもしれないが、サリに至っては若干それが行き過ぎているようだ。


「えっと……サリは、どうしてこんなところにいたの?」


 微妙な空気の漂い始めた場の空気を変えようと思ったのか、ティアラがやや苦笑しながら肩をすくめて、どこか遠くの方へ意識を飛ばして夢を見ているらしいサリに声をかける。
 とたんにサリは弾かれた様に首と意識を現実へ戻してきたが、その勢いと剣幕にティアラも思わず身を引いてしまい、でもなんとか顔が歪むのを堪えはしたが、それでも少し顔を引きつらせながら首を傾げた。


「ハイ! ワタクシは父を探していまス!」

「お父さん?」

「父は新しい村を開拓するのダと村を出たきり、かれこれ五年ほど戻りませン。世の中物騒デスし……ワタクシもようやく成人としての一歩を踏み出しマシたので、こうして父を探すべく旅をしているのデス」


 さっきまでの明るい表情とは打って変わって、どこかしょぼくれた様に首をうなだれたサリに、ユウが小さく唇を噛んだ。
 少女の言う通りこんなご時世だ。生きて再会できるとは限らない。思いながら、ユウは自分の父であるオルテガを思い出した。
 探して会えるものではないと分かってはいるが、でも少し前の自分とは違う。旅に出るまでは、ほとんど覚えていないような父に会いたいと思うことはなかった。でも今は。


「皆サンは、どちらへ?」

「え……あ、うん。俺たちはアッサラームを目指してるんだけど……」


 顔を上げて首をかしげて来たサリの言葉に引き戻されたユウが、思わず素直に口を開き、そこまで言ったユウの脇腹を、レンがそこそこ強くひじ打ちしてきた。いい感じに肋骨に響いたひじ打ちに、何するんだよと言うように彼を睨めば、彼は余計なこと言ってんじゃねぇよとでも言いたげな表情でユウを睨みつけていた。
 ユウとしてはそんなに責められるほど悪いことを言ったつもりはなかったが。


「ホントですカ!? ヨカッタ~。実はワタクシもアッサラームに行きたかったんデス! ご一緒シマしょう!!! あぁ……やっぱり運命の人だったのデスね……」


 させて下さいどころか、しましょうと来たか。サリが再び夢見るような表情を浮かべたのを見て、早まったと思ったのは言うまでもなかった。



20161228 初稿

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蒼天の系譜 【第二幕】 ...11

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【第二幕】 エルフと盗賊


11






「女王陛下。もしかして……盗まれた宝玉というのは、ルビス様から授かったというオーブではありませんか? それも翠色の」


 ふと、エルフの女王の話を一緒に聞いていたティアラが、首をかしげながら思いつめたような顔をして声をかけてきた。その声に娘を宥めながら、彼女がそうです、と頷く。


「はるか昔、ルビス様がこの地を離れる際に遺されていったものです。いつの日か来るべきその日、その運命を背負いし者へ授けよとおっしゃられて。それ以来われらが種族で守ってきた翠の宝玉、グリーンオーブ」

「オーブだって!?」


 思わずといったように声を上げたレンをよそに、ティアラは俯いて何か考え込むような仕草を見せた後、もう一度顔を挙げて女王に視線を向けた。


「私はおそらく、あなたが愛したという人間を知っています。もし同一人物なのだとすれば……彼は、テドンという村で罪を犯して捕まっていました」

「罪?」


 訝しそうに眉間にしわを寄せた女王に、ティアラは躊躇いがちにはい、と頷いた。


「殺人です。彼は、人を殺しました」

「なん……」

「ただし、これには理由が有ります。彼はその理由を言わなかった所為で、なかなか牢から出して貰えなかったのです。言えば彼が隠し持っていたそれを、奪われてしまうと思っていたのかもしれません。そして里からオーブを奪ったのは彼ではなく、彼と一緒にいたもう一人の人間です。彼はその人間からオーブを奪い返そうと、里を出たのです」


 信じられないものを見るような、愕然とした表情を浮かべて固まってしまったエルフの長に、ティアラは記憶をたどるように視線を外して考え込むと、もう一度彼女を見据えた。


「そして追いついたテドンで奪い返す際に、誤って殺めてしまった……彼は言っていました。いつか必ず、これを返しに行くのだと。愛する彼女を傷つけてしまった、その罪も償うために、と」

