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天 球 儀

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■ 恋愛主体の一次創作が置いてあります。
■ R18指定のある作品は、18歳未満の方の閲覧はご遠慮ください。





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同じ年なのに境遇の全く違う、大学生・静と社会人・美咲の恋愛話。
(現代//大学生x社会人)



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箱庭のような世界で生きる人々の物語。
(恋愛ファンタジー//身分違い?の恋)
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| 創作 | 21:36 | comments(-) | trackbacks(-) | TOP↑

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箱庭の歌




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神が作ったとされる箱庭のような世界で、半ば捨てたような形で国を飛び出し、冒険者として流されるままに日々の生活を送るランスと、かつては彼の想い人だったはずの彼女(ていうかたぶん今も)ラティアの織りなす、そこそこドタバタ(ちょっとほろりもあるかもしれない)恋愛ファンタジー。


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ランス …大陸中を流れ歩く冒険者。24歳。

ラティア …成り行きでランスにくっついて行くことになった冒険者?22歳。

ユーリ …ランスの親友。神出鬼没。24歳。


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coming soon...


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| 箱庭の歌 | 21:20 | comments(-) | trackbacks(-) | TOP↑

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きっと君に恋をする




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大手化粧品メーカーに勤務する、美咲。見た目は可愛いのに中身は残念な、年齢=彼氏いない歴22年。
かたや最高峰の医大生、静。眉目秀麗な上に頭も良ければ金もある。故に女に困ったことはない。

だけどお互い事情があるんです。そんな二人の恋のお話。


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見城 美咲(けんじょう みさき) …大手化粧品メーカー勤務。22歳。

阿井  静(あい しずか) …医大4年生。22歳。


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| きっと君に恋をする | 21:06 | comments(-) | trackbacks(-) | TOP↑

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きっと君に恋をする ...07

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07



 目が覚めるのと同時に、美咲はベッドから飛び起きた。両手でタオルケットを握りしめ、肩で荒く呼吸を繰り返す。心臓はバクバクと音を立てて、飛び出さんばかりに脈打っていた。
 タオルケットを握りしめていた震える両手で、爪を食い込ませるように自分の両肩をかき抱き、乱れた息を整えようとゆっくり深呼吸を繰り返す。落ち着いてきたところで自分の周りをそっと見回し、そこが自分の今住んでいる部屋であることを確認して安堵するように大きく息をついた。
 久しぶりに嫌な夢を見た。汗でべったり張り付いた前髪をかき上げながら額に掌を当て、苦し気に眉間に皺を寄せながら嘆息する。
 もうずっと見ていなかった、思い出したくもない経験を再現する忌まわしい夢。おそらく静との約束が引き金になったのだろう。異性との関係を拒絶する美咲の、心の底に沈めてあるそのきっかけを、彼と関わることでほじくり返された。だから嫌だったのだ。こんな風に、特定の異性と仲良くしようとするのは。