「それで……彼、は」


 女王の声が震えている。いや、震えているように聞こえたのは、身体が震えている所為もあるかもしれない。それは、宝玉を奪っていったのが彼では無かったことへの歓喜のせいか、あるいはもう一度彼に会えるのではないかという期待からか、それとも何かを恐れているせいか。傍ではアンが彼女の震えをとめようとするかのように、そっと彼女の背を撫でている。
 わななく唇から息を吐くように、女王がティアラに問いかけると、少女は申し訳なさそうに、そして泣きそうな表情を浮かべながら小さく頭を振った。


「……テドンは魔物の襲撃によって焼かれました。牢は強固なものではなかったので、あるいは逃げ出すことは不可能ではなかったかもしれません……でも、おそらくは……」


 少女はその先の言葉をあえて口にはしなかったが、その表情から何を言わんとしていたのかは、その場にいた全員が理解できた。女王は自分で自分の肩を抱きしめるように腕を回し、爪が食い込むほどきつく力を込めて静かに俯いた。
 いなくなってしまっては、言葉を交わすことは出来ない。もう二度と。それはたぶん、誰もが分かっているようで、実は分かっていないことなのかもしれない。また明日、なんていうその明日が、必ず来るものとは限らないのだ。だから、伝えるということは大切なのだろう。そしてそれは、あらゆるものを繋げていく手段なのだ。想いを、絆を、あるいは意志を、未来を。
 俯いた女王は静かに肩を震わせている。もう永遠に届くことの無い想いを、言葉を抱きしめるように、自分の肩をきつく抱きしめてエルフの女王は声も上げずに涙を流し、やがて静かに顔を挙げた。


「……ありがとう、ティアラ殿。彼の最期を、教えてくれて」

「……申し訳ありません。私が……幼い私は、何も」


 涙の跡は見られてはいないが、悲しげに微笑む女王を見て、ティアラは苦しそうに眉間にしわを寄せて唇を噛み、爪が手のひらに食い込むほどに拳を握り締めて俯く。
 しかし女王は頭を振って、あなたが気に病むことはありません、と優しく笑った。


「自分を責めてはいけませんよ。でも忘れてはいけません。あなたが生き残るために犠牲になったものたちを。そしてその者たちの犠牲を無駄にするようなことをしてはなりません。あなたには、それに報いる義務が有るのです」


 女王の優しく、でも諭すような言葉に、ティアラが固まった。なぜ、と問うように瞳を丸くして女王をぽかんと見上げている。
 そしてそれは彼女だけでなく、ユウを含めたほかのパーティメンバーも同じ思いだったようで、全員が全員まったくティアラと同じような表情で女王を見上げていた。それが彼女には可笑しかったのか、ここに来て初めて品のある笑い声をあげて、パーティメンバーを順繰りに見回した。


「我々はただ閉塞的に生きているわけでは有りません。全ての人間と手を取り合って共存することはできませんが、必要ならば力を貸すくらいの心持はあります。同じ世界に生きているのですから。ですから外界の情報も把握はしています。もしかしたら、人間の一般市民よりもずっと我々のほうが現状を把握しているかもしれませんね」


 ですから、と女王は崩していた相好を引き締め、ティアラに視線を定めた。


「どうか、運命に負けないで下さい。犠牲になった人たちを、思うのなら。大切な人たちを、守りたいと願うのなら」

「どういう……こと、ですか」


 女王の言葉に、ティアラは酷く混乱したような表情を浮かべ、苦し気に息を吐きながらどうにかと言ったように言葉を吐き出した。小刻みに震える少女を女王は微かに目を細めてじっと見据えたまま、言葉を続けた。


「娘には分からなかったから、私のところへ来たのではありませんか? あなたの内に秘められたその力について。確かにあなたの力は特殊です。魔王バラモスがまずネクロゴンドへ侵攻したのは、あなたの力に関係があるのかもしれません」


 そこまで言って女王は一呼吸置き、瞳を閉じて小さく嘆息するように息を吐くと、静かに瞳を開いて再び口を開いた。


「あなたの中に存在する力は確かに精霊に近い。しかし我々が使役し、また人間が魔力の源とするものとも次元が違う……それは精霊の中でも至高の存在、いわば頂点となる者の力」