 中学からずっと女子校にはいたが、異性と全く交流を持たなかったわけではない。確かに一時期は異性が傍にいるだけで身体が震えた。教師ですら近づいて欲しくないくらい異性が憎くはあったが、時間という薬はそれなりに有用で、異性が全部同じ人種ではないとようやく自分の中で整理がついて、中学も終わり頃になるとどうにかまともには接することができるようになった。
 だから高校時代は、友人に誘われて異性を交えて遊ぶこともあったのだ。その頃の美咲は、これならまともに恋愛ができるかもしれないと思えていた。ただそれは、美咲の外見が許さなかった。
 背はそこまで高くなく、体型もモデルのように細いわけではない。標準より少し細いくらいの、いいとこ雑誌を飾るグラビアアイドル並と言ったところか。ただ顔はとにかく良かった。下手なグラビアアイドルやモデルなんかに引けは取らないくらいだ、というのは美咲の数少ない親友や目をかけてくれる先輩たちの表現なのだが、ちょっとしたグラビアアイドル並みの体形とそれ以上の顔立ちで、むしろグラビアアイドルやモデルなんかよりもよりも敷居の低い一般人の女子を前に、年頃の男子が黙っているはずはなかった。
 遊びに行く先々で美咲ばかりがちやほやされる。当然そうなれば周りの女子は面白くない。やっとどうにか異性と会話ができる様になった程度の美咲に、寄ってくる男子を簡単にあしらうことなどできようはずもなく、一部の女子グループから反感を買う羽目になった。
 しかもその一部の女子の彼氏が、あるいは好意を寄せている男子が、美咲にちょっかいをかけて来たのだ。
 美咲もさすがに彼女持ちや他の子が好意を寄せているような男子を相手にする気はなかったが、あしらい方が分からなかった。思わせぶりな態度を取ったつもりもなかったが、相手からすればそう見えたのだろう。あるいは相手が空気を読めなさ過ぎたのか、諦めてくれなかった男子に襲われそうになった。
 幸い未遂で済んだものの、それをきっかけに美咲は学校でほぼ孤立状態になってしまった。いじめと言うほど壮絶でもなかったが、少なくとも学校が楽しいと思えるような生活でもなかった。せっかく薄れていた異性への恐怖心も再び強くなり、それと同時に過去の体験を再現した夢も見るようになった。夢の中で繰り返されるそれを何度も見るのもしんどかったが、自分にまともな恋愛なんかできるわけがないのだと突きつけられている気がして、それが何より辛かった。

 一時は人間不信になるのではないかという状態にまで陥りはしたが、一部の友人と先輩である関若菜の助けでどうにかそれは免れた。
 何をするにも反感を買うのであれば、そうならないように立ち回れるようになればいい。そう言って美咲を鍛えてくれたのは若菜だ。彼女は兄弟が多い中の一番上という立場もあって面倒見がよく、美咲も妹同然によく目をかけて見てくれていた。今の美咲を作ったのは若菜だと言ってもいいと美咲は思うが、若菜はこんな風にするつもりじゃなかったと時々嘆いていたりする。
 でもだからって、誰かを好きになりたいという気持ちが全くなかったわけでもない。確かに異性に関わることで同性からも反感を買いはしたが、周りで楽しそうにしているカップルや友達が羨ましいと思うことだってあった。
 ただ特定の異性と仲良くしようとすると決まってあの夢を見る。それは幼い頃や高校時代の出来事が植え付けた、異性への恐怖心や懐疑心からだと分かってもいる。分かってはいるが、それを解決する方法が美咲には分からなかった。
 親しい人の相談したところで彼女たちは女性としての憤りは感じてはくれるが、当事者ではないのでどこか他人事でもある。それが悪いとは思わないし、みんな親身になってくれるのでそれは有り難いと思いはすれど、心のどこかでは所詮他人事なんだと冷めた目で見ている自分もいる。
 かといって異性になんてもっと言えようもなく、だから美咲は恋愛することを諦めた。そういう想いを持たなければ面倒なことに巻き込まれることもないし、そういう想いに振り回されることもない。そんな風に割り切って諦めてきた結果、親しい人間以外から見ると冷たそうな印象を持つ今の美咲が出来上がった。
 でも美咲は今の自分を気に入っている。当たり障りなく、適当に人付き合いをして適当にやり過ごしていけるのは楽だ。踏み込んで傷つけたり傷つけられたりすることもないし、他人に不必要に干渉されることもない。特定の異性を相手にすることでいらない反感を買うこともない。そして何よりあの夢を見ることがほとんどなくなったことが一番快適だった。結局、諦めてしまうことが一番楽なのだ。

 ようやく落ち着きを取り戻して携帯で時間を確認すれば、起床時間間近だった。数分経てば鳴り出すタイマーを切ると、美咲はベッドから抜け出して汗でべたつく肌を流そうとバスルームへと足を運んだ。
 手短にシャワーを済ませ、適当に朝食を取ってから出社の支度へと移行する。クローゼットからパンツスーツを引っ張り出そうとしたところで、今日は静との約束の日だったことを思い出した。
 今日は特に外を回る予定はないので、こんなカッチリした格好でなくてもいい。静は学生で、会うたびにそれなりにこぎれいな格好をしてはいたが、やはり学生然とした格好だった。それを考えれば今日もそんな感じで来るだろうことは想像に難くない。対する美咲がいかにも社会人体とした格好をして一緒に居たら、きっとあまりにも不自然だろう。釣り合いを考えたら、もうちょっとラフでもいいかもしれない。
 幸い美咲の会社は、特に服装の規定はない。せいぜい、勤め人としての尺度を守る範囲での恰好というくらいだ。だから見た目がそれなりならば、ジーンズでも構わない。さすがに社外に出る人間にそれは許されないが、会社内で仕事をしている分には特にうるさくはなかった。
 引っ張り出そうとしていたスーツから手を離した美咲は、そのままクローゼット内にあるタンスの引き出しに手をかけてスーツ以外の服を吟味し、やや学生時代を意識した、でもギリギリで社会人らしく見えそうな服装で出社し。


「なにあんた、デートでも行くの?」


 出社直後に顔を合わせた若菜に、思いっきり訝しそうな顔をされた。


「デートじゃないです。ちょっと約束があるだけです」

「その割には、なかなか気合入った若作りね」

「……年相応の恰好のつもりなんですけど」


 感心した様に頷く若菜を恨みがましく睨むと、彼女は冗談よと笑ったが、果たして冗談だっただろうか。じっとりさらに恨みを込めて睨みつけたが、若菜はそんな美咲をものともせずに、でも、と言葉をつづけた。


「ホント珍しいカッコじゃない?」

「そうですか?」


 なぜかどこか嬉しそうにする若菜に、美咲が椅子に座ったまま自分の服装を確認するように視線を落とす。
 無難に無難にと呪文のように呟きながらさんざん悩んでクローゼットから引っ張り出してきたのは、ネイビーのチュールスカートにボーダーのトップス、それにクーラーや日焼け対策用にカーディガンを羽織るというコーディネイトだった。美咲の職場では割と誰でもしていそうなごくありふれた、いわゆるフェミニン系のファッションだ。


「いつも動きやすそうな恰好しかしないでしょ? コンサバっぽい感じが多いっていうかさ。ふんわりした感じのカッコってあんまりしないから、なんかちょっと特別なのかなってさ」

「とくべ……そういうのじゃないですから!」

「え、なに、なんで急にムキになんの?」

「なんでもないです!! ホントにそういうのじゃないですからね!?」


 きょとんとしたような顔で首をかしげてきた若菜の言葉に美咲は一瞬絶句し、すぐに眉間の皺を深くしてきっぱりと否定した。
 その力の入りように若菜は肩をびくりと引っ込めて訝しそうな顔をしたが、美咲は念を押すようにもう一度力いっぱい否定して勢いよく席を立った。
 どこに行くのかという若菜の問いかけに、給湯室です! と若干声を荒げながら美咲はフロアを大股で横切って給湯室に向かい、自分のマグカップを棚から取り出してサイフォンからコーヒーを注ぎ込む。ふんわりと漂ってくるコーヒーの香りにようやく落ち着きを取り戻し、ふっと短く嘆息した。
 若菜の言葉に思わず動揺はしたが、別に特別なんかではないのだ。動揺してしまったのはきっと、今朝見た夢の所為だ。特別ではなくても、関わりを持ってしまったせいで心の底に押し込めてあるものの蓋が開いてしまったから。
 今日の格好だって釣り合いを考えただけなのだ。静はいつもシンプルな格好をしてはいるが、着ているものはかなりハイブランドなものだった。それこそメンズ雑誌のモデルが雑誌から出てきたような、そういう出で立ちをしている。その隣で美咲が場違いな恰好をしていたらそれこそ目立つ。悪目立ちするよりは、釣り合いが取れた格好をしている方が目立たなくて済む。ただそれだけの話だ。
 ただ若菜に説明したところで、それを特別というのだと切って捨てられそうな気がした。美咲の中では合理的な事だと思っていても、他人がそう思ってくれるとは限らない。変に勘ぐられたりしてもめんどくさいので、説明はしない。
 面倒ごとは増やさない、抱え込まない。誰かを傷つけることもしないし、誰かに傷つけられることもされたくない。期待すれば裏切られた時の絶望感は大きくなる。だからはなから期待はしない。そうやっていろんなものを諦めて、無難に人生をやり過ごす。それが美咲に生き方だ。今も、これから先も、美咲はそうして生きて行くつもりでいる。
 つまらなくないかとか寂しくないかと若菜には聞かれるが、つまらない面倒ごとを抱え込んで辛い思いをするよりはよっぽどいいと思う。今までずっとそうして辛い思いをしてきた分、余計に無難に生きていきたいと思うのだ。美咲は二十二年生きてきた中で、今が一番幸せだと思っている。それでいいのだ。
 ぼんやりとマグカップから立ち上るコーヒーの湯気を見つめてそんなことを考えながら、何故がふと静の屈託のない笑顔を思い出した。何故このタイミングでその笑顔を思い出したのかわからない。静の色んな、それこそ底意地の悪そうな笑みから困ったようなものまで、様々な笑顔を見てきたはずなのに、どうしてか先日カフェで会った時の別れ際に見せた、あの少年のように笑う顔だけが脳裏に浮かんできた。
 その笑顔を思い出したらなんとなく、胸が小さく締め付けられるような苦さを覚えた気がしたが、眉間にぐっと皺を寄せて不快感を振り払うように美咲は頭を振ると、カップの中身を煽って胸に宿った苦さをコーヒーの苦さで誤魔化すように飲み下した。