 そこまで言えばわかるだろう。女王は真っすぐ見据えた少女に、そう問いかける様に言葉を切った。
 ユウですら女王の言ったことが分かったのだから、ティアラが分からないはずはない。むしろ、この場の誰一人としてその存在を知らない人間はいないはずだ。
 この世界を創造したとされる神の一人。精霊の中でも至高の存在。全ての精霊の頂点に立つ者。それはまさに。


「精霊神……ルビス」


 誰が呟いたかは分からなかった。喉の奥から絞り出された様に呟かれた誰かのその言葉に、膝をついていたティアラの身体がふらりと揺れた。ユウは慌てて彼女の傾く身体を支えたが、彼女は真っ青な顔で自身の身体に腕を回し、震えを抑える様に両肩を抱きしめていた。
 蒼白になって今にも意識を手放してしまいそうな少女の代わりに、ユウが顔を上げて女王を見上げる。女王は痛ましそうな表情を浮かべてティアラを見ていた。言うべきではなかったと思っているのかもしれない。
 それでもそれが真実なのであれば、受け止めなければならないことだ。当たり前な事ではあるが。だから女王は彼女に言ったのだろう。運命に負けるなと。


「なぜ、とお聞きしても?」


 言葉すら失った少女の代わりに、ユウが女王を真っすぐ見上げて問いかける。ティアラを見つめていた女王はユウに視線を移し、眉間に皺を寄せて頭を振った。


「なぜ彼女の中にその力が存在するのかまでは、わかりません。ですが……ルビス様が我々の祖先にオーブを残した時の言葉。来たるべきその日、そして運命を背負いし者……今現在、世界が陥ってる状況と、彼女の力は関係ないとは思えません」


 それにあなたも、と女王はユウに向かって手を差し出した。


「同じ力を感じます。彼女ほど強くはない。でも、同じ力に守られている。どうやら運命を背負っているのは、彼女だけではないようですね……ティアラ殿」


 困惑した様に顔を歪ませたユウに女王は小さく笑い、そのままユウに支えられて今にも崩れ落ちそうなティアラにその笑みを向ける。ティアラはそれでもどうにか緩慢とした動作で顔を上げ、なんとか女王を見上げた。


「分からないことばかりで、不安や恐怖はもちろんあるでしょう。何故と思うことも。でもそれは今、考えても答えの出ることではありません。オーブを探すと言うことは、ルビス様の軌跡をたどると同じこと。旅を続け、まずはオーブを集めるのです。その先に、きっと答えはあるのでしょう」


 女王は微笑み、再び優しく諭すようにティアラに言葉をかけて行く。女王の言葉を受けて青かった少女の顔には、少しずつではあるが血色が戻ってきているようだった。受け入れがたいことではあるだろうが、それを拒んでも仕方がないことだと、彼女にも分かっているのだろう。


「だから自分を責めて、その力を忌むべきものだと思ってはいけません。それは無力を嘆くのであれば、余計に。耳をふさぎ、目を閉じて真実から目を背け、何もしないままでいるのであれば……いつまでもあなたは無力な子供のままです。大切な人たちを守りたいのでしょう?」


 微笑みかける女王はティアラだけではなく、その場に控えているパーティメンバーの顔を一人ずつ確かめるように見回し、最後にユウへと視線を定めると、まるで何かを確かめるようにじっとユウの双眸を見つめた後、ゆっくりと頷き白く細い指先で宙をなぞり始めた。
 その指先からは光がこぼれ、何も無い空間に光の文字を描くと、女王はふいにそれを払うように文字を描いていた手を振った。とたんに辺りがまばゆい光に包まれ、そのあまりのまばゆさにユウは目を開けている事ができず、思わずきつく目を閉じた。


「運命を背負うことは過酷です。各々の役割を、なぜ共にあるのかというその理由を、見失わないように。あなた方の旅の行く末に、光が有らんことを」


 遠く彼方から聞こえるようなエルフの女王の声を最後に、ユウはまばゆい光の中から闇に投げ出されるように目の前が暗くなり、そのまま意識を失った。



20161118 初稿

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