20160814 初稿

| きっと君に恋をする | 07:00 | comments(-) | trackbacks(-) | TOP↑

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きっと君に恋をする ...06

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06


 違うんだよなぁ。コーヒーチェーン店の窓際でタブレット端末の画面を眺めながら、美咲は嘆息してうなじを撫でた。イラつくと出る彼女の癖だ。昔は髪をかき回したり頬を掻いたりしていたが、メイクをするようになってからは崩れの気にならない部分を撫でる程度になった。
 美咲の仕事は自社製品の売り込みや企画の持ち込みだ。営業職は会社の顔。その顔が崩れでもしていたら目も当てられないので、学生時代以上に顔周りには手をかけている。
 今日もこれから、秋冬向けの新作のリップを有名雑誌で取り上げてもらうためのプレゼンへ向かう予定で、他社の営業へ回っている若菜との待ち合わせ中なのだが、その間に印刷の色サンプルのチェックをタブレットでしていたところだ。
 画面で見るのと紙に印刷して見るのとでは色味も見え方も違うものだとは分かっているが、それでも画面に表示される色に納得がいかない。このまま印刷してもきっと納得のいく色にはならないだろう。どうせ売り込むなら完璧な形で持っていきたい。
 特にリップは口元を飾るために使うもので、人の目も引きやすい。選ぶ側も当然、そういうことも考慮して購入していく。しかも美咲の勤めている化粧品会社は業界では大手で、それなりに値の張るブランドだ。試しに使ってみよう程度の気持ちで購入する消費者は稀だからこそ、使いたくなるような商品でなくてはならない。贔屓してくれる顧客だけでなく新規の顧客の獲得のためにも、やはり完璧に近い形で売り込んでいきたいのだ。
 納得のいかない形のものを、先方に売り込むことは美咲にはできない。まだ新人だから頭が固いと言われてしまえばそれまでではあるが、商品の魅力が最大限発揮できない状態で何を売り込めと言うのか。
 若菜が来たら相談だな。タブレットを閉じてため息をつき、すでにほとんど氷の溶けてしまったアイスコーヒーに手を伸ばしながら顔を上げると、ふいに騒がしい集団が目に入った。若い男女が入り混じって結構な音量で話をしている。年恰好からおそらく学生であろうことは判断できた。
 美咲も社会人になってまだ半年程度ではあるが、やはり学生は学生だなと思う。構内と同じノリを公共の場に持ち込む彼ら。自分の学生時代もあの集団と同じようなもので、傍から見たらこんな風に見えていたのだろう。こうして客観的に見てみると、なんともやかましい集団だ。もちろん、学生がみんなそんな風ではないとは分かってはいるが、悪い部分というのは目立ってしまうものだ。
 思わず苦笑いして手を伸ばしたアイスコーヒーのストローを咥えた瞬間、見覚えのある男子学生と目が合った。しまったと思って瞬間的に目を反らしはしたが時すでに遅く、目の前の席に人の気配を感じてそろそろと視線を向ければ、美咲の顔を覗き込む様に静が座っていた。


「やっぱ見城だ。こんなとこで何してんの? サボり?」

「学生じゃあるまいし、そんなわけないでしょう」


 なんだその講義をさぼって時間をつぶしてるみたいな言い方。そんな暇そうに見えたか。ちょっと眉間に皺を寄せてムッとした顔をした美咲に、だよなと静は笑った。分かってて言ってるのが、余計に気に障る。
 相手にするもの面倒なのでそのままふいと視線をそらせたが、そらせた視線の先には女子学生が立っていた。美咲を睨む様に眺めてくるその視線に、静に対する感情が伺える。これは面倒なことになる予感しかない。


「友達と来てるんでしょう。戻ったら?」

「相変わらずそっけないなぁ。雰囲気違うから別人かと思って確認したかったんだよ」

「は?」


 そらした視線を思わず戻して訝し気な顔をする美咲を指さしてメイク、と静が首をかしげて指摘してくる。


「こないだと違うから、印象も全然違うなと思って」


 指摘されたことに美咲は思わず絶句した。よくもまぁ、見てること。確かに合コンの時は目立ち過ぎず、でも野暮ったくなくそこそこ可愛く見える程度の、なるべく無難で地味目なメイクだった。今日は仕事でしかも外回りだったので、自社ブランドを売り込むためのメイクだ。派手ではないがきちんとはしていた。メイクの仕方自体が違うので、印象が違ってくるのも当然ではあるが。


「確認できたならもういいでしょ」


 だからそこに立って美咲を睨みつける女子学生を連れて、どこへなりとも行ってくれ。値踏みするような、それでいてけん制するようなその視線をいつまでも受けていたくはない。変な誤解を受けるのも、勘違いなやっかみも御免だ。
 呆れた様に嘆息して再び視線をそらせた美咲を確認した女子学生が、静の腕を引きながらもう行こうよ、と鼻にかかった甘ったるい声を上げる。可愛らしさを装おうとしているのは分かるが、作り過ぎじゃないか。女子学生を横目にしながら美咲は思わず苦笑した。
 流行りのメイクに流行りのファッション。髪もふんわり緩くまとめられて確かに今時の学生ではあるが。

    あぁ、そのアイメイクでそのチークは濃すぎるんじゃない? リップも悪目立ちしてるし、流行りを全部取り入れればいいってもんじゃないと思うけど。

 おそらく地は悪くないのだろうが、それを似合わないメイクで潰してるという印象。そんなことを考えてしまうあたりは職業病だ。
 美咲は女の園で育ってきた分、そういう部分で学ぶ機会はたくさんあったが、メイクを覚えたばかりの学生ならこんなものだろう。ここが自社の店頭ならもうちょっとアドバイスなりしてあげられるのだが。
 横目で伺っていた美咲の視線に気が付いたのか、女子学生が髪の色と同じ明るい茶系の眉毛を眉間に寄せて再び美咲を睨んできた。しまった、ガン見しすぎたか。肩をすくめて視線をそらせたところで、女子学生が再び甘ったるい声を上げた。


「だれ、このケバイ人」


 一瞬誰の事を言われたのか分からず、美咲は思わずきょとんとしてしまったが、彼女の視線でそれが自分のことだと気が付き眉をひそめる。
 ケバイ? 今、ケバイっつったか。ケバイっつーのはお前さんみたいなメイクしてる人間のことだよ。喉まで出かかった言葉をどうにか飲み込みはしたが、顔は引きつっていたかもしれない。美咲のメイクは遊び半分のおしゃれの為のメイクではない。仕事の為に作り上げた、言ってしまえば戦闘服ならぬ戦闘メイクで、美咲の意気込みであり自分に自信をつけるための仮面みたいなものだ。それを女のひがみ程度でケバイで片づけられるのは心外だ。
 受け流せばそれで済むことではあるが、ポリシーを持っていることに対して馬鹿にされて黙っていられるほど美咲も大人ではなかった。あからさまにムッとした表情を浮かべ、似合わないメイクで人を小ばかにしたような表情を浮かべている女子学生を鋭く睨もうとして。


「なんで? 綺麗じゃん、見城のメイク」


 出鼻をくじかれた。目の前の静が美咲より早く、しかも流すように女子学生の言葉を否定した。これには美咲も思わずぽかんとしてしまったが、自分の言った言葉を完全に否定された女子学生も愕然とした顔をした。しかし静は気にする様子もなく、再び美咲に視線を戻して笑った。


「ちゃんと大人らしい、きちんとしたメイクだと思うよ。俺は。俺たちみたいな学生と違って社会人してるって感じがする」


 それは    すごい殺し文句だ。メイクを褒められる機会はありはするが、そんな風に同年代の、しかも異性に言われ慣れないことを言われて美咲は思わず固まった。そんな風に言ってもらえるとなんとなく大人として、社会人として認められたような気になる。しかも、ちょっと嬉しいとか思ってしまったが、それが大人らしいと言われたことに対してなのか、それとも静が美咲をかばってくれるような発言をしてくれたことに対してなのかは判断できない。というか後者を認めたくは正直ないが、でもおそらく両方なのだろう。認めたくはないが。
 どうしていいか分からなくて、目を見開いたまま固まってしまった美咲を見た静はなんだかおかしそうに笑い、じゃあ、と席を立った。


「またな」


 言いながら彼はひらひらと手を振り、愕然とした顔のまま美咲と同じように固まってしまった女子学生に行くぞとだけ声をかけて席を離れて行った。
 その後姿を見送りながら、美咲は思わず手の甲で片頬を抑えた。店内はエアコンが効いているはずなのに頬が熱い。どうせ口説くための口上くらいでしかない。そう頭で考えはするのだが、気持ちが揺らぐ。こんなことで、なんで。
 眉間に皺を寄せて胸の奥で疼いた気がする熱を、気のせいだと言い聞かせながらふと視線を感じてそちらの方に顔を向ければ、女子学生が恨みがましく美咲を睨みつけ、ぷいと顔を反らしながら身体を反転させてさっさと先に席を離れて行ってしまった静の後を小走りで追いかけて行く。そんな彼女のどことなく悔しそうな顔を見て、美咲自身は何もしていないハズなのになぜか勝った様な気分になった。そんな気分になって、でも面倒なことに巻き込まれてきたことに気が付いて、長々と息を吐きながら思わずぐったりとテーブルに突っ伏す。
 あの女子学生は明らかに静に好意を持っている。美咲と彼に対するあからさまな態度の違いを見れば一目瞭然だ。そして他人の恋愛に首を突っ込むことが、決していいことにならないことも美咲は嫌というほど知っている。だからこそ巻き込まれないように、巻き込まれないようにと生きてきたのだ。恋愛ごとは傍観して、適当に話を聞き流しているくらいがちょうどいい。自分がその立場になるのは、まっぴらだ。
 だから美咲は自分の胸の中で何かが燻る様な感覚を覚えはしたが、それを振り払うように小さく頭を振った。
 週末の約束が終わったら、それで本当に終わりにしたい。後は学生同士で好きにやってくれればそれでいい。そうやってやり過ごしていけば、きっとこんな感覚は消えていくだろう。そうしてまた、淡々とした日常に戻って行けばいいのだ。そうやって考えながら、それでも静の自分に向けた言葉と笑顔が脳裏に焼き付いて、いつまでも消えてくれることはなかった。



20160703 初稿

| きっと君に恋をする | 06:00 | comments(-) | trackbacks(-) | TOP↑

